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労働の科学 73巻12号 自営業の安全と健康

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書誌情報

  • 定価: 1,200円
  • 体裁: B5判

目次

  1. 巻頭言 俯瞰
    未来の自営業者の時代から産業保健へ 切れ目のない健康管理の仕組みづくり  [開業保健師事務所]岩谷 美恵子
  2. 特集
    自営業の安全と健康
    1. 農業従事者が安全健康に働く技術とこれからの農的社会のあり方 [九州農村医学会] 上田 厚
    2. 建設業における一人親方の実態と労働組合の取り組み [全国建設労働組合総連合] 田久 悟
    3. 地域を支える自営業の安全衛生課題と支援 [愛知医科大学]柴田 英治
    4. 大型ダンプドライバーの健康と安全な運行の課題 [香(かおり)興業] 飯野 香織
    5. 労働者性概念のゆらぎと労働時間把握義務への影響 [弁護士法人まちだ・さがみ総合法律事務所] 和泉 貴士
    6. 自営業者における産業安全保健の向上と国際的な動向 [ILO 南アジアディーセントワークチーム] 川上 剛
  3. Graphic
    1. 安全な運行とドライバーの健康のために12[見る・活動](95)‐輸送事業者の取り組み
       藤沢タクシー株式会社
  4. Series
    1. 産業保健の仕事に携わって(5)社会問題への対応 熊谷 信二
    2. 凡夫の安全衛生記(24)「もう一回とがんばる」体力測定の取り組み  福成 雄三
    3. 労研アーカイブを読む(40)暗黙知を組織的に活かす 椎名 和仁
    4. にっぽん仕事唄考(63)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その63)‐1957年が「戦後炭鉱歌謡」の分水嶺‐ 前田 和男
  5. Column
    1. メコンデルタ2018国際研修
      メコンデルタで学ぶ参加型改善活動の魅力 山家 和
    2. BOOKS
      『過労自死の社会学 その原因条件と発生メカニズム』 細川 潔
    3. 織という表現(24)
      襤褸の美しさに 阿久津 光子
    4. Information & News
    5. 勞働科學のページ
    6. 次号予定・編集雑記

巻頭言 俯瞰
未来の自営業者の時代から産業保健へ 切れ目のない健康管理の仕組みづくり 岩谷 美恵子

先日、とあるダンスカンパニーの舞台を観に行った。いきいきと楽しそうに踊っている彼らの姿を見ながら、そう言えば、芸能の世界も個人事業主が多いんだったなと思っていた。ドラフト会議や日本シリーズで賑わっていたプロ野球もまた、同様に個人事業主の専門職集団である。

私自身は、起業して3年足らずのまだまだ初心者マークの個人事業主であり、非常勤の仕事も掛け持つダブルワーカーでもある。「労働基準法の36協定では、時間外労働は原則月45時間、年360時間まで」と聞いても、自営業となると正直顧客次第で仕事の期限が重なることもあり、なかなかその枠では納まらない。ただ、ストレスチェック風に言えば、多少仕事量が多めであっても仕事の裁量度は90%以上と思っているし、健康度的にはまずまず悪くないとは自負している。

自営業への産業保健支援を考える上で、これまで出会ってきた自営業者への特定保健指導の場面を思い浮かべてみた。建設業や農業、サービス業など業種は多岐にわたる。誰も必ずどこかの健康保険に加入するので、特定保健指導も産業保健支援の一つの手段には違いない。ひとりひとりが仕事の内容も、仕事をしている時間帯も違うけれど、保健指導の中で必ず共通して押さえるのは、基本的な生活習慣「食事・運動・休養」である。そこを踏まえた上で、それぞれの生活リズムや飲食を含む人付き合いや経済的事情にも配慮していく。家族構成やライフサイクルのステージや、時には自分の健康どころでないさまざまな事業上・個人的事情にも耳を傾けて、今その方にできる最善の健康管理方法を一緒に見つけていく。特定保健指導が始まると、多くの保健指導者はすぐに気づいた。「40歳以上の現在の対象者ばかりを追っていても、次々と新しい対象者が増えてくるばかり。もっと若い世代へのアプローチを重視して『予防』に取り組まないとだめだ。」

全国の自営業者数は約560万人、家族従業者を含めると約680万人にのぼる(2017年総務省調査)。これらの人々の安全と健康に向けての取り組みはさまざまに行われていると思うが、膨大な対象者をサービス提供側からの一方向だけではとてもカバーしきれるものではない。それぞれの業種の特性に関わる産業保健サービスの充実もさることながら、少なくとも「食事・運動・休養」に関しては、自営業者になる以前から当事者自身でも好ましい生活習慣を身に付けていてほしいと思う。

人々の健康は、出生前の胎児期に始まり、乳幼児期から老年期に至るまでライフサイクルで繋がっている。乳幼児保健、学校保健からの産業保健へ切れ目のない健康管理の仕組みづくり、例えば健診主体や健康保険が変わっても健診結果を引き継げる仕組みの必要性は以前から言われている。健康管理は自営業になってから始まるものではなく、子ども時代からさまざまな健康や安全教育に接する機会をつくることが、生涯にわたる健康づくりのための「種まき」だと思っている。

私が関わっている児童福祉施設の入所児童の中には、中卒で社会に巣立っていく子どもも多い。中には「大工や左官でいずれ一人親方になりたい」と希望する子どももいて、彼らもまた未来の自営業者の卵である。基本的な生活習慣を身につける過程の中で日々を生き抜けていく力をつけることが最優先の彼らにも、きめ細かい産業保健のサービスが届くことを願っている。

岩谷 美恵子(いわたに みえこ)
開業保健師事務所 健康ワークサポート
保健師、産業カウンセラー(松江市)

今号以前の労働の科学

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