公益財団法人 大原記念労働科学研究所
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大原記念労働科学研究所
The Ohara Memorial Institute for
Science of Labour

企業不祥事とカエル料理

中国やミャンマーにかけては、カエルをゆでて食べる料理が有ります。この料理のコツはカエルをゆで上げる方法にあります。お湯が沸騰している鍋に、いきなりカエルを放り込むと、カエルはあわてて逃げ出してしまいます。成功の秘訣は、まず常温の水が入った鍋を用意します。次にこの鍋にそっとカエルを入れるのです。そのまま静かにしていれば、カエルはじっとしています。頃合を見計らって鍋に火をつけます。徐々に水温は上がってゆくのですが、温度が21℃から27℃近くに上昇した頃になると、カエルはまるで温泉にでも浸かっているかのように、満足げな様子で鍋に留まっています。ところが、温度がさらに上昇するにつれ、カエルは温度調節のために体力を消耗し、遂には鍋から出られなくなりそのままゆで上がります。これはカエルの体内センサーが、環境のゆっくりした変化に対応するべく作られてはいないからです。

私達人間も波長の長い変化には弱いのです(いずれ大地震が来ると科学的に予測されていても、今日明日は大丈夫だろうと毎日生活しています)。企業組織の管理についても同様なことが言えます。徐々に忍び寄るリスクに対しては組織の成員も鈍感です。しばらく無事故が続くと、我が社の安全管理は万全だと思い込み(温泉気分です)リスク管理の予算を削減したりします。すると、その時からリスクは増大を始め(温度が上がり始め)、やがて組織はゆでカエル状態になるというわけです。

最近、耳目を集めている企業の品質管理体制も(日産自動車、神戸製鋼所、スバル、三菱マテリアル等々)、聞くところによると長年受け継がれて来た企業体質にその原因を求めることが出来ると言います。僅かな金儲けの為のちょっとしたルールからの逸脱が、徐々に拡大して行き、誰もが気付かないままに、いつしかそれが当たり前の事となり、やがては企業の体質にまでその悪弊が浸透して行ったのでしょう。リコール費用は、いずれも数千億円単位にもなると言われています。果たしてこれらの企業が、やがてゆでカエル状態になるのか否かは定かではありませんが、世界がリスペクトして来た日本の品質管理への信用が音を立てて崩れ落ちて行く様は見るに忍びありません。

(2017年12月 理事、研究主幹 井上枝一郎)