人々が健康で安心して働ける労働環境を目指して97年…

労働の科学 70巻4号 ロボットと共に働く場所

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巻頭言
IT化社会に思うこと:井上 枝一郎 [公益財団法人 労働科学研究所]

特集:ロボットと共に働く場所

 産業用ロボットの協働作業要件の安全規則への導入:[独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 機械システム安全研究グループ]池田 博康

 

産業用ロボットの安全性を確保する:[三菱電機株式会社 FAシステム事業本部]小平 紀生

 

医療・福祉用ロボットの現段階とその未来:[早稲田大学人間科学学術院 健康福祉産業学]可部 明克

 

農作業ロボットの特徴と安全対策:[国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター]菊池 豊

 

高齢化社会を支えるパワーアシストスーツ:[和歌山大学 産学連携・研究支援センター パワーアシストスーツ研究室]八木 栄一

 

レスキューロボットコンテストの意義と役割「ものづくり」と「ことづくり」の融合の観点から:[大阪府立大学工業高等専門学校 総合工学システム学科]土井 智晴

 

 

 dsl70-4

CSRがつなぐ地域社会と中小企業 16[見る・活動](51) 
さいたま市CSRチャレンジ企業認証企業:ツルゲン情報式会社  口絵

 

労研アーカイブを読む(12)
労働科学への旅(10)労研の戦争(その2):毛利 一平

 

深読みILO安全衛生国際基準(18)

パレスチナ再び 参加型トレーニング始動:川上 剛

 

医療従事者をエボラウイルス感染症から守る(10)
西アフリカにおけるエボラ臨床ケア研修の実際(2):
HOTトレーニング :吉川 徹

 

労研アーカイブを読む(12)
労働科学への旅(10)
労研の戦争(その2) 毛利 一平

 

にっぽん仕事唄考(19)
炭鉱仕事が生んだ唄たち(その19)
社歌と労働組合歌に刻まれた炭鉱の記憶① 前田 和男

 

BOOKS
『1973 筑豊・最後の坑夫たち』
等身大の炭鉱労働と生活に出会う  大神 あゆみ

 

昭和の映画と映画館4・ モーリン・オハラ
映画館が軒をつらねていた街・渋谷で観た憧憬の主人公  北里 信太郎

 

INFORMATION & NEWS
勞働科學のページ
次号予定・編集雑記

 

巻頭言:IT社会に思うこと 井上 枝一郎

 

 

 過日、筆者は携帯電話を忘れて家を出てしまった。その日、どうしても仕事先に連絡をしなければならない用事があったのだが、相手先を知る手立てが全く失われるという事態に直面した。この日は大袈裟にいえば全く仕事にならない一日であった。かねてより、嫌ITモバイル派を標榜していたのだが、知らぬ間に、すっかりその波に飲み込まれてしまっている自分をイヤというほど思い知る羽目となった。

 

確かに、IT機器の便利さはもはや否定しようもないのだが、この手足をもぎ取られたような感覚は一体どこから生まれてくるものだろうか。車に代表されるナビシステムは目的地に迷わずに到達するという点においては素晴らしいものだが、一方で、それらの機器がなければ、不安で運転ができないという人も出現してきているという。人間が情報を取得し、それに基づいて行動を組み立てている、というプロセスの仕組みを追いかけている筆者にすれば、これは一大事であり、とんだ時代の始まりに遭遇してしまったと思うことしきりである。

 

 どんなに便利だといわれる機器、システムであれ、それが社会に与える影響は必ず功罪半ばするというのが通説であろう。ナビがなければ道が辿れないということは、怖ろしいことに思考回路の中にマップが構築されなくなっているという証ではないだろうか。IT化の結果、このような認知構造の持ち主が大量に輩出される社会とは今後一体どのような様相を呈するものか想像もつかない。

 

 思うに、いまや功罪の「功」の部分は認めざるをえないとして、その一方、「罪」の側面は置き去りにされてはいないだろうか。便利さや効率さと引き換えに、われわれは何ものかを失っているに違いない。この功罪が単一の軸上で相反しているのならまだ我慢のしようもある(便利さが増した分、素早い反応が求められるー忙しいー等)。しかし、罪として失うものが全く予期しなかった別の軸上に現れるとしたら(思考回路が変質してしまう等)、これは単に功罪論としてのみ扱ってよい問題であろうか。

 

 IT機器に載る情報とは、常に誰かの手によって総体から切り取られた一部であることは間違いなかろう。しかし、この切り取る過程で削ぎ落とされた情報を含んだものこそ、われわれの思考(時には感情)を形造っているに違いない。事故分析を経験する中でよく遭遇するのが、事象発生前の「兆候ベース」を感知できるか否かが以後の事態の拡大を防ぐ決め手になる例である。これは決して「センサーの感度・精度を上げれば解決する」という課題ではないと考える。機器系統の複雑なマップが思考回路の中に構築されて初めて形成しうる感度のような気がしてならない。

 

 このようなことを書くと、「古い人間の戯言だ」という若い世代の声が聞こえてきそうだが何か納得できない。そこで一言いわせてもらえば「では、ITシステムに取り囲まれた今後の人間の思考はどんな姿になるのかと」。どうやらその答えは未だないらしい。

 (いのうえ しいちろう=公益財団法人 労働科学研究所 理事)
主な著作:『産業安全保健ハンドブック』(共著)労働科学研究所,2013年.
『心理学の理解』(編著)労働科学研究所,2001年.
『心理学と産業社会とのかかわり』(編著)八千代出版,2004年.