財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働科学季刊発行にあたって

学術誌「労働科学」の季刊発行にあたって

「労働科学」編集委員長 前原直樹

 学術誌「労働科学」は2004年の年間を通した特集化で記念の80巻を祝った。7編の総説論文をはじめ53名の方から記事の寄稿を受け、学術誌「労働科学」と労働科学および労働科学研究所がこれまでに果たしてきた役割と今後の課題について議論と交流を図ってきた。
 その中にはこれまでの本誌に対する感謝や励ましと共に批判も頂いた。また、今後の本誌への期待・注文も数多く頂いた。その幾つかを紹介する。
 「今そこ(現場)にある課題(ニーズ)を素早く把握し、かつ正しく『科学する』使命に満ちた編集を、今後とも果たしていただきたい」「『労働科学』が、現場のニーズに正面から取り組む研究者の拠り所として、新しい一歩を踏み出すことを期待する」「系統的な臨場研究のよいメディアである労働科学誌の意義はいっそう大きい。(中略)これからの情報ネットの中で、労働科学分野の臨場性のある研究の発信が交流の輪にのる手立ては、確保されていく」「『労働科学』が今後も斯界の学問的リーダー役を保ち、また、新進の研究者の目標としての役割を果たし続けることを祈念する」「本誌がこれからも労働安全衛生分野における若手研究者を育てる場であり続けることを期待したい」
 今後の本誌に対するより具体的な注文・期待もあった。労働と生活活動についての議論を深めると共に、労働の様態それ自体の報告、つまり仮説検定型の研究だけでなく、長期的な観察、歴史的視点を備えた研究報告がほしいとの注文がなされた。また、途上国、とりわけアジアの各地からの報告にぜひ本誌も一役買ってほしいとの要望や人間工学的研究と実践例が紹介されることが今後益々活発になること、中小企業の安全衛生活動の成功事例報告の場として活用されることなども期待された。
 「これまで労研における職人芸と言われてきた『作業をとらえる』手法を言語化し、その手法としての科学性を明らかにし、技法を現場の産業保健チームに還元していくことは、労研の社会的責任の一つである」との注文もあった。
 本誌は80巻3号から新たな編集方針に基づき、原稿の種類を多様とするなど誌面作りにも工夫を凝らしてきている。原著、資料、症例研究だけでなく、学会で発表された研究成果の中からわが国の産業と労働に関わりの深いテーマを選び「論説」論文の掲載を試みてきている。また、学会だよりや文献紹介の数も増すと共に書評や調査報告の紹介のコーナーも設けてきた。投稿規程も改訂し、「労働科学」は和文と英文の併用誌とするなど編集の改善にも努めてきている。
 しかし、残念ながら、原著論文や資料的な価値の高い論文の投稿が少なくなってきている傾向に未だ歯止めがかかっていない。2005年以降の研究所内外の状況を考慮すると、掲載論文の質を確保しながらの隔月発行は困難と判断し、81巻1号から季刊発行とすることとした。
 80巻特集でも発言されていたように、今日のわが国の労働と産業に関わる課題は実に多様である。特集記事からだけ拾ってみても、有害物発散防止施設の効率的設計などの労働衛生工学での課題や暑熱・寒冷作業の温熱基準の見直し、第一次産業における労働安全衛生、職場の福祉工学の課題を含めた人間工学、作業関連運動器障害の解明、セル方式などの生産方式の労働負担研究、高次専門家の育成に関わる教育・研修科学の課題、中小規模事業所の安全衛生活動の活発化、「裏労働」、テクノロジーの労働への影響解明などが提案されている。
 これらはモノづくりとヒトづくりの労働と産業の発展に対して、労働科学が社会的な役割を果たし、働きがいのある仕事と職場づくりのための問題解決策を示す21世紀初頭のわが国が直面している具体的研究となっている。今後の本誌ではこれらの課題を探求し、これまでに培ってきた伝統の上に新たな発展をとげる場として、多いに議論と交流を図りたいと考えている。読者の方々のこれまでと変わらぬご支援をお願いする次第である。


↑top