人々が健康で安心して働ける労働環境を目指して97年…

労働の科学 74巻2号 持続可能な社会のかたちと希望:社会・経済・環境をつないで

印刷
dsl74-2

書誌情報

  • 定価: 1,200円
  • 体裁: B5判

目次

  1. 巻頭言 俯瞰
    多様性を盛り込んだ「もう一つの社会」の共創  [専修大学人間科学部]大矢根 淳
  2. 特集
    持続可能な社会のかたちと希望:社会・経済・環境をつないで
    1. AIが示す日本社会の未来と持続可能性 [京都大学こころの未来研究センター]広井 良典
    2. 持続可能な社会と企業の役割 [明治大学商学部] 出見世 信之
    3. 地方圏における多様な経済と自営業(地営業)セクターの創出 [大分大学経済学部] 石井 まこと
    4. ディーセントワークと「持続可能な社会」実現の取り組み [ILO活動推進日本協議会] 中嶋 滋
    5. 双方向でつくるエシカルな生産と消費の持続可能なシステム [パルシステム生活協同組合連合会] 高橋 宏通
    6. ごみ問題とライフスタイルが問う地球と人類の未来 [京エコロジーセンター] 高月 紘
  3. Graphic
    1. ディーセント・ワークを目指す職場 2[見る・活動](97)
       株式会社 山岸製作所
  4. Series
    1. 産業保健の仕事に携わって(7)クボタショック 熊谷 信二
    2. 凡夫の安全衛生記(26)「そこまでするのか」機械安全対策① 福成 雄三
    3. にっぽん仕事唄考(65)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その65)‐閉山――それでも唄は残った‐ 前田 和男
  5. Column
    1. BOOKS
      『労働安全衛生マネジメントシステム ISO45001実践ハンドブック』 企業の「労働安全文化」醸成につながる実践書 錦戸 典子
    2. BOOKS
      『コーチングによる交通安全教育 メタ認知力の向上をめざして』 これまでの教育と異なった考え方と手法 岸田 孝弥
    3. 第77回 全国産業安全衛生大会
      新たな視点で安全衛生活動に取り組もう! 江口 剛史
    4. 産業・組織心理学会 第34回大会
      刺激を受けた活発な知の交流 稲葉 健太郎
    5. Information & News
    6. 勞働科學のページ
    7. 次号予定・編集雑記

巻頭言 俯瞰
多様性を盛り込んだ「もう一つの社会」の共創 大矢根 淳

2018年の「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会)は「災」であった。わずか半年ほど前のことを思い起こしてみたい。残・酷暑の列島を相次ついで風水害が襲い(西日本豪雨/逆走台風など)、関西(大阪府北部地震)や北海道(胆振東部地震)が激震に見舞われた。地球温暖の指摘にはじまり、台風やハリケーンなどの強い熱帯低気圧の進路変化やその被害増加傾向、都心ではゲリラ豪雨が日常となり、南海トラフ巨大地震が懸念される。まさに『大地動乱の時代』(石橋克彦著、岩波新書、1994年)が四半世紀ぶりに再想起される。筆者の属する日本災害復興学会を含めて、現在、56学会が集う防災学術連携体では、いくつもの緊急調査、報告会、提言をまとめているので、是非、同連携体のホームページ(http://janet-dr.com/)を覗いて見ていただきたい。いずれの被災地も、まさにこれからが復興の正念場だ。

およそ四半世紀前、阪神・淡路大震災(1995年)の発生に際して、被災地には全国から延べ100万人を超える「若者」が駆けつけたことで、この年はボランティア元年と呼ばれた。これらボランティアの中には、その後、復旧諸事象から復興まちづくりに至るまで、「最後の一人まで」を標榜して関わり続けた者・グループも多くいて、被災者の生活再建に真摯に向き合う息長い取り組みは、次第に、次の災害に備える哲学と実践に繋がっていくこととして認識されるところとなった。彼らの取り組みは、復旧から復興を経て防災の位相までが一つの円環の中に位置づけられるものとしてとらえられた。こうして減災サイクルが構想されたのが、21世紀初頭のことであった。

その後この数年、世界ではʻNo one is left behindʼを謳ってSDGsが関心を集めるようになって、各国で政府レベルの取り組みが進められている。被災者の生活再建に真摯に向き合うその思想と実践は、例えば、SDGsを介して、時空を超えて共鳴し出している。

ところで、今一度、被災地に目を向けてみよう。そこでは「復興」に向けて公共土木事業の槌音が高らかに響いていることだろう。そしてその竣工に際して、近代的な社会空間が創出されることとなるが(政府の唱導する﹁国土強靱化﹂)、よく見てみると、居住階層(人口)は見事に入れ替わっていることに気づかされる。被災者=従前居住者の生活再建の場は、そこに担保されることはなかった。瀟洒な(地価の高い)復興空間には、その地代・家賃を支払える中上層サラリーマンが住み移り、脆弱な社会環境ゆえに安価に居住していた層は、生き残ったとしても生活再建の場を喪失することとなってしまった。結果的に福祉需要は減り税収はアップして、災害に強い街が新設された。これを麗しい復興ととらえる向きもあろうが、被災現場で被災者は二度、生の危機を被っていることを忘れないでいたい。

今、そこにいて難儀している人を眼差していれば、彼らを消し去る(人口の入れ替え)蛮行は起こりえなかったはずだ。避難所の体育館で授乳できない母親、夜中にトイレに立つことを憚る老人たち、こうした人々の中長期的に継続する被災生活を、そのゴール(生活再建)にまで繋がる道筋として構想していくこと、それが人としての復興であり、「最後の一人まで」を標榜する減災サイクルの哲学であり、それに共鳴する復興・防災領域に関わるSDGsであろう。

大矢根 淳(おおやね じゅん)
専修大学人間科学部 教授

    主な著作:
  • 「震災復興とレジリエンス」『産業復興の経営学』(石原慎士他編著)同友館、2017年.
  • 「マルチステークホルダーの参画する防災まちづくりの物語創成」『労働の科学』72巻12号、2017年.

今号以前の労働の科学

バックナンバーはこちら