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労働の科学 72巻9号 労働災害統計を読む

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書誌情報

  • 定価: 1,200円
  • 体裁: B5判

目次

  1. 巻頭言 俯瞰
    運輸業界の過労死防止対策に寄せて [大原記念労働科学研究所]佐々木 司
  2. 特集
    労働災害統計を読む 変化する労働環境と予防対策の課題
    1. 労働災害の現状と課題 [独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所]梅崎 重夫
    2. 多様な就業形態と労災保険 労災統計と実態の乖離をめぐって [大分大学経済学部]石井 まこと
    3. 50人未満の小規模事業場における安全衛生支援の意義と仕組み [愛知医科大学]柴田 英治
    4. 看護・介護労働者の腰痛と現場で取り組む腰痛予防対策 [滋賀医科大学社会医学講座]北原 照代
    5. 外国人労働者と労働災害 彼/彼女らが直面する制約的状況 [国士舘大学文学部]鈴木江理子
  3. Graphic
    1. CSRがつなぐ地域社会と中小企業 45[見る・活動](80)
      さいたま市CSRチャレンジ企業認証企業 株式会社松永建設
  4. Series
    1. 世界の産業安全保健(1)ミャンマー連邦共和国の労働安全衛生の現状とこれからの展望 石丸 知宏,梶木 繁之,小林 祐一,森 晃爾
    2. 凡夫の安全衛生記(12)「吹き飛ばさない」大規模な一様流換気 福成 雄三
    3. 労研アーカイブを読む(31)さまざまな産業分野で安全対策に活かす 椎名 和仁
    4. にっぽん仕事唄考(48)炭鉱仕事が生んだ唄たち(その48) 戦争と炭鉱社歌① 前田 和男
  5. Column
    1. 人類働態学会 2017年夏季研究会
      学生が安全と向き合う夏 野口 啓太,石橋 庸行,大久保 理歩
    2. BOOKS
      1. 『産業医が見る過労自殺企業の内側』 限界を超え溢れ出るストレスと働かされ方の構造 神谷 順子
    3. 織という表現(9)
      バウハウス織物工房 阿久津 光子
    4. Talk to Talk
      成すには遠く 肝付 邦憲
    5. 勞働科學のページ
    6. Information
    7. 次号予定・編集雑記

巻頭言 俯瞰
運輸業界の過労死防止対策に寄せて 佐々木 司

2014年に過労死等防止対策推進法が施行され、2015年には大綱が出された。それらには国が取り組む重点対策として、調査研究等、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援が記されている。調査研究事業においては、主に脳・心臓疾患事案の解析を独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所(安衛研)が担っている。弊所も安衛研と連携して脳・心臓疾患の労災認定事案が最も多い運輸業について分析しているところである。先ごろ、2016年度の報告書が厚労省のHP上に公開された1)。今後、出される『過労死白書』に転載される結果もあろう。ぜひご覧になってご批判をいただければと思う。

弊所の分担は、運輸業・郵便業で脳・心臓疾患の労災に認定された調査復命書を統計化して分析したものである。復命書は、2009年〜2015年わたる5年間分を、全国の労働基準監督署から集めた。この2年間の解析結果を要約すると、調査1年目には、過労死として認定された全465事例から81事例を抽出した。その結果、疾病名では、心筋梗塞、脳出血、くも膜下出血の順に多かった。また50代の発症が顕著で、従業員数が20人未満の小規模事業場だけでなく、驚くべきことに、安全衛生管理者の選任義務がある50人以上規模の事業場でも多かった。データは解析して見なければわからないものである。発症月では、1月や2月の寒冷期に多かった。また多くの被災者は、複数の短期雇用を経て当該事業場に雇用され、雇用から2年未満の時期に発症するという特徴があった。労働時間以外の要因では、拘束性、不規則性、夜勤・交代勤務が挙げられた。

2年目は全465事例を分析した。大筋は1年目の結果を踏襲したが、過労死(死亡)は心臓疾患、過労障害(生存)は脳疾患比率が高いという新しい結果も得られた。被災月については、1~3月の厳寒期に加えて7~9月の猛暑期に高い二峰性の分布を示した。中でも事例数が341事例と多かったトラック運転手について詳細な解析を行った。その結果、走行中の被災より、事業場での被災、とくに荷扱い中に被災している事例が多数を占めた。またトラックの運行パターンを8パターンに分け、その特徴を記載した。

最終年度には一層深化した解析を行い、睡眠や勤務間インターバルのあり方を打ち出したいと考えている。

ただし念頭に置いているのはこれらについての数値を出すことではない。数値は、目標としては重要な意味があるものの、一度世に出てしまうとそれだけが一人歩きしてしまうからである。その点は、日本睡眠学会の「良質な睡眠」の定義に見習いたい2)。つまり疫学統計的には7.5時間の睡眠時間が最も死亡率が少ない3)が、睡眠学会は7.5時間を適切な睡眠時間と言わない。その代わり、覚醒時の状態を捉えて「日中に眠気が生じなければよい」と規定している。

勤務間インターバルにも同じことが言える。南オーストラリ大学のドーソン教授らは、EU労働時間指令で規定される24時間中の11時間を理想とは言わない。その代わり、勤務間インターバルには、疲労の回復、次の仕事の準備、そしてストレスの解消が含まれていなければいけないと言うのである4)

われわれも、このような統計の奥に潜む揺るがない要因を運輸業界の過労死防止対策として探したいと考えている。

  1. http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/hojokin/dl/28_15090301-01.pdf
  2. 睡眠障害の診断治療ガイドライン研究会(内山真編).睡眠障害の対応と治療ガイドライン.じほう、2002.(改訂第2版;2012)
  3. Tamakoshi A, Ohno Y. Self-reported sleep durationas a predictor of all-cause mortality: results from the JACC study, Japan. Sleep 2004 ; 27(1):51-4.
  4. Dawson D, Ian Noy Y, Härmä M, Åkerstedt T,Belenky G. Modelling fatigue and the use of fatiguemodels in work settings. Accid Anal Prev. 2011;43(2):549-64

佐々木 司(ささき つかさ)
大原記念労働科学研究所 上席主任研究員