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労働の科学 73巻11号 見過ごされる・形を変える職業病

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書誌情報

  • 定価: 1,200円
  • 体裁: B5判

目次

  1. 巻頭言 俯瞰
    職業がんの労災認定と根絶をめざして  [職業がんをなくす患者と家族の会]堀谷 昌彦
  2. 特集
    見過ごされる・形を変える職業病
    1. [総論]職業病の現状から問う問題の所在と対策の課題 [全国労働安全衛生センター連絡会議]古谷 杉郎
    2. [職業がん]なぜ職業がんは見過ごされるのか [中央労働災害防止協会 大阪労働衛生総合センター]圓藤 吟史
    3. [石綿関連疾患]石綿のリスクとこれからの対策 [特定非営利活動法人 東京労働安全衛生センター]外山 尚紀
    4. [化学物質中毒]増える産業化学物質と健康障害 [昭和大学医学部]山野 優子
    5. [金属中毒]世紀をまたいだ鉛中毒 [愛知学泉大学]久永 直見
    6. [振動障害]振動障害の現状と対策 [久留米大学医学部]石竹 達也,森松 嘉孝
    7. [熱中症]温暖化する地球,広がる熱中症 [新日鐵住金株式会社]守田 祐作
  3. Graphic
    1. 安全な運行とドライバーの健康のために11[見る・活動](94)‐輸送事業者の取り組み
       株式会社第一名誠
  4. Series
    1. 産業保健の仕事に携わって(4)有機溶剤の代謝と体内動態 熊谷 信二
    2. 凡夫の安全衛生記(23)「大汗をかきながら」作業環境測定 福成 雄三
    3. 産業安全保健専門職と活用(9)作業管理士 谷 直道
    4. にっぽん仕事唄考(62)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その62)‐炭鉱のリアルを伝える唄“16トン”がアメリカから上陸‐ 前田 和男
  5. Column
    1. 織という表現(23)
      モントリオール 阿久津 光子
    2. 人類働態学会2018年夏季研究会
      安全を知る若年者の一人として 五十嵐 優,熊倉 賢人
    3. BOOKS
      『産業医学のプリンシプル―大切なこと 産業医学振興財団40周年記念誌』 及川 孝光
    4. BOOKS
      『ものづくり生産現場の社会システム チームワーク研究の世界展開』 岸田 孝弥
    5. Talk to Talk
      しぼりゆく 肝付 邦憲
    6. Information & News
    7. 勞働科學のページ
    8. 次号予定・編集雑記

巻頭言 俯瞰
職業がんの労災認定と根絶をめざして 堀谷 昌彦

職業がんの労災認定に直面したのは、30年前に遡る。大阪の化学会社で一人の労働者(Kさん)が副鼻腔がんを患い、それがビスクロロメチルエーテルによる職業がんではないかと労使協議を進める中で労災申請をしていた。入社2年目で労組書記長を仰せつかった私は会社と共に労基署へ出向き早期の認定を訴えていたが、Kさんは後に肺がんを原発しそれが決め手となり労災認定がされた。過去の労働現場の様子を訴え取り組みの成果に安堵をおぼえながら結果報告とお見舞いに訪問した時、ご家族から思いも寄ら言葉が返ってきた。「元気で入社したはずなのに労働組合は一体何をしていたのですか」と詰問され、やせ細り横たわって苦しく息をするばかりのKさんを前に涙で何も見えなくなった。ビスクロばく露は自分が入社する20年も前のことであるが「職業がん問題は生半可な気持ちで取り組むことはできない」と知らされた最初の出来事であった。その後発がん物質への過去のばく露による肺がんや膀胱がん、その他臓器がんの労災認定に数多く取り組み今に至っている。

現場にいると厚労省より既存化学物質の新たな発がん情報が知らされることがある。「あれは昔たっぷり吸わされた」「今さら言われても遅い」などの声が多数あがり、発がん性が明らかでない化学物質への予防的取り組み(特に発生源対策)が強化されていく。これは新規化学物質についての変異原性試験(発がんスクリーニング)が普及する時期と重なる。ただし、職業がんが多発している会社ですら「過去の発がん物質による被害」と安易に考えそれ以外の化学物質のばく露を軽視する傾向があるため、衛生教育の反復と職場巡視は欠かせない。近年リスクマネジメントが導入され始めているが、非正規労働者保護のためにもまずは発生源対策とばく露防止に注力すべきである。かつて法規制がない化学物質を大量に使用し新たな職業がん(例えば胆管がん)の発生を招いた経験を決して忘れてはならない。

がんによる年間死亡者数は37万人を超えているが、そのうち5%程度(2万人)が職業がん死亡と推論される。過労死・過労自殺と比べても大変な数であるが、石綿を除いた化学物質による職業がんの認定件数は年間わずか20件程度でほとんどが見過ごされている。

またせっかく労災申請しても、数年から数十年前にばく露された化学物質のリストとばく露濃度、発がん性(動物実験結果だけでは不十分)、その人がそのがんになった個別の因果関係も求められ、本人は身体的精神的金銭的な苦痛を二重三重に負わされる。国は被災者救済という立場を明確にして過度な立証責任を負わせることなく、積極的な認定と予防活動へのシフトを展開すべきである。

当会は三星化学の膀胱がん患者らにより職業がん被害は自分たちで最後にしたいという強い気持ちで結成された。被災者の気持ちに寄り添い労災申請のお手伝いをしたり、実際に労災認定に至ったケースもあり、わずかながら貢献ができている。また「職業がんをなくそう集会」(次回12月9日福井集会)では専門家の講演と労働現場の報告を行い、専門家と労働者が共に学びあえる機会となっている。

職業がん問題は、立法、行政、医療、研究、労働者等がさまざまな分野で多角的な取り組みを行う必要があり、多くの方々の尽力に期待する。

堀谷 昌彦(ほりや まさひこ)
職業がんをなくす患者と家族の会 事務局長

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