労働の科学 73巻5号 教職員の超勤・多忙化を解消する
書誌情報
- 定価: 1,200円
- 体裁: B5判
目次
- 巻頭言 俯瞰
教職員の働き方改革への視点 - 特集
教職員の超勤・多忙化を解消する- 教職員の超勤・多忙化解消の課題と改革への展望 給特法の廃止と教育政策の転換を
- 豊かな生活時間の確保と調整休暇制度 教職員こそ労働時間法制の構造転換の先駆けとなれ
- 長時間労働が教員の心と体に与える影響 教員に対する客観的疲労度評価結果より
- 教育職員の心身の健康を支える職場安全衛生活動のあり方
- なぜ,日本の先生は忙しいのか,学校の長時間労働は改善するのか
- 学校にも働き方改革の風を 過労死公務災害認定の取り組みで問われたこと
- Graphic
- 安全な運行とドライバーの健康のために 5[見る・活動](88)‐輸送事業者の取り組み
しずてつジャストライン株式会社
- 安全な運行とドライバーの健康のために 5[見る・活動](88)‐輸送事業者の取り組み
- Series
- GP 広がる良好実践(28)レバノン北部における参加型Kaizenトレーニング
- 産業安全保健専門職と活用④作業環境測定士
- にっぽん仕事唄考(56)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その56)‐炭鉱城下町の「校歌」と戦争の影④‐
- Column
- 人類働態学会 2017夏季研究会 ブラッシュアップ講座
職場環境における健康・衛生とは - BOOKS
『キャリアコンサルティングに活かせる働きやすい職場づくりのヒント』 人材を大切な「いきいき人財」とするための手引書 - 織という表現(17)
「地」と「柄」 - KABUKI
神明恵和合取組 め組の喧嘩 歌舞伎で生きる人たち その参―粋でいなせな記憶 - Talk to Talk
またもや - Information & News
- 次号予定・編集雑記
- 人類働態学会 2017夏季研究会 ブラッシュアップ講座
巻頭言 俯瞰
教職員の働き方改革への視点
筆者らが2005年に実施した調査(教職員の健康調査委員会、2006)では、学校内での時間外勤務が過労死ラインといわれる月80時間を越えていたものは、小学校5.4%、中学校10.0%であった。ところが、文部科学省が一昨年公表した教員勤務実態調査では、この過労死ラインを越えている教員は小学校33.5%、中学校57.6%と、持ち帰り仕事を除いているにもかかわらず、信じ難いほどの異常な加重労働の実態が明らかになった。全国の教職員約92万人のうち精神疾患による病気休職者は2006年度からずっと0.5%以上の比率が続いている。全産業労働分野の平均0.4%より高い。
昨年12月、中央教育審議会が「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)」を公表した。文科省はそれを踏まえ、学校における働き方改革に関する緊急対策を取りまとめた。そして今年2月、各都道府県の教育委員会に対し「学校における働き方改革に関する緊急対策の策定並びに学校における業務改善及び勤務時間管理等の取組の徹底について(通知)」を通達した。
文科省の緊急対策では、文科省側が、(1)教員・事務職員等の標準職務を明確にしたモデル案を示し、省内で教職員の業務量の一元的管理を行う、(2)勤務時間の上限の目安を含むガイドラインを提示する、(3)緊急対策に掲げる取り組みについてはその進捗状況を把握する、としている。一方、教育委員会や学校長側は、(4)厚生労働省が2017年に定めた「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づき勤務時間管理を徹底する、(5)登下校・部活動・会議等の時間設定を適切にして時間外勤務を抑制する、(6)教職員全体の働き方の意識改革のための研修を実施する、とした。そして学校における働き方改革の実現に向けて、教職員定数を合計1,595人改善、教員以外の専門スタッフ・外部人材の活用、学校の業務の効率化のためのアドバイザーや校務支援システム等の改善等のため、約86億円の予算案を示した。
中教審での議論の中間まとめは、総合的な方策というだけあって、さまざまな観点から教員の勤務実態の課題を議論している点、評価される。しかし問題は、教員の異常な長時間労働を解消するために、いかにして具体的な対策に必要な財政措置を講じるかである。時間外勤務を抑制するために、担当時間数の低減や生徒指導充実のための教職員基礎定数・加配定数の改善、教員以外のスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー・スクールロイヤーや部活動指導の外部専門人材の配置をするには、文科省の予算案では実効性を確保するにはほど遠い。全国の公立小学校は約2万校、中学校は約9,600校存在するのである。また、教職員の勤務時間の在り方に関する意識改革のための研修が必要としているが、異常な過重労働の現状を鑑みれば、教員個々の意識改革というより、例えば、長時間労働の要因となっている部活動指導の廃止や外部専門スタッフの活用の是非など、具体的な改善策についての国・教育委員会・学校、そして保護者を含めた議論と実施が直ちに必要な段階に至っているのではないだろうか。
大阪教育大学 名誉教授
今号以前の労働の科学
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