人々が健康で安心して働ける労働環境を目指して96年…

経済政策と労働科学

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近年の経済政策のキーワードは、「一億総活躍」、「女性活躍」、「働き方改革」と続き、今度は「人づくり革命」とされている。労働力人口の減少傾向を緩和させるため、これまで十分活用されてこなかった高齢者や女性の労働参加率を高めていこうとする「一億総活躍」や「女性活躍」、同一労働同一賃金の取り組みや長時間労働の是正などの「働き方改革」によって多様な人材が能力を発揮できる社会を構築する試み、教育や人材への投資を通じて労働生産性を向上させようとする「人づくり革命」。どれも少子高齢化や人口減少という経済社会の変化に対応するものであり、政策の方向性としては正しい。

しかし、どれもが経済成長を加速させるための経済成長戦略として打ち出されていることもあって、経済人としての人間ばかりが前面に出て、生活者としての人間が感じられないきらいがある。いずれの改革も経済社会に根付いた制度や慣習を変えていかなければ進展は期待できず、政府が号令をかければ進むという性格のものではない。労使はじめ社会全体における合意形成が不可欠であり、そのためには生活者の視点からの訴えかけが有益である。

他方、政策形成の潮流として近年注目されているのが、エビデンス・ベース・ポリシーである。問題を直視し、将来を見通し、短期的な圧力でなく数量的な根拠に基づいて、根源的な原因に対処する政策のことだ。

生活者としての人間とエビデンス・ベース・ポリシーという切り口から一連の労働市場にかかわる問題を見るとき、働きやすく安全で健康な職場づくりや労働生活の質の向上を志向する学際的な人間学としての労働科学に対する期待は大きい。「働き方改革」をはじめとする労働の諸問題について労働科学からもっともっと研究の知見を発信していく必要がある。こうした知見が生かされて政策が構想、展開されることによって初めて、「人間の顔をした経済政策」が生まれ、世の中が変わっていくのではないだろうか。

(2017年11月 理事長 濱野潤)