財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学64巻4号

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64巻(2009年)
4号目次

 

絵:白い街 立体:星を見つめる
前田 昌良

特集:新しい環境リスク管理

<俯瞰(ふかん)>櫻井治彦[慶応義塾大学名誉教授]:化学物質管理をめぐる動向

豊田耕二[日本化学工業協会]:新たな制度体系へ大きく転換する化審法〜ハザードからリスク評価・管理体系へ〜
名古屋俊士[早稲田大学]:医療現場等におけるホルムアルデヒドの取り扱いについて
甲田茂樹[労働安全衛生総合研究所]:ナノマテリアル取り扱いと労働衛生の課題
橋本晴男[エクソンモービル(有)]:作業現場に残されている課題
木村公明[三菱化学(株)]:幅広い展開をめざして〜三菱化学の化学物質〜

<労働科学と私(51)>近松順一:高度成長期の「下層」労働者の実態調査
<まさかの化学物質による健康障害と対策(9)>千葉啓子・高田礼子・高野清子・鶴見麻依・山内 博:ヒ素
<企業に生かすスポーツ心理学(13)>鈴木大地:アクアエクササイズの活用
<ILOこぼれ話(24)>川上 剛:WINDトレーニングが結んだキルギス共和国
<Nature & Humans(1)>菅由美子:人と自然のトータルケア Nature & Humans Total Care
<オランダだより(1)>長須美和子:出会い,そして出発(たびだち)
<知りたい てくのロジー(49)>増田忠英:いよいよ「3D」の時代が到来!?〜続々と実用化される3次元映像の技術〜(前編)
<産業医徒然語り(4)>ツァンイェイ:復職再考?……在職最高?
<産業安全保健エキスパート養成コースNEWS>産業安全保健エキスパート養成コース〜第6期受講者の声〈3〉〜

<大原コレクション散策>『薄布のある帽子をかぶる女』エドゥワール・マネ・作/柳沢秀行・解説
<Cinema>百瀬しのぶ:すべてに「イエス!」で人生は好転する?――『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
<からだにいい“いいからかん”料理(37)>長須美和子・小田島玉惠:カラフル・パプリカとトマトのペンネ!
<Books>山田真行:働くことの心理学



<俯瞰(ふかん)>化学物質管理をめぐる動向 櫻井治彦

 化学物質の種類にはほとんど限りがない。莫大な数の化学物質が使われているし今後も増えるであろう。それらを安全、安心に取り扱っていくのは難しいことである。問題が発生してからの対策ではなく、予防的な取り組みが必要なことはかなり前からわかっており、国際的に、また国内でも努力は払われてきた。しかし従来よりもさらに強力に化学物質管理を進める必要があることが徐々に広く理解されて現在に至っている。
 国際的な動向をみると、1992年の地球サミットの流れを受け、2002年に南アフリカのヨハネスブルグで開かれた「持続可能な開発に関する世界首脳会議」では、次のような方向が示された。すなわち、「予防的取り組み方法に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価・管理手順を用いて、化学物質による人と環境へのリスクを最小化する方法で生産・使用される状態を、2020年までに達成することをめざす」というものである。また、そのために05年までに戦略的アプローチを策定することとした。その結果、06年2月に国際化学物質管理戦略(SAICM)がドバイにおいて採択された。
 この戦略の内容は、上述の目標を達成するために、化学物質管理のための国際的・国内的なメカニズムを確立すること、必要な情報を関係者が入手できるようにすること、関係者の能力を向上させること、技術協力を推進することなどで、数百の行動項目を列挙した世界行動計画を定めている。最近の世界における化学物質管理の動きはそれに沿ったものであり、今は改善に向けた大きな変革の最中にあると言えよう。
 ところで、化学物質管理の技術面での課題は多く、特に有害性の評価は困難度が高い。たった一つの汚染化学物質であっても、人に対する有害性を知り尽くすことは不可能と思われる。なぜなら、人体内にある数万種を超える物質群とその汚染化学物質の相互作用がもたらす毒性影響は極めて複雑なものになり得るからである。われわれは、危険有害性についての完全ではない知識をもとに、安全性を追求していかなければならない。しかし、不確実さをはらみながらも、科学的な根拠に基づくリスクアセスメントは今までも行われ、成果を収めてきたことも確かである。大切なのは、リスクを判断する際の基礎データとその不確実性をできるだけ文書で明示したうえで、リスク管理を行うことである。ヨハネスブルグの会議でまとめられた結論のなかで、「透明性のある科学的根拠に基づいて」と書かれた部分がそれである。そうすることによって、もし不都合が発見された場合には直ちに修正できるし、大事な科学的知見の積み重ねも可能になるからである。
 リスクアセスメントの方法としては、コントロールバンディングなどの簡略な方法も使われてよい。しかし、科学的な根拠の重要性を考えると、有害性についての定量的なデータに基づいて、まずばく露限界値を設定し、次にばく露の程度を考え合わせてリスクを判断するという従来からの基本的な手法を、今後もできる限り採用することが望ましいと考えている。
(さくらい・はるひこ=慶応義塾大学名誉教授)

 
 


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