財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学64巻3号

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64巻(2009年)
3号目次

 

森に浮かぶ舟
前田 昌良

特集:年齢のちから

<俯瞰(ふかん)>なだいなだ[作家]:老人に残された力

西崎泰弘・桑平一郎[東海大学]:加齢による心身の変化とアンチエイジング
田尾雅夫[愛知学院大学]:中高年のソーシャル・スキル
佐木隆三[作家]:宿老・田中熊吉と北九州市マイスター
渡邊邦明[(株)神戸製鋼所]:熟練者が活躍できる環境への配慮

<労働科学と私(50)>越河六郎:労働の現場をよく観ること
<まさかの化学物質による健康障害と対策(8)>国次一郎・奥田昌之・杉山真一・吉武記一・芳原達也:トリクロロエチレン
<企業に生かすスポーツ心理学(12)>鈴木大地:トップアスリートのハーディネス
<ボストン発アメリカ労働事情(3・最終回)>兵頭淳史:「働く権利」と「自由な選択」
<産業保健の現場から(2)>森田哲也:職場で「がん」を考える
<ILOこぼれ話(23)>川上 剛:マリニーさんの教え
<海外だより>久保智英:スリープ・サイエンス〜第19回欧州睡眠学会参加記〜
<産業医徒然語り(3)>ツァンイェイ:産業医の職場巡視って大名行列?
<Talk to Talk>肝付邦憲:出合い
<知りたい てくのロジー(48)>増田忠英:「振動」で発電〜振動エネルギーを電力に変える仕組み〜
<産業安全保健エキスパート養成コースNEWS>産業安全保健エキスパート養成コース〜第6期受講者の声〈2〉〜

<大原コレクション散策>『深海の情景』古賀春江・作/柳沢秀行・解説
<Cinema>百瀬しのぶ:カリスマ革命家チェ・ゲバラの最後の日々――『チェ39歳 別れの手紙』
<からだにいい“いいからかん”料理(36)>長須美和子・小田島玉惠:受験生のお夜食に!! 春色手まり寿司
<Books>岸田孝弥:ブラジル百年にみる日本人の力



<俯瞰(ふかん)>老人に残された力 なだ いなだ


 そろそろ80歳というぼくのような人間に、まだ何ができるか、考えてみよう。原則的には、最後まで残るのは、芸あるいはアートの部分である。100歳まで活躍した画家や彫刻家は稀ではないし、最近なくなった青山光二という作家は、90歳で賞をもらう作品を発表した。編み物や手芸、もの作りの技術を身につけた人は、なかなかそれを失わない。医者でもそうである。医学という学問部分は失われる。新しい医学にはなかなか追いついていけないが、医術という臨床の技術の部分は残る。若い人たちの診察を見ていて、「へたくそ」と叫びたくなることがある。
 個人的には、ぼくは今でも講演を頼まれることがあるので、話は面白いのであろう。若い人の知らないことをたくさん知っているし、生きるために参考になるような体験もしてきた。オバマも勝利宣言のスピーチで、104歳の女性が投票所に出かけた話をしていた。彼女は、アメリカ百年間の歴史を見てきたわけだ。
 ぼくは数々の失敗もしてきた。だが、講演で失敗の経験を話すと喜ばれる。むしろ成功の話をするよりも喜ばれる。その方が役立つのかもしれない。これは無数にあるから、ぼくにとっては、大した財産だ。おっちょこちょいだった子ども時代の話を聞いた人が、おっちょこちょいの自分の息子のことを、なださんと同じだと思うようになったら、焦らなくなり、子どもに干渉しなくなったという。その子どもだと名乗る人が、ある日現れて、ぼくに感謝するかもしれない。
 また、自分が老人なので、老人医学には、若い医者よりは、貢献できそうだと思う。なにしろ若い人と違って、本を読んだだけの知識ではない。体験に裏打ちされているのだ。老人病学は、老人の医者によって、進歩して行くものではないかと思う。
 それくらいの力は残っているのだから、老人介助の名目で、幼稚園児扱いしないで欲しい。まず、老人に会ったら、何ができますか、なにが得意ですか、と聞くことから始めることをお勧めする。
(なだ・いなだ=作家,精神科医)

 
 


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