公益財団法人 大原記念労働科学研究所
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大原記念労働科学研究所
The Ohara Memorial Institute for
Science of Labour

ヒューマンファクター研修を終えて

関西電力原子力研修センター様よりの受託研究事業として,本年の8月にヒューマンファクターに関する研修を実施しました。本研修では様々な産業現場で発生した事例や,産業事故を擬似的に体験するシミュレーション課題を用いたグループワークを中心に行なっています。このようなテーマの採り上げ方や手法は,仕事に関する判断やコミュニケーションが何故うまく働かないことがあるのか等々について,受講者がディスカッションを通じて考え,ヒューマンファクターを考慮することの重要性や,安全について気付きを促すことを目的としたものです。

 

研修内容

具体的には,実際に産業現場で発生した事故事例を採り上げ,何故そのような事故に至ったのかの原因と対策を受講者に検討して貰います。一般的に,受講者は,どうしても事故当事者へ目を向けがちになりますが,人間はミスをしてしまう生き物と考え,組織における風土やシステムといった環境要因に着目した分析を行えるようディスカッションの中で講師側が促していきます。今回の研修では,ある病院で発生した患者取り違えの事例を採り上げました。受講者からは取り違えが発生しやすくなる病院のシステム上の問題に関する指摘や,人員を増やすといった対策が挙げられました。しかし,議論が深まるにつれて,限られた人員や資源で対策を行うことの難しさといった,より現実的な視点からの意見も出るようになりました。

事例分析後の全体ディカッション
事例分析後の全体ディカッション

他の課題の一例として,知恵の輪を使った演習も行っています。これは受講者の一人が宿題として解法のマニュアルを作成し,翌朝,それに従って振り分けられたグループ毎に受講者が知恵の輪をリレー方式で解き,どのグループが一番早くできたか(どのマニュアルが分かりやすかったか)を競うという内容です。この課題では,言語による伝達,特に動作系の動きを文章にする場合の伝達の難しさを,伝達側,受け手側の双方に体感して貰うものです。現場での仕事の指示や報告がいかに曖昧になりやすいか,そして相手の伝えたい事を自分から迎えに行くことの重要性(認知科学への理解)について受講者の理解を促します。

知恵の輪課題への取り組み
知恵の輪課題への取り組み

 

作業形態の変化に合わせたヒューマンファクター研修を目指して

技術の発展と共に産業現場での事故も複雑化しています。受講者からは,今回使用した事故事例の発生からは月日が幾らか経っているため,より新しい事例を使用した方が,今現在の現場に活用しやすいとの感想を頂戴しました。今後は上記の受講者の意見を反映した形で,最新の事故事例の教材化を試み,今の社会や組織の中で発生するヒューマンエラーに関わる事例について深く検討できるよう課題のブラッシュアップを行っていきたいと考えているところです。

(システム安全研究グループ 工藤大介)