労働の科学 70巻2号 農業従事者の安全と健康

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巻頭言
農業従事者の健康とこれからの農村社会
:中澤 あけみ[佐久総合病院 地域健康管理科 師長]

特集:倫理で問われていること

安全な農作業のための課題 農作業事故の対面調査を通して
 :[富山県農村医学研究所/全国農作業事故防止対策連絡協議会]大浦 栄次

日韓交流農業の安全衛生をめぐるの現状と意義 :[滋賀医科大学 社会医学講座衛生学部門]垰田 和史

安全な農作業と人間工学:[独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構]菊池 豊

農薬中毒事故の未然防止と安全対策 :[十文字学園女子大学大学院 人間生活学研究科]田中 茂

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口絵  CSRがつなぐ地域社会と中小企業 1[見る・活動](49)
株式会社ICST 

医療従事者をエボラウイルス感染症から守る(7)
防護服(カバーオール),エプロン・プラスチックガウンの
選定基準と使用上の注意点:榮留 富美子 

深読みILO安全衛生国際基準(17)
ILO夜業条約および勧告:川上 剛 

労研アーカイブを読む(10)
労働科学への旅(8)
「お・も・て・な・し」労働を科学したい:毛利 一平 

にっぽん仕事唄考(17)
炭鉱仕事が生んだ唄たち(その17)
炭鉱発の戦後国民歌謡,常磐炭坑節:前田 和男  

水循環と環境・生活(3)
都市化の中の湧水と河川
国分寺崖線と野川の関係:吉岡 耀子 

[第2回 労働科学フォーラム]
新たな「職場力の向上」に込められた熱い想いへの今後の期待
:前田 充康 

昭和の映画と映画館 七人の侍
映画音楽というジャンルを定着させたテーマ音楽:北里 信太郎

勞働科學のページ
次号予定・編集雑記

巻頭言:農業従事者の健康とこれからの農村社会 中澤 あけみ

 当地域の新聞に「元気100歳時代」という連載がある。ここに登場する100歳になられた皆さんが、いろいろな「健康長寿3カ条」を挙げている。「食べる」「できることは何でもやる」「人の役にたつことをする」「くよくよしない」「野菜づくりをする」など、食と農に関する事柄が多く書かれている。
農業が健康につながる地域をつくることが私たちの願いである。
 しかし、現在、農業を取り巻く情勢には、農村地域の人口減少やTPP問題、農作業事故など多くの課題がある。昨年は、地元の地域において厚生連保健師として耳の痛い話題がいくつかあった。農作業事故防止のキャンペーン中に死亡が3件も発生した。大きな農作業事故で入院された方もいた。
 多目的コホート研究等の地元の結果では、健診受診率が低い職種が農業従事者で喫煙率も高いと報告された。2008年より特定健診が開始され、メタボという共通の健康問題に対する標準的対策が行われている。それに伴い農作業という面からみた安全や健康の実態がわからなくなってしまった。また、現在、農協改革がすすめられているが、その中に農業に従事している組合員の安全や健康の言葉が全くみあたらない。日本農業労災学会創立のあいさつで会長の三廻部眞巳先生が「なぜ、農作業事故が防げないのか。農業以外の業界では、一貫して事故が減少する傾向にあるのにである。これでは研究者の倫理観が不足しているといわざるをえない。人間愛に欠けているのではないか」と述べられている。
 「愛」の反対語は「無関心」ということを思い出した。農家の皆さんの安全や農作業に伴う健康障害について実態がつかみにくく、「無関心」になってきていることを反省する。
これからの農村社会は、健康長寿社会のブランド化への挑戦をするべきだと考える。
 私が実践している農的暮らしを紹介する。わが家は畑が1,600坪と田んぼがある。夫とともに週末農業である。農業機械は田植え機、コンバイン、トラクター、乗用草刈り機などほとんどが揃っている。兼業でもできる労働の機械化をすすめてきた。畑には、佐久地域で栽培が可能な果物や野菜、木の実を多種多様に育てている。宿根草・観賞用の草木や雑草まで数えれば少なくても300種類以上の植物と共存している。四季折々の花に囲まれて農作業をすることが最高のストレス発散と運動不足の解消に役立っている。
 確かに農作業には課題もあるが、芽吹きのわくわく感、花盛りの感激、作物の収穫の喜び、旬のおいしさ、家族や人と人との絆をつくる役割など価値も山ほどある。
 世界では、おいしい水、きれいな空気、良質な土壌やおいしさをつくる寒暖差などすべてそなえて農耕ができる国は限られている。これから、日本の農村社会が健康長寿のブランド社会として輝くことを確信している。現在、微力ではあるが、各地域の農作業の安全や健康上の課題を見える化し、対策を講じながら健康な農村づくり活動に挑戦しようとしている。(なかざわ あけみ=佐久総合病院 地域健康管理科 保健師長、JA長野厚生連健康管理センター 保健師長)
主な論文:
「農作業でいきいき暮らせる健康づくり」『労働の科学』67巻8号、2012年.

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