財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学58巻5号

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58巻
5号目次

表紙「樹木鳥」drawing by itaru itard

特 集:技術・技能伝承の現在

<俯瞰(ふかん)> 科学的分析の行き詰まり?:飯田 裕康
森 和夫:ものづくり技術・技能伝承の方法
青山 久枝:航空管制官の技術伝承
正田 浩三:設備管理技術の伝承 〜ビルメンテナンス業界の実状〜
高川 健一:原子力発電所運転員の技術伝承

<話題>松元  俊:運転士の睡眠時無呼吸症候群を考える
<産業医学いまむかし(5)>野村 茂: 産業医活動のはじめ
<地球サミットから10年 地球市民めざして(4)>角田季美枝: 買い物の前に環境報告書を読んでみよう
<労働衛生コンサルタント事務所の窓辺(2)> 木田 哲二: こんな事故いかがですか?
<集中連載> 本 節雄:「組織」を考える・2
<Talk to Talk> 肝付 邦憲: 歩き疲れたその先に

特別企画:産業疲労研究会シンポジウム・誌上採録
 新しい「脳・心臓疾患に関する労災認定基準」をどう考えるか

酒井 一博:特別企画にあたって
岩崎 健二:脳・心臓疾患の労災認定基準改正(2001年12月)の経緯とポイント
山本 理江:産業医の視点から
青山 京子:保健師の立場から
佐々木 司:睡眠研究の視点から
斉藤 良夫:疲労研究の視点から

<保護具なるほど博物誌(10)>酸素呼吸器の巻(田中通洋)
<cinema>お金より自由を選んだ少年の“幸せ”さがし−−『ラスムスくんの幸せをさがして』(百瀬しのぶ)
<music> 変わらぬ人々 しかのあきこ(しかのあきこ)
<労働科学のページ>産業用安全帽の通気性能試験に関する検討(伊藤昭好 ほか)/熟練旋盤工の技能・技能獲得過程について−研究課題の提案−(粟津俊二)/女性による非雇用型在宅ワークにおける健康影響とその要因(高橋 誠 ほか)/室内で気中に噴霧された化学物質の気中濃度変動に及ぼす揮発性の影響(原 邦夫 ほか)
books
<books>いのちの旅「水俣学」への軌跡(野沢 浩)

巻頭言<俯瞰(ふかん)>科学的分析の行き詰まり?:飯田裕泰

 技術・技能の伝承は,いつの時代にも常に存在する日常活動であるが,近年この伝承の危機が叫ばれている。
 大きな事故の原因には,従来その業務を実行するうえで前提となっていた個々人の知識や技量が,必要十分なレベルに達していなかった,という共通の要因が見いだされている。「過去のトラブル経験が生かされなかった」,「ベテランがいなくなった時点で事故が発生した」−−などである。また,機械化・自動化が進められるなかで,その機械化・自動化の手本であり,新技術開発の源であった技能の枯渇が話題になり始めてから,かなりの時間が経過している。
 社会全体の多様化に伴う特定領域への人材供給不足,機械化・自動化がもたらす技能習得機会の減少,厳しい効率化要求のなかでの教育・訓練期間短縮など,技能育成にとって不利な条件がますます増加しているのが現状である。
 このような状況のもと,研究者には技能獲得の過程を「科学的」に解明し,技能育成に対して有効な支援方法を開発せよ,という要求が突きつけられている。
 「科学的」研究の常套手段としては,対象を区別可能な要素に分解し,各要素ごとに詳細を明らかにしつつ,対象そのものを理解していくという分析手法がとられる。たとえば,技術と技能を区別して,それぞれの性質を記述する。技術は言葉(文字)や図面などで客観的に一般原則(知識)として表すことが可能である。一方,技能は何事かを実行することであり,それができるかどうかは個々人ごとに閉じこめられていて,詳細を言葉に表し尽くすこともできない。ここまで分析しただけでも既に矛盾が見えてくる。何かを実行すること(技能)には,道具や機械,あるいは環境条件など技術的な要素が必ず前提条件としてつきまとい,これを分けて考えると技能そのものも意味がわからなくなる。同様に技能を,五感の働きや手足の動き,知識などに分解して調べても,実際の技能に近づいているようには感じられない。ましてや,技能獲得の支援方法も,このような分析からは生まれてきそうにもない(分析手法の限界?)。
 技能には,社会的な価値観をはじめ,道具や装置などの生産手段,あるいは材料の性質や環境条件(気象ほか)などの多様さ,実行時間の早さや正確さを含む経済的な諸条件など,単純化して制御することが困難な事柄を総合的に評価し判断する能力が含まれ,さらにその結果を確実に実行する過程が含まれる。知識的な側面からみると,個々の知識の内容もさることながら,知識相互の関連性把握が重要視されている。
 学問的には,人それぞれの内面にだけ注目せず,技能が発揮される種々の状況にも目を向け,「大きな枠組みの中で技能を捉え直す」という努力も続けられているが,実際場面への応用にはまだ距離がある。しかし,種々の条件における繰り返し実践が,技能獲得には欠かせない条件であること,その実践を通して個々の知識が関連づけられていくことは事実である。実践を省略する方法は見いだしにくいが,知識の関連づけには支援の余地があると考えている。
(いいだ・ひろやす=労働科学研究所研究主幹:h.iida@isl.or.jp)

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