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労働科学の難しさ-現実社会の原因と結果- ― 虫・鳥・労働科学の目

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やや旧聞となりますが、2017年8月に埼玉・群馬県において病原性大腸菌O-157による集団食中毒事件が発生しました。亡くなられた方もいる重大な事件となり、感染の経路や原因食材の追及が行われましたが、明確な結論が出ていない状況です。原因が分からないことに不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

原因と結果(因果関係)を科学的に実証するには、条件や変数を人為的に統制できる実験に基づくのが効率的な方法ですが、現実の出来事における因果関係を探るには大きな困難を伴うことが多いのが実情です。人間に関係する因果関係(社会における現象)の追及は学術的には「疫学」等によってなされますが、日常的にも幾つかの視点に留意する事で、簡易的ではありますが論理的に因果関係を推定することができます。その方法の1つは「一致法」と呼ばれる考え方です。例えば、集団食中毒事件では、発症した方に共通する場所や食品・食材等がないかを検証します。もう1つの方法は「差異法」と呼ばれています。例えば、同じような食事をしたのにある人は発症し、ある人は無発症だった場合、何か違った点があるのではということを検証する方法です。同じ店舗で同じ食材を購入したのに症状の発生に差があった場合、例えば食べた量が大きく異なっていた、食べる時に十分加熱した場合とそうでない場合の差があった、などです。一致法と差異法はある意味、逆の発想法とも言えますが、一致法と差異法の2つを勘案する事で因果関係の推定の精度が上がります。特に安全や健康に関しては日常の出来事でも原因やその結果を正しく知ることが重要なことは沢山ありますので、ご参考になれば幸いです。

さて、労働科学は、働く人の現実を対象とする学問です。職場の実態や問題の原因を探ることは対策を立てるためには重要な事です。(因果関係の追及のみが目標ではありませんが)、私たちは、様々な測定(環境や行動の物理学的・生理学的測定や心理測定等)を駆使し、現象の記述、原因の検証、対策の立案等を進め、日々の研究を行っています。

(2018年 2月 北島 洋樹、副所長)