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「虫・鳥・労働科学の目」新設

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このたび、当研究所ではウェブサイトを活用し、意見を表明するコーナーを新しくつくりました。狙いは、労働科学で今を読み解くことで、表題は”虫・鳥・労働科学の目”です。お時間が許される折に、みなさまにご覧いただけることを期待しております。

労働科学的アプローチとは

軽井沢スキーバス事故直後から国交省の二つの委員会に参加した。

一つは事業用自動車事故調査委員会。事故原因究明機関で、2014年に発足した。未明、国道の下り坂で、なぜ、時速96キロの猛スピードで横転・転覆したのか。事故調では、バスとガードレールに残る接触の痕、道路上についたタイヤの跡。これはブレーキ痕なのかタイヤ痕か。このタイヤの跡をトレースしながらバスがガードレールを突き破って横転、崖下に転落するプロセスの解明に全力を注いだ。
この間、距離にして100メートル、時間にするとわずか3秒の出来事だった。ドライバーはブレーキを踏んだのか、踏まなかったのか。どんなハンドルさばきだったのか。次々と浮かんでくる疑問の数々。事故現場に残された数少ない物証を手掛かりに原因を絞り込む過程での、仮説と事実情報のキャッチボール。学んだことは数かぎりない。

もう一つは有識者会議(軽井沢スキーバス事故対策検討委員会)。自動車局長を座長に、自動車局と観光庁の幹部と有識者14名の真剣勝負。約4ヶ月、延べ10回の検討会によって「安心な貸切バスの運行を実現するための総合的な対策」が仕上がった。
なぜ大事故は繰り返されるのか。政策の隘路は何か。では、どうすれば良いのか。貸切バス業界の構造と実態に切り込みながら、再発防止の枠組みと5領域85項目の対策がリストアップされた。個別企業のガバナンス、マネジメントへの改善要求に始まり、制度の見直し、規制・監査の強化、それを裏付けるための通達や法律の改訂などによって実効性を担保した。

事故調の方法は、自然科学的、技術的なアプローチが主で、まさに事故現場に密着した虫の目。これに対して有識者会議では、政策や制度など、いわば社会科学的なアプローチで、上空を飛ぶ鳥の目をもって議論したことに気づく。翻って考えると、虫の目と鳥の目の合体が最強のアプローチであると実感した。これこそが労働科学的アプローチである。

(2017年10月 所長 酒井一博)