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労働の科学 73巻6号 発達障害者の就労を支える

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書誌情報

  • 定価: 1,200円
  • 体裁: B5判

目次

  1. 巻頭言 俯瞰
    発達障害のある労働者への合理的配慮の意義と課題  [鳥飼(とりかい)総合法律事務所]小島 健一
  2. 特集
    発達障害者の就労を支える
    1. 発達障害の人の就労を支える 人材育成と活用する職場 [株式会社Kaien]鈴木 慶太
    2. 発達障害者就労の課題と支援 ASD者を中心に [早稲田大学 教育・総合科学学術院]梅永 雄二
    3. 発達障害者と共に働くための視点影響 産業保健専門職の役割 [宇部興産株式会社]塩田 直樹
    4. 発達障害当事者の立場から考える 発達障害と就労 [牛久愛和総合病院総合健診センター]ウイ クアン ロン
    5. 特性を活かす インクルージョン採用の実践について [三井化学株式会社]高川 智美
    6. 障がいの特徴を理解し組織でカバーする仕組みをつくる 障がい者雇用の成功モデルを目指す [パーソルチャレンジ株式会社]佐藤 謙介
  3. Graphic
    1. 安全な運行とドライバーの健康のために 6[見る・活動](88)‐輸送事業者の取り組み
       新潟運輸株式会社
  4. Series
    1. 労研アーカイブを読む(37)マネジメントでミスを防ごう 椎名 和仁
    2. 凡夫の安全衛生記(18)「『安全』か『危険』か」体感教育の冠 福成 雄三
    3. 産業安全保健専門職と活用⑤労働安全コンサルタント‐労働衛生コンサルタント‐ 谷 直道
    4. にっぽん仕事唄考(57)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その57)‐炭鉱城下町の「校歌」と戦争の影⑤‐ 前田 和男
  5. Column
    1. 第3回労働時間日本学会研究集会
      労働時間の側面から働き方の改善を考える 池田 大樹
    2. BOOKS
      『新訂 介護離職から社員を守る ワーク・ライフ・バランスの新課題』 働き方改革に先行,牽引する介護との両立 西久保 浩二
    3. 織という表現(18)
      カード織(タブレット・ウィービング) 阿久津 光子
    4. KABUKI
      通し狂言 絵本合法衢 歌舞伎で生きる人たち その四―まずこんにちはこれぎり 湯淺 晶子
    5. Information & News
    6. 次号予定・編集雑記

巻頭言 俯瞰
発達障害のある労働者への合理的配慮の意義と課題 小島 健一

障害者雇用促進法が改正され、2016年4月から事業主は、障害のある労働者に対して合理的配慮を提供することを義務づけられた。合理的配慮は、「障害をもつアメリカ人法(ADA)」の“reasonabl eaccommodation”に由来する、従来、日本の法制度に存在しなかった概念である。われわれに馴染みのないこの合理的配慮であるが、これを発達障害のある労働者について適用しようとするとき、いくつか特有の意義と課題が浮かび上がる。

まず、法定雇用率の算定とは異なり、合理的配慮を提供しなければならない「障害者」は、障害者手帳を取得している労働者に限られないから、非障害者として採用された従業員であっても、現に、障害により就労に支障を来しているのであれば、合理的配慮を提供すべき対象になり得る。とりわけ発達障害の場合、本人に障害の認識がないことや、障害を開示しないことが多いが、採用後の合理的配慮については、従業員からの申し出がなかったとしても、少なくとも障害の存在が事業主に明らかである限り、提供義務を免れがたい。事業主は、非障害者を含む全ての労働者について、その潜在的な能力を引き出し、組織的な仕事に包摂する〝技法〞として合理的配慮を意識するのが賢明である。

次に、事業主が、合理的配慮を提供せずに能力不足や業績不良を理由として障害者を解雇した場合、その事業主の判断が、合理的配慮がないことによって障害者の能力の発揮が妨げられた結果であるならば、解雇の有効性に影響を与えることになるから、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)は事業主にとってさらに厳しいものになり得る。一方、アメリカでは、合理的配慮は、業務にとって「本質的な能力」を免除するわけではなく、あくまでも、業務の周辺的・副次的な要素を代替・補完するものと考えられている。これをそのまま、ハイコンテクストなコミュニケーションが当たり前で、「対人コミュニケーション能力」といった抽象的でつかみどころのないスキルを労働者に要求するわが国に適用すると、発達障害のある労働者への合理的配慮は、思いのほか狭い範囲にとどまることになりかねない。

さらに、不特定多数の障害者集団を想定して事前に対処するバリアフリーやポジティブ・アクションと異なり、合理的配慮は、障害者個々人の個々の場面で生じる個別のニーズに応える事後的な対応であるから、合理的配慮を提供する前段階として、事業主は、障害労働者の能力発揮の妨げになっている障壁を把握し、事業主自身の負担とすり合わせながら、提供する配慮の内容を障害労働者と合意する、建設的な「対話」のプロセスを必要とする。ところが、発達障害の場合、個別のニーズが多様で、他人からは分かりづらく、しばしば、本人自身もよく認識していない上、コミュニケーション自体が苦手であることが多い。したがって、事業主から「対話」を率先し、良好な意思の疎通を促進する配慮、いわば、「対話」のプロセスにおける合理的配慮を提供しなければ、他に必要とする配慮の提供にまで至らないおそれがある。

発達障害のある労働者にとって、事業主との「対話」は、自分のことを客観的に認識し、働くことの具体的なイメージを持つことに資し、その成長が促進される効果を期待できる。このような合理的配慮をめぐる「対話」の意義は、事業主にとってもまた、同じであろう。

小島 健一(こじま けんいち)
弁護士、鳥飼(とりかい)総合法律事務所

今号以前の労働の科学

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