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労働の科学 72巻11号 消費者製品の安全と化学物質危険・有害性表示

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書誌情報

  • 定価: 1,200円
  • 体裁: B5判

目次

  1. 巻頭言 俯瞰
    事故・災害の原因調査と対策指向の予防策 [独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所]吉川 徹
  2. 特集
    消費者製品の安全と化学物質危険・有害性表示
    1. 消費者製品の安全と危険・有害性表示 [日本大学理工学部]城内 博
    2. 消費者市民社会の確立に向けた安全な消費者製品づくりに求められること [主婦連合会]有田 芳子
    3. 消費生活用製品の安全とリスクコミュニケーションのあり方 [国立大学法人長崎大学広報戦略本部]堀口 逸子
    4. 生産から消費・廃棄に至る過程を「安全・健康・環境」の原則で [生活クラブ事業連合生活協同組合連合会 品質管理部]山本 義美
    5. 消費者製品含有化学物質のリスク評価とGHS表示 [独立行政法人製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター]光崎 純
    6. 共用品の安全と化学物質危険有害性表示 [公益財団法人共用品推進機構]星川 安之
    7. 有害物質含有消費者製品の廃棄・処分の現状と課題‐Tウォッチによるアンケート調査から‐ [熊本学園大学 社会福祉学部]中地重晴
    8. 世界の化学物質規制の動向と消費者製品の危険・有害性表示 [合同会社HatoChemi Japan]宮地 繁樹
  3. Graphic
    1. CSRがつなぐ地域社会と中小企業 47[見る・活動](82)
      さいたま市CSRチャレンジ企業認証企業 株式会社鈴や商事
  4. Series
    1. 労研アーカイブを読む(33)ストレスとの付き合い方,向き合い方 椎名 和仁
    2. 凡夫の安全衛生記(14)「痛み」被災者から伝わってくること 福成 雄三
    3. にっぽん仕事唄考(50)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その50)‐戦争と「社員慰安歌」①‐ 前田 和男
  5. Column
    1. BOOKS
      『ブラック役場化する職場』‐「非正規公務員」の困難を具体的に描き,社会に問題提起する一冊‐ 弘中 章
    2. 織という表現(11)
      ジャカードによる新たな表現(1) 阿久津 光子
    3. Talk to Talk
      問うままに 肝付 邦憲
    4. Information
    5. 勞働科學のページ
    6. 次号予定・編集雑記

巻頭言 俯瞰
事故・災害の原因調査と対策指向の予防策 吉川 徹

事故や災害が起きた後、被害者・被災者や遺族はその原因究明を求める。製品事故、労災事故、医療事故、公害、アスベスト災禍。なぜ事故・災害起きたのかその理由を知りたいという被災者・遺族感情、自身が経験した辛い思いを他の人に二度と出してほしくないと願い、適切な補償や加害者の謝罪のための手続きとして、皆、原因究明調査に期待する。

生命・身体に関わる消費者事故の中でも、製品による危害情報には皮膚障害が多い(重大事故は火災が多い)。化学物質が原因であると容易に推測される。消費者に健康被害が発生した場合、その原因究明と共に、健康被害が広がらないような対策は何かと関心が高まる。評価がなければ対策が進まないと考えがちだ。しかし、有害性が不確定の場合、量―反応関係の従来の科学的知見で説明できない化学物質の健康被害の場合、その評価には時間を要する。また、消費者にとっては化学物質の危険・有害性の理解は難しい。評価が定まる前に被害が拡大するかもしれない。科学的根拠に乏しい評価や推測による消費者製品の販売差し止めは、かえって混乱を生じる。『買ってはいけない』という書籍に関する論争があった。

対策の根拠となる調査研究が必要である。労研に入職後まもなく、傷害疫学(Injury Epidemiology)の母と呼ばれていたジョンズ・ホプキンス大学の初代傷害研究・政策センター長のSusan P Baker先生にお会いする機会があった。1970年代の米国では、年間相当数の子どもが窒息事故で亡くなっていた。彼女は救急外来に運ばれ、喉に何かを詰まらせて亡くなった子どもの病理解剖や窒息事故死の司法解剖に何度も立ち会ったという。幼い子どもの気管から取り出されるものは、ホットドックのソーセージ、ナッツ、市販のおもちゃの部品、あらゆるものが見つかった。彼女はデータを集め、製品の形状・大きさや、警告表示の重要性を指摘し、そのデータは米国での幼児用玩具の大きさ規制などに活用されたという。

傷害疫学では、傷害の発生要因(ファクター)を横軸、傷害の発生段階(フェーズ)を縦軸にとった表(ハドン・マトリクス)を用いて傷害の予防視点を整理する手法や、「エネルギー放出理論」に基づいた「傷害予防のための10の戦略」などが提案され、この傷害予防アプローチは米国の公衆衛生政策に大きな影響を与えた。たとえば、追突事故防止のための自動車のテールランプの設置義務、事故時の死亡率を下げるエアバッグの標準装備、野球でのバッターのヘルメット着用の義務づけ等、科学的な研究結果が米国における公衆衛生政策に反映されている。

重要なことは、傷害予防アプローチは原因究明のための評価研究でなく、有効な対策の研究であるという点だ。問題解決型を乗り越えて、対策指向型である。この対策指向型アプローチによって、疾病や障害の原因に関する網羅的な知識がなくても、望ましくない結末を減らすことができる。現在、私が取り組む過労死等の防止対策研究においても、過労死等のメカニズム研究と共に、現場で実践されている防止対策に注目したい。

評価が先か、対策が先か。労働科学は労働者の諸問題を研究の対象としてではなく、実践の課題として取り上げることにある。消費者の身内となって行う科学研究は、労働科学の姿勢に通じるものがあるだろう。

吉川 徹(よしかわ とおる)
独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 過労死等調査研究センター 統括研究員
公益財団法人大原記念労働科学研究所 アドバイザリーボード