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美濃邉鬼瓦工房を訪ねて ~ 「故きを温ねる」

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先日、滋賀県大津市にある美濃邉(みのべ)鬼瓦工房を見学する機会がありました。工房ではいぶし銀のような色合いを出す「いぶし鬼瓦」を制作されています。小さいものはデスクの上に飾れるようなサイズの愛嬌のあるデザインの鬼瓦や表札から、大きいものでは寺社仏閣の屋根を飾るための、数尺もある鬼瓦や鴟尾(しび:鳥の尾の形をした屋根飾り)まで幅広く手掛けられています。制作は家族で行われており、美濃邉のご兄弟からお話を伺うことが出来ました。

手作業へのこだわり ~ 技術の保存

寺社や文化財の修繕に当たっては、100年以上前に造られた原型を図面に起こす事から始め、当時の姿に可能な限り近づけるために、工程は土踏みから全て手作業で行われているとのお話でした。制作過程の作品や完成した作品を見せて貰いましたが、土を練ることからスタートし、乾燥から焼成へと非常に長い時間と手間、そして熱意が費やされている事を知りました。

瓦の乾燥風景

これに関連して、興味深い話も伺えました。最近の技術を応用して、文化財の保存・復元に際し、3Dプリンター等を使って当時の形を再現することも可能になりましたが、美濃邉鬼瓦工房が手作業に拘っている理由は「技術の保存」にあるとのことです。“ガワ(見た目)”はいくらでも再現することが可能です。しかし、制作過程の技術が失われてしまうと、その物が持つ意味や、なぜそのような仕事・方法で作ったのかといった本質的な部分が失われてしまうとの話でした。さらには、昔から現在まで連綿と続く仕事や技術は、淘汰の結果、必要性があるためにこそ残っているのであり、短期的な時代の流れに安易に乗って手放してしまうことの損失の大きにも触れられていました。

鬼瓦

昨今ではAIやIoTといった新しい技術の台頭によって、人間の仕事が大きく変化するのではないかと予想されています。技術の進歩によって、私達の生活が豊かになることは確かに喜ばしい事だと思います。しかしその一方で、新しい技術の導入によって思わぬ問題が発生しないとも限りません。これらに対処するのに、古くから続いてきた仕事や技術が、何かしらの打開策となる可能性もあるでしょう。目新しさや流行に安易に飛びつかず「故きを温ねる」ことの大切さを改めて考えた一日でした。

おわりに

労働科学が目指すところは、働く人にとって安全で健康な仕事や職場の構築だと理解しています。がもう一点、働く人々にとって「働き甲斐のある職場、やり甲斐のある仕事」という視点も重要な事柄だと考えます。新しい技術が導入される際には、これらの視点が仕事から失われないかの留意が必要だと思います。今回の見学で、それらは働く人々が内発的な動機から獲得するものなのか、はたまた新技術を人間的な視点から研究することによる外部支援の工夫によっても達せられるものなのか深く考えさせられました。もし、その道が有るならば、新技術が益々増大する職場に有っても、何らかの手掛かりを見つけ出して、そのような研究を進めて行くことの重要性に思いを馳せた次第です。

(システム安全研究グループ 工藤大介)