財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学58巻3号
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58巻
3号目次

表紙「無芸の馬」drawing by itaru itard

特 集:成果主義の“成果”

<俯瞰(ふかん)>「成果主義賃金」を問う:高梨 昌
田尾 雅夫:成果主義と会社人間のゆくえ
小田 晋:「成果主義」と「癒し」の安全網 〜精神保健と組織の健康〜
鈴木 安名:成果主義下の生活と健康
高戸 満:化学物質管理とコミュニケーション 〜日産自動車の事例〜
赤堀 正成:成果主義下のホワイトカラー

<産業医学いまむかし(3)>野村 茂: 原因の原因を
<ノクトビジョン> 小野寺郁子: 頚肩腕障害防止をめざして
<話題>Ken Yoshida: 北極圏のソープ石彫刻者の呼吸器系疾患の疫学的研究−−産業衛生現地調査
<現場の産業保健ノート(10)> 堀江 正知: 健康情報の保存義務と守秘義務
<地球サミットから10年 地球市民めざして(3)> 角田季美枝:「水」のデータあれこれ
<Letters to the Editor > 北山 孝允:ぜひ健康診断を受けましょう 〜定期健康診断で命びろい〜
<Talk to Talk> 肝付 邦憲: 光と分別知と感性
<海外だより>外山 尚紀: ヴェトナム・カント省労働衛生環境センターとの共同プログラムの進展
<人事部門における障害者雇用方策(6・了)>水谷 一生: 採用・雇用に際しての留意ポイント
<労働衛生コンサルタント事務所の窓辺(1)>木田 哲二:「はじめまして,木田と申します。」
<庫内気流最適化設計開発うら話(1)>小口 康明: 3K用具の快適な使用をめざして
<IT産業の舞台裏 その6>サトウヨシフミ:「適正」って……
<保護具なるほど博物誌(8)>ヘルメットの巻(田中通洋)
<cinema>劣悪な環境下で暮らす少年が抱く希望と絶望−−『SWEET SIXTEEN』(百瀬しのぶ)
<music> 遅ればせながら2002年のあれこれ(しかのあきこ)
<books>地獄の在宅ワーク(佐々木司 )/個別労働紛争処理システムの国際比較(野沢 浩)
<information and news>作業環境測定士指定講習会のお知らせ

巻頭言<俯瞰(ふかん)>「成果主義賃金」を問う
高梨 昌

  日本は円高によって,為替レート換算の製造業時間当たり賃金は,20世紀末には英米を追い抜き,独に次ぐ世界第2位の高賃金国となり,モノづくり産業の国際競争力は著しく弱められた。これに追い打ちをかけたのが,バブル経済が弾け,不良債権の大量発生による金融危機を伴う不況の長期化,政府規制の緩和・撤廃による過当競争である。
  これによって苦境に立たされたモノづくり産業において,この窮地から脱却を図るためになりふりかまわず強行されているのが,総額人件費の抑制などの企業のリストラの推進である。これは「事業の再構築」という次元を越え,正社員の削減などの雇用調整とパート・派遣の低賃金労働者との入れ替え,さらには,ベースアップや定期昇給の停止にとどまらず賃下げにまでおよび,これを実現する有力な手段の一つとして「成果主義賃金」が脚光を浴びてきた。
  これは,事務労働分野のホワイトカラーの管理職を対象として月給制から年俸制への切り替えを伴って実行されはじめ,次第に非管理職にまで拡大されてきている。
  賃金形態の見直しは,時間をかけ,微調整で徐々に行うのが常道で,そのためには追加財源が必要である。しかも,賃金の秩序は労働意欲の刺激やモラール・アップ,チームワークの強化など労働能率発揮の秩序であるうえに,労働者は,一定の賃金収入を前提に生活設計を立てて労働と生活をしているわけであるから,短期かつ大幅な賃金低下を伴う変動や労働者間の賃金格差の拡大を伴う変動は,職場のチームワークを乱し,生活を不安定にさせて労働意欲を削ぐなど,総じて労働能率を低下させる副作用を伴う。
  そればかりか,直属の上司による短期的成果の評価では本人の納得は得られにくい。というのは,人間誰でも,自己の能力を過大に評価することによって労働意欲が高まるわけで,相性という人間関係でも左右される直属上司の単眼の評価・査定では,なおのこと不満が募る。
  この点,長期間かけて選抜し,配置・昇進させ,複数の上司による複眼的評価システムである長期雇用システムと合体した年功制のほうが,本人も納得しやすく人材開発でも遥かに優れている。
  単眼的な成果主義では,上司の評価を高めるためにツケ届けやへつらいを横行させ,不正行為もチェックされず,他方,低評価者の労働意欲の低下と離職を促し,不正行為の外部への通報が頻発し,職場は荒廃しよう。
  とりわけ,日本経済の発展にとって自主技術開発の促進が至上命題であるが,2002年のノーベル化学賞受賞者の田中耕一氏が明言しているように,技術開発には失敗がつきものであるから,短期間の評価は不適切で,長期間かけた評価システムでなければ成果はあがらない。この点,日本の年功制に立つ長期雇用システムは優れている。流動的労働市場では,企業秘密が漏洩し,技術開発は阻害される。
(たかなし・あきら=信州大学・名誉教授)

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(2003.1.1〜)