公益財団法人 大原記念労働科学研究所
公益財団法人
大原記念労働科学研究所
The Ohara Memorial Institute for
Science of Labour

システム安全研究グループ

研究グループの特色

ヒューマンファクターの観点から、現場の安全問題の解決を図ると共に、研究成果の現場へのフィードバックを以下のような形で行っております。

  1. 研究・調査の立案段階から現場の人達とチームを組んで取り組む
  2. 得られた成果は現場にフィードバックし、その妥当性を検証する
  3. 成果の浸透・定着化のために進んで現場教育を支援する
  4. 常設的に現場とチームを組み、近未来の働き方について議論・検討を行なう
  5. 短期的問題解決のため常設窓口を設け、コンサルティング・調査を行う

 

研究者

グループの研究課題

人とハードシステムに関わる問題

最近のシステムや機器は、入出力接点においてのみ「使う人」との関わり合いが考慮され、その内部メカニズムはブラックボックス化しています。つまり、システムの論理が優先されるばかりに入出力インタフェースに関し、人の感覚・知覚・認知等に馴染みの薄い設計が顕在化しています。その結果、通常のオペレータにとってはトラブル対処が困難な事となるばかりか、メンタルスキル・操作スキルの獲得や伝承の点において、いくつかの問題を発生させています。このような作業条件と、そこで働く人達の生理・心理的世界とのミスマッチの問題を追究しています。

人と人との関わりの課題

高度に自動化された作業システムに伴う情報は、人間の情報処理プロセスにそぐわないものが多くなっています。したがって、コンテクスト(システムが要求する文脈に沿った流れ)を共有しない限り、情報伝達エラーが発生する確率が高くなっています。この新しいエラー要因に加えて、従来からの要因である、世代・キャリア・教育などの共通性が確保されないメンバー間ではいつでもコミュニケーションエラー(ヒューマンエラーの王様)が発生する可能性があります。この問題にも早急な対策が必要とされています。

人の内面に関わる課題

情報と価値観の多様化の時代を向かえて、若者のみならず、自己中心的な価値観を持つ人が多くなっていると言われています。またその逆に、社会との関わりを忌避し、自己の殻に閉じこもりがちな個人も輩出されているとも言われています。このような人達が、伝統的なロジックで動いている職場に配置されている現状を見ると、彼ら自身だけでなく受け入れ側においても様々なフラストレーションが発生しています。これらは労働の価値観などを含めて、多面的なアプローチが必要とされるテーマとなっています。

組織・マネジメントに関わる課題

「安全」に対するヒューマンファクターの観点に加え、最近では、システム全体をマネジメントする組織の機能的問題(経営・管理的問題)も解決を急がれる課題として要請が多くなっています。組織の中に潜んでいるリスクをマネジメント層がどの様に検知・認知するのか、そしてこの認知されたリスクに対してどう処置すべきであるかが、要請の中心課題です。このような組織としての問題解決や意思決定のメカニズムの問題も、我々は喫緊の課題としてフォーカスしています。現在、このような経営・管理的な問題によって引き起こされる事故は、特に「組織事故」と呼ばれています。

 

重点研究課題

ヒューマンファクターの視点に立った安全確保のためのシステム構築

従来から行われてきた技術的対策と人的対策により、確かに産業事故は飛躍的に低減しました。しかし、未だ従来の対策では低減しえない部分が取り残されており、新たな視点の導入が急がれています。このような状況の中、最近では組織を取り巻く外部環境や組織の文化、さらには組織の経営管理上の問題などにも研究の焦点を当てることが社会的ニーズとして寄せられています。なぜならば、このようなマクロな組織内外要因こそが設備の不具合やヒューマンエラーといった顕在的な過誤を誘発していることが顕在化して来たからです。このような動向を踏まえ、我々は組織の安全文化レベルを測定するためのツールの開発や広範な組織内外要因により引き起こされる産業事故の発生プロセスを明確化することに取り組んでいます。また、各産業分野の特殊性やシステム毎の特性を前提とした事故分析手法の確立を試みています。そして、これらの検討プロセスを経て、安全管理の新たな枠組みを提供し、実効性の高い安全対策の立案手順を提言したいと考えています。

  • 組織の安全文化評価ツールの実用性の検討
  • 産業事故発生プロセスの解明のための組織信頼性評価とその方法の検討
  • 業務特性を踏まえたトラブル・インシデントに関する情報収集・分析システムの実効性の検討

 

最近の主な研究課題と研究成果

  1. プラントオペレータのチームワーク力向上の施策立案
  2. 緊急時におけるヒューマンファクターの認知心理学的研究
  3. ロシア原子力発電所運転員の安全教育教材の開発と実施
  4. ヒューマンファクタに関する教育プログラムの開発と実施
  5. 組織開発および安全文化に関する教育プログラムの開発と実施
  6. 災害防止に関わる情報収集と解析手法の開発と実施
  7. ヒューマンエラーによるトラブル事例の原因調査分析と対策の立案
  8. 安全文化評価支援ツールの開発と実践
  9. 組織事故モデルの開発と実践

 

参考文献

  1. 井上枝一郎, 細田聡「組織と個人とヒューマンエラー」大山正他編「事例で学ぶヒューマンエラー」麗澤大学出版会.2006
  2. 井上枝一郎,「組織文化の醸成と事故・災害の防止」電気評論,2006;91(5)
  3. 井上枝一郎「企業倫理と安全文化」労働の科学、2006;61(12)
  4. 菅沼 崇、細田 聡、施桂栄、井上枝一郎「組織事故モデルによる事例分析の試み」労働科学、2006;82(2)
  5. 井上枝一郎、「労働科学研究所が進める中国との国際協力」労働の科学;2006:61
  6. 余村朋樹、細田聡,施桂栄、奥村隆志、三島斉紀、小山、井上枝一郎,「原子力発電所の職場における繁忙感について」第22回産業組織心理学会大会論集 2006
  7. 奥村隆志、余村朋樹、細田聡,施桂栄、三島斉紀、小山、井上枝一郎,「産業組織体における安全文化の経時変化の把握」第73回日本応用心理学会大会論集 2006
  8. 菅沼崇、細田聡、施桂栄、井上枝一郎「組織事故モデルによる事例分析の試み」、労働科学、2006、82(2)
  9. 井上枝一郎、「最近の労働災害の特徴について」法政大学大原社会問題研究所雑誌2005(549)
  10. 井上枝一郎(編著)、細田聡、「心理学と産業社会とのかかわり」八千代出版、2003.
  11. 井上枝一郎 「産業事故とその調査方法について」労働科学、2017;93