公益財団法人 大原記念労働科学研究所
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大原記念労働科学研究所
The Ohara Memorial Institute for
Science of Labour

働く人の多様性研究グループ

職場環境改善を通じたメンタルヘルス対策~職場ドック事業の取り組み~

公益財団法人大原記念労働科学研究所研究部
働く人の多様性研究グループ
更新2014年5月15日

職場ドックとは

女性医師1

「職場ドック」は、働きやすい環境づくりに向けた職員参加型の職場環境改善活動です(文献1-3)。2011年に高知県総務部が労働科学研究所の技術協力を受け、職場環境改善を通じたメンタルヘルス一次予防対策の取り組み事業として開発したプログラムです。2014年現在、高知県から北海道、京都府等に広がり、各自治体の特徴にあわせた職員メンタルヘルス対策のひとつとして進められています。「職場ドック」は科学的根拠に基づく職場における心理社会的要因のリスクマネジメントの研究成果(文献4)などに基づいてプログラムが開発されています。(「職場ドック」のネーミングは、定期的に身体のメンテナンスををする人間ドックのように、職場も職場を作っている仲間同士で時々は点検しようね、との願いから名付けられました。詳しくは高知県の取り組みの記事をご参考ください。)

職場ドックの6つの特徴

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「職場ドック」は、働きやすく、いきいきとした職場つくりとして、次の6つの視点を取り上げているところに大きな特徴があります。
1)職場の問題点ではなく、職場の職場のよいところ(職場の強みや働きよさ)に目を向けること、2)職場の同僚が半数以上参加して意見交換の場面(話し合い)を設定すること、3)労働時間や作業編成、人間関係、公平でやりがいのある職場つくりなど、幅広く職場環境をみわたせるように良好事例集やアクションチェックリストなどのツールを活用すること、4)すぐできることから始め、段階的な改善を進めること、5)報告会で成果を交流する機会を持ち、メンタルヘルス対策の年間計画に位置づけ、PDCAサイクルとして取り組むこと、6)産業保健スタッフなど保健の専門家が支援チームに入ることなどを特徴としています。
「職場ドック」は、多岐にわたるメンタルヘルス対策のうちでは一次予防の取り組みに位置づけられます。また、「職場ドック」は各自治体や、各企業の特徴にあわせて、ヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)の改変や現地化、各職場の良好事例の活用がふんだんに行われていることも、ユニークなプログラムです。これまで、高知県、北海道、京都府など、各地域の特徴に合わせて様々に開発展開が進んでいます。

職場ドックの取り組み事例

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「職場ドック」は年間計画のなかに、本事業を位置づけて取り組むことで各職場の負担感を軽減します。「職場ドック」を導入した自治体では、定期的に管理職研修などでメンタルヘルスと職場環境改善の意義について学ぶ機会を設けています。年度始めの5-6月には、各職場でリーダーを選出し、3-4時間からなる「職場ドックリーダー研修会(各職場で名称は異なりますが)」で職場ドックリーダーの役割と一年間の取り組み内容を学びます。

具体的な各職場でのワークは以下の手順です。

本年度の職場ドックの対象職場となった職場では、職場の仲間(上司・同僚)と職場の良い点(私たちの職場のよいところ)を確認しあい、次に、職場で優先的に改善したいを内容を洗い出して、夏から冬にかけて提案された改善内容に取り組みます。職場で話し合う前に、各自が「情報の共有化」「執務内環境の整備」など6領域からなる職場環境改善の目のつけどろとなるヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)を記入して、時間のあるときに、各自が職場の良い点、改善点を整理しておきます。

次に、係内や課内での朝会や定例会議の場面を設定して、リーダーがサポートしながら、各職場で話し合い(グループワーク)の機会を持ちます。その際、1)すでに職場で働きやすい職場つくりのために役立っていること3つ(働きやすさをもたらしているもの)、2)改善したい点(働きにくさをもたらしているもの)をセミフォーマルな形で討議します。管理職は、意見交換では無理に参加せず、取り組みを暖かく見守る立場です。検討会で整理された改善提案を、今度は管理職が加わり合意形成して、夏から秋にかけて実際に改善に取り組みます。

年度末には、各職場で実施された改善例を報告する機会が設けられます。取り組んだ成果を確認し、互いに認め合える機会です。高知県では、優れた職場ドックを行った職場が知事により表彰する仕組みで運用されています。京都府は知事が参加する報告会(京力グランプリ)で発表されています。北海道では、各振興局の取り組みを互いに報告しあうテレビ会議が設定されています。

事務局がすでに行われた事例を改善事例集として冊子にまとめ、参考資料として各職場に配布しています。たとえば、高知県の具体的な取り組みとしては、前々から片付けたいと思っていた職場は職場ドックを機会に整理整頓・不要物の処理に取り組み気持ちよい職場になった、職場の席替えやレイアウトの変更をこの機会に実施した、会議の改革をして業務効率が上がった、定時退社日のボーリング大会を企画して仲間意識が高まった、顧客(県民)からのクレーム対応の手順改善して不要なストレスが軽減した、地震や不測の事態に対する緊急時の対応方法の検討などを行った、など多岐にわたります(参考、全国知事会:先進政策バンク:新たなメンタルヘルス対策「職場ドック」による健康推進)。取り組んだ職場では、職場の風通しがよくなった、コミュニケーションが向上した、残業が減って家族との時間が増えた、仕事効率のアップしたなど、メンタルヘルスと職場の生産性によい影響を与えています。

職場ドック事業の強みは、これまでなかなか取り組みにくかったメンタルヘルスの一次予防活動を、簡便に、かつ効果的に進めることができているところにあるといえます。

参考:

  • 高知県の「職場ドック」のニュース記事
    「職場ドック」でストレス軽減図る 高知県庁、組織を挙げて改善事例を共有(日経ビジネス2014年4月25日)
    コミュニケーション活性化の優れたツール・「職場ドック」(地方公務員「安全と健康」フォーラム2014.4 記事 PDF)
  • 全国知事会:先進政策バンク
    新たなメンタルヘルス対策「職場ドック」による健康推進
  • テレビ東京:ワールドビジネスサテライト(2012年12月)
    企業のメンタルヘルス対策:ワールドビジネスサテライト:テレビ東京
  • 高知県 「職場ドック」で働きやすい職場環境改善 (ヘルスアップ21 2014年3月号 記事)
    京都府、職場改善リーダー養成へ 職員「心の病」対策

文献

  • (文献1)杉原由紀.産業医の声:「元気な県庁」へ~職場ドックの取り組み~.産業医学ジャーナル.2011;34(5):86. (平成23年9月発行)
  • (文献2)矢部美根子、吉川徹.高知県庁が取り組む「職場ドック」のめざすもの-いきいき職場は心とからだの健康健康から「元気な県庁」へ-.産業看護 2012; 6(4): 20(570)-26(576).CiNii 産業看護2012.6
  • (文献3)杉原由記.みんなで楽しくすすめる働きやすい職場づくり 高知県庁における「職場ドック」の取り組み:GP広がる良好実践(21).労働の科学 2013;68(2):36-40.
  • (文献4)吉川徹、小林由佳、土屋政雄、小木和孝、杉原由紀、吉川悦子.科学的根拠によるEBM ガイドライン開発:職場環境等の評価と改善の普及・浸透(3 年目)職場環境等の評価と改善マニュアルの作成・好事例の収集.厚生労働省厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業「労働者のメンタルヘルス不調の第一次予防の浸透手法に関する調査研究」p211-248.
  • ○平成23年度総括・分担研究報告書 (64MB):p223-235に「科学的根拠に基づくメンタルヘルス対策ガイドライン」が掲載されています。

Participatory Workplace Environment Improvements for Managing Mental Health in Diverse Workplaces

Kazutaka Kogi1), Yuki Sugihara2), Toru Yoshikawa1), and Mineko Yabe2)
1) Insitute for Science of Labour, Kawasaki, Japan;
2) Employee Welfare Division, Kochi Prefectural Government, Kochi, Japan

Aim: Within the mental health project for prefectural employees, a new participatory program for workplace environment improvements, named "Workplace Dock", was undertaken by facilitating immediate workplace actions in their diverse workplaces. A particular emphasis was placed on facilitating primary prevention of work-related stress in each workplace with the support of facilitators and an action toolkit.

Methods: An action toolkit for workplace environment improvements was developed by incorporating examples of local good practices, an action checklist listing workplace actions for improving stress-related conditions and a manual on group planning of feasible improvements adapted to each workplace. A participatory program for improving workplace environment in most workplaces of prefectural employees was conducted in fiscal years 2010 and 2011. In each fiscal year, a one-day workshop for volunteer facilitators selected from participating workplaces was held, and plans for improving the workplace environment within a few months were presented from each workplace to the program managers. The results of actions taken were presented in an achievement workshop. Their effects on stress reduction were then assessed.

Results: From among 166 workplaces that participated in the program, 228 improvements were reported from 140 workplaces (84%) in fiscal year 2011, and 273 improvements from 157 workplaces (95%) in fiscal year 2012. These improvements covered the six technical areas of the action checklist: (a) sharing information, (b) working time arrangements, (c) ergonomic work methods, (d) physical environment, (e) mutual support and (f) mental health care. Typical improvements included better information signs, sharing files, securing no-overtime days and resting periods, organized storage, changing work-table layout, improved manager-worker communication and renewed emergency plans. A number of these workplaces involved workers actively in the planning and implementation of multiple improvements, resulting in improved workplace climate. The action toolkit and the workshops proved useful for facilitating the wide-ranging improvements with real impact on stress reduction in different work settings. The factors contributing to the implementation of these improvements included the participatory process accelerated by trained facilitators, the use of the locally adapted toolkit with an easy-to-apply checklist, the focus on locally feasible improvements in multiple areas and the active exchange of successful improvements. By assessing the successful outcomes in the two fiscal years, it was decided to continue the program by focusing on effective dialogue procedures and on practical means of motivating new facilitators.

Conclusion: Participatory workplace environment improvements were achieved in diverse work situations by applying an action toolkit focusing on stress-reducing improvements in multiple areas. Support by voluntary facilitators trained in the use of the toolkit was useful for expediting the participatory process leading to multiple improvements with positive impact on the workplace climate. It is suggested to promote participatory action-oriented programs for improving workplace environment in managing mental health in varied work situations.