公益財団法人 大原記念労働科学研究所
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大原記念労働科学研究所
The Ohara Memorial Institute for
Science of Labour

労働科学研究のウイングを広げる

現在の労働科学研究の対象は大企業が中心になっている。労研を支えていただいている維持会も大企業が中心である。日本経済産業の発展は大企業中心であったし、安全衛生健康の分野でも諸課題に大企業中心に対応してきた歴史がある。そういう意味で大企業の重要性は今後ともいささかも変わることはない。

しかし、企業数で言えば、大企業は日本全体の0.2%である。中小企業の定義は一様でないが、中小企業基本法でいうところの中小企業は従業員でいえば300人以下をさす(製造業)。一例として中央災害防止協会の労働災害分析データで事業場規模別の労働災害発生件数を製造業で見ると、300人以上は3,128件、総数26,694件の11.7%であり、労働災害のおよそ9割が中小企業で発生している(令和4年度)。この数字を見ただけでも我が国の労働現場の諸課題を解決していくためには、大企業はもとより中小企業にも労働科学研究のウイングを広げることの必要性が理解できよう。

ではどのように進めていけばよいか? 一口に中小企業といっても千差万別である。以下、3つのアプローチを示したい。

第一は、労研の維持会員との協働である。維持会員企業は関連企業はじめ様々な関係企業や協力企業と一体になって企業活動を展開している。関係企業や協力企業には中小企業も含まれており、維持会員企業は自社のみならず関連関係協力企業をあわせた全体のパフォーマンスを上げるよう腐心しておられる。労研が維持会員企業とともに関連関係協力企業の課題解決に汗を流すことによって大企業のみならず中小企業へもウイングを広げていくことが考えられる。

第二は、地域の商工会議所など中小企業の関係団体との協働である。維持会会員企業の皆様からは労研はアカデミックな印象が強く、敷居が高いとのお言葉をいただくことがある。我々の至らぬところでもあるが、学術雑誌を発行していることもあり、そういう印象を与えているのかもしれない。中小企業の皆さんにとってはなおさらであろう。そこで地域の商工会議所などと協働して中小企業の諸課題に取り組むことが考えられる。地縁のある倉敷でこの取り組みを始めている。

第三は、これまで労研が蓄積してきたノウハウ、知見を中小企業に適用するためのメソッドの開発である。労研にはこれまでの歴史を通じて様々な業種、業態等に応じた膨大な研究の蓄積がある。これらを現代の中小企業が直面する課題に即して整理し、類型化し、実践可能な形にしていくことは大きなチャレンジである。

以上のアプローチはいずれも容易ではないが、これからの労働科学研究の一段の飛躍のためには避けて通れない道のように思われる。

(2023年10月 理事長 浜野潤)