人々が健康で安心して働ける労働環境を目指して97年…

労働の科学 73巻1号 働く高齢者と支える社会

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書誌情報

  • 定価: 1,200円
  • 体裁: B5判

目次

  1. 巻頭言 俯瞰
    日本は働くことのできる高齢者を創る時代に突入した ‐労働寿命の延伸が健康寿命の延伸を図る‐ [産業医科大学]神代 雅晴
  2. 特集
    働く高齢者と支える社会
    1. 高齢者が就業する意義 [桜美林大学]渡辺 修一郎
    2. 高齢社会における雇用・労働のあり方 ‐「いくつになっても働ける社会」への支持と課題‐ [独立行政法人労働政策研究・研修機構]郡司 正人
    3. 高齢女性作業者の労働災害防止への配慮 ‐転倒災害防止への取り組み‐ [公益財団法人大原記念労働科学研究所]永田 久雄
    4. 岐路に立つシルバー人材センターの現状と将来像 [公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団]石橋 智昭
    5. 福岡県における「70歳現役社会」の実現に向けた取り組みと九州・山口における連携 [福岡県福祉労働部労働局新雇用開発課]
    6. 高齢者の就労,介護状況と地域における保健師活動 [神奈川県立保健福祉大学]渡部 月子
  3. Graphic
    1. 安全な運行とドライバーの健康のために 1[見る・活動](84)‐輸送事業者の取り組み‐
       吉川自動車運送株式会社
  4. Series
    1. ものづくりと人間工学(1)外反母趾の改善のために開発された鼻緒靴の効果について 宇土 博
    2. 凡夫の安全衛生記(15)「防じんマスクの山」現場の思いを知る 福成 雄三
    3. 局所排気装置の活用が支える職業性疾病の予防(2)国による局所排気装置の活用を社会的な技術基盤とする施策の推進 小野 宏逸
    4. 労研アーカイブを読む(35)現場実験で得られるデータの重要性 椎名 和仁
    5. にっぽん仕事唄考(52)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その52)‐炭鉱城下町の「公的唄」と戦争の影‐ 前田 和男
  5. Column
    1. 第76回全国産業安全衛生大会
      新鮮な視点で安全衛生活動を! 江口 剛史
    2. 織という表現(13)
      音と私と織と 阿久津 光子
    3. Talk to Talk
      赴く先は 肝付 邦憲
    4. Information & News
    5. 次号予定・編集雑記

巻頭言 俯瞰
日本は働くことのできる高齢者を創る時代に突入した‐労働寿命の延伸が健康寿命の延伸を図る‐ 神代 雅晴

「健康は労働から生まれ、満足は健康から生まれる」英国のSir William Petty(1623年~1687年)が残した名言である。

最近の日本人の健康寿命を観察すると男性が71.19歳で女性が74.21歳、その年の平均寿命は男性が80.21歳で女性が88.61歳であった1)。概ね人生の終末10年間は床に伏せるとか、生活行動を大きく制限されるとかの不幸な生活を送った後に旅立つ状況が推測できる。晩年の不幸をなくすためには健康寿命と平均寿命との差を少なくしなければならない。

働くことが健康寿命を延ばすという仮説を立証する研究論文は見つけ難いが、興味深い報告を見つけることができた。一つは老年医学領域からの報告で、生きがいと社会参加で創られている主観的な健康感が健康寿命の延伸に重要な役割を演じているとのことである2)。日本人の社会的参加に対する概念は日本人が培ってきた労働観に裏打ちされた労働の捉え方と共有できると考えられる。農業関連領域からの研究成果も興味深い。農業を行っている人は農作業を全くしない人に比べて糖尿病、高脂血症等の生活習慣病の危険因子の保有が低い傾向にあり、かつ、比較的軽度の農作業の継続であっても生活習慣病の発生予防に役立つと報告されている3)。さらに別の調査研究では、自営農業者は健康で長期にわたって農業に従事できて、結果として死亡年齢と健康寿命との差である余命が短いと報告している4)。俗に言われている〝ピンピンコロリ〞に繋がる報告である。以上を総括すると、人間は生涯現役を放棄してはいけないことを暗示しているように思われる。

本論での〝働き〞は広義の働きを意味し、生産的活動全般を指している。生涯〝働く〞ことを貫くためには徹底した一次予防の推進が必要である。国は一次予防の重点項目として生活習慣病等の予防を進めている。しかし、この健康関連因子対策だけでは手落ちである。一次予防の要として、働いている場の管理(作業環境管理)と仕事そのものの管理(作業管理)、すなわち、仕事関連因子の改善を取り入れなければならない。

日本は高い職務遂行能力を有する高齢労働者をよりたくさん輩出できるプロダクティブ・エイジング社会創りの時代に突入した。これを成しうるための基本対策は毎日元気に職場に来て仕事ができる能力を評価する指標(労働適応能力評価法)の開発である。これを用いて高齢労働者の職務能力と仕事とのミスマッチを防ぐことが究極の労働寿命の延伸策となり、その結果として健康寿命の延伸が図られる。

参考文献
  1. 平成29年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)「第1章 ― 第2節 ― 3 高齢者の健康・福祉」 p.21
    http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/zenbun/29pdf_index.html
  2. 長谷川卓志;欧州連合における平均寿命、健康寿命と主観的健康感について, 日本老年医学会雑誌, 51, 2, 144-150, 2014
  3. 松森ら、;農作業が有する高齢者の疾病予防に関する検討, 農村工学研究所技報209号, 105-115, 2009年3月
  4. 早稲田大学重点領域研究(2017年2月-3月アンケート調査結果から);持続型食・農・バイオ研究所の研究成果, 2017年7月3日発表

神代 雅晴(くましろ まさはる)
産業医科大学 名誉教授
一般財団法人 日本予防医学協会 理事長

今号以前の労働の科学

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