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労働の科学 72巻12号 地域・職域における自然災害対策

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書誌情報

  • 定価: 1,200円
  • 体裁: B5判

目次

  1. 巻頭言 俯瞰
    事業継続計画策定の意義から考える [公益財団法人大原記念労働科学研究所]福成 雄三
  2. 特集
    地域・職域における自然災害対策
    1. マルチステークホルダーの参画する防災まちづくりの物語創成 [専修大学]大矢根 淳
    2. 地域防災と災害看護から考える自然災害時における要配慮者支援のあり方 [日本赤十字看護大学大学院]小原 真理子
    3. 人々のリスク認知特性を踏まえた今後の防災について [常磐大学]申 紅仙
    4. 最近の火山噴火と火山灰・火山ガスに対する安全対策 [鹿児島大学]石峯 康浩
    5. 雲仙・普賢岳噴火災害下の自治体職員と被災住民の安全と健康を守る‐過労死労災の闘いから自然災害との闘いへ‐ [雲仙・普賢岳噴火災害時:島原市役所職員組合]松下 英爾
    6. 仮設住宅と災害公営住宅の現状と課題‐福祉のまちづくりの視点から‐ [岩手県立大学]狩野 徹
  3. Graphic
    1. CSRがつなぐ地域社会と中小企業 48[見る・活動](83)
      さいたま市CSRチャレンジ企業認証企業 株式会社アイオプト
  4. Series
    1. 労研アーカイブを読む(34)作業の評価から職務の評価へ 2‐労働のエネルギー代謝に関する研究とその現代的意義(その2)‐ 岸田 孝弥
    2. 局所排気装置の活用が支える職業性疾病の予防(1)局所排気装置活用の時代的変遷と技術・法制基準の課題 小野 宏逸
    3. にっぽん仕事唄考(51)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その51)‐戦争と「社員慰安歌」②‐ 前田 和男
  5. Column
    1. 織という表現(12)
      ジャカードによる新たな表現(2) 阿久津 光子
    2. BOOKS
      『よくわかる じん肺健康診断』‐じん肺健康診断,じん肺の申請・法規制がわかりやすく記載されている一冊‐ 森本 泰夫
    3. 第46回人類働態学会東日本地方会
      現場を第一に考える人類働態研究 清水 駿
    4. 勞働科學のページ
    5. 次号予定・編集雑記
    6. 労働の科学:第72巻 総目次

巻頭言 俯瞰
事業継続計画策定の意義から考える 福成 雄三

世界で最も自然災害が多いとされる国で生活し事業を営むわれわれにとって、自然災害への備えが重要な課題であることは言うまでもない。その備えの一環としての事業継続計画(BCP)について、周知のことを含めて、そのあり方や意義について考えてみたい。関係省庁等からガイドラインなどが示され、JIS(ISO)でもマネジメントシステムの規格がつくられて、事業継続計画の必要性に関する認識は高まり、大企業では策定済みとしている企業が大多数になっている一方、策定に至っていない中小企業も多い。事業内容によっては、精緻な計画の策定が必要ない企業もあるかもしれないが、少なくとも従業員の安全と生活に関する対応については考えておきたい。

事業継続計画で気になることとして、災害が発生したときに実際に活かせるようになっているかという実効性の問題がある。最初に制度を整備するときは「ほぼ完ぺき」な状態になっていても、年月が経てば、制度も設備も劣化していくことがある。事業に関連する状況の変化に応じた見直しや訓練、センター機能と関係者間連携の確認などを含め、実効性をあげるための継続した努力が必要になる。サプライチェーンも個社に留まらない連携を深めていくことが求められる。

想定外への対応も考えておきたい。想定したとおりに災害が起き、想定したとおりに災害の影響が及ぶという確率は高くないだろう。策定した計画の隙間を埋める(決めていないことに対して的確に対応する)ことも考えておきたい。個社としても社会の一員としても何を優先して対応するのかについて、大方針として判断や行動の拠り所を示しておくことが欠かせない。

加えて、日頃からのコミュニケーションが、組織としてのレジリエンスの発揮を支える面があることも忘れないようにしたい。レジリエンスは、危機的状態のときだけに発揮されるのではなく、日常の業務の中で蓄積され鍛えられていくと考える。危機的な状況のときにだけ「うまくいく」ことはないだろう。積み重ねる日頃のマネジメントの結果が反映されることになる。

事業継続計画は、第一義的には個々の企業が事業を継続するためのものではあるが、社会全体では社会機能継続計画の一部になる。従業員の生活する場であり、事業のインフラを支える地域との関係についても十分に考慮しておいてほしい。住民として地域を支える計画が、危機的な事態を乗り越えた後にも事業を円滑に継続することに繋がる。

事業継続計画で想定する事態は、地震、津波、台風、豪雨による河川等の氾濫、高潮などの自然災害だけでなく、新型インフルエンザ等のパンデミック、場合によっては大規模なネットワーク障害も対象になるのだろう。事態によって、発生の機序も、影響の広がり方も、復旧までの道筋も異なる。大方針と共通的対応をベースに、個々の事態を想定した事業継続計画が必要となる。併せて、予防的対応が重要なことは言うまでもない。地震の場合であれば、建物等の耐震化などに加えて、職場での取り組み、例えば、可燃物等の管理、機器等の固定、腐食・老朽化対策、防火扉等の機能維持、消火器の整備など、些細なことと言えることでも、大きな被害の起点になることがある。他の事態への予防的対応も同じで、日常的に従業員の意識を高めておくことが事業継続には欠かせない。

福成 雄三(ふくなり ゆうぞう)
公益財団法人大原記念労働科学研究所 特別研究員(アドバイザリーボード)
日本人間工学会認定人間工学専門家、労働安全コンサルタント(化学)、労働衛生コンサルタント(工学)