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労働科学とエルゴノミクス ー 虫・鳥・労働科学の目

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エルゴノミクス(ERGONOMICS, 人間工学)という言葉は、製品や道具の使いやすさ等々、多くの場面で使われている。人間工学のルーツが労働科学であることをご存じでしょうか。人間工学のルーツは、1857年にポーランドの科学者ヤストシェンボフスキが、ギリシャ語に由来するエルゴノミクスを「労働の科学」として造語したことに遡る。1799年にポーランド北部の村で生まれたヤストシェンボフスキは、ギリシャ語のエルゴン(仕事)とノモス(規範ないし法則)を併せた「エルゴノミクス」という造語を着想し、「エルゴノミクスすなわち労働の科学」と題する論文を1857年にポーランド語で出版した。出版当時、ポーランドは列強諸国による分割統治を繰り返しており、また第二次世界大戦後の東西冷戦時代も西側諸国からは鉄のカーテンで覆われていたこともあり、20世紀末まで人間工学の専門家でもヤストシェンボフスキの論文は知られることはなかった。1997年に国際人間工学連合の事務総長にポーランド出身のカルヴォフスキが就任し、ポーランド語に英語を併記した復刻版を出版したことにより、140年振りに広く知られるようになった。当研究所では、2012年に学術誌「労働科学」88巻6号189-219頁に翻訳出版しており、科学技術振興機構の下記の電子ジャーナルサイト(J-STAGE)で日本語版が公開されている。

労働科学 Vol. 88(2012) No. 6(リンク先 J-STAGE)

わが国では、現在の労働力人口が2065年には約4割減少するなかで、老年人口は増加し続ける見込みであり、働き方改革への取り組みが国や社会で広く叫ばれている。また、長時間労働の改善や高齢者や障がい者の就労支援も喫緊の課題である。

国は事業主に対して、障がい者雇用を法的に義務付けている。現在は民間企業の法定雇用率は2.0%であるが、2018年4月1日から2.2%に引き上げられ、対象となる事業主の範囲も広がる。現在の法定雇用率を達成するにも多くの困難があるなかで、障がい者に見合った職務を探すにも戸惑いがある企業も少なくない。また、障がい者雇用を労働力確保というより福祉やCSRとして位置付けている企業も多い。個々人により能力や機能に違いがある障がい者の職務を考えるポイントが、エルゴノミクスにあるように思われる。国際的に最も広く読まれ続けているエルゴノミクスのテキストの表題が、“Fitting the Task to the Man”である。つまり、ヒトが仕事に合わせるのではなく、仕事をヒトに合わせて工夫することがエルゴノミクスの要点であり核心である。障がい者の一人ひとりに見合った職務を設計することにより、福祉と労働力確保との歩み寄りを目指すことが、障がい者の就労支援の手掛かりではないだろうか。

(2017年11月 理事、主管研究員 斉藤進)