財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学63巻12号

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63巻(2008年)
12号目次

 

根津S坂の家
いのまたかずお

特集:新型インフルエンザに負けない会社

<俯瞰(ふかん)> 岡部信彦[感染症情報センター]:新型インフルエンザのインパクトと今できること
古賀才博[海外勤務健康管理センター]:日本の海外進出企業の新型インフルエンザ対策
和田耕治[北里大学]:職場における新型インフルエンザ対策ガイドラインの活用
丸谷浩明[事業継続推進機構]:新型インフルエンザ対策としての事業継続計画(BCP)のポイント
川上 剛[ILOアジア太平洋総局]:ILOによる新型インフルエンザ対策へ向けた取り組み〜中小企業への支援〜
江口 尚[エクソンモービル(有)]:エクソンモービルの新型インフルエンザ対策
柴田 高[大幸薬品(株)]:大幸薬品における新型インフルエンザ対策
〈特集関連トピックス〉
吉川 徹・木村菊二[労働科学研究所]感染予防に必要な呼吸用保護具〜労研式マスクフィッティングテスターの活用を〜

<労働科学と私(48)>高橋祐吉:研究者としての「精神」と「姿勢」を求めて
<し・ん・ど・うの科学(12・最終回)>前田節雄:手腕振動ばく露軽減対策方法〈4〉〜作業管理へのアイディア〜
<ILOインフォメーション>ILO駐日事務所:2008年総会の成果と2009年の予定
<「水俣学」と持続可能な社会の再構築(6・最終回)>宮北隆志:水俣・芦北地域戦略プラットフォーム」の取り組み
<企業に生かすスポーツ心理学(9)>高畑好秀:スランプの克服法
<知りたい てくのロジー(45)>増田忠英:天然高分子「セルロース」を生かす技術〜持続可能な社会をめざして〜
<米国の産業看護活動と日本の産業保健・看護の過去・現在・未来(12・最終回)>錦戸典子・白石知子・高橋悦子:産業・環境看護師の役割〈4〉〜研究者,管理者,コンサルタント〜

<大原コレクション散策>『緋毛氈』満谷国四郎・作/柳沢秀行・解説
<cinema>百瀬しのぶ:怪人二十面相が格差社会に斬り込む痛快人間ドラマ――『K-20 怪人二十面相』
<からだにいい“いいからかん”料理(33)>長須美和子・小田島玉惠:ちょっぴりおしゃれに!いろいろカナッペ
<労働科学のページ>ノルマによる心理的ストレスが連続睡眠短縮夜とその後の回復夜の睡眠構築に及ぼす影響(久保智英ほか)/座位継続時における居眠りと空気動圧センサーによる体動波の出現周期・活動量の関連(木村康寛ほか)/踏切における歩行者・自転車利用者のリスクテイキング行動―警報時間の影響―(福田宇志)/第11次労働災害防止計画と数値目標の意義(永田久雄)
<information and news>ワークサイエンスニュース
<books>肝付邦憲:仕事と日本人


<俯瞰(ふかん)>新型インフルエンザのインパクトと今できること 岡部信彦 

 新型インフルエンザウイルス(あるいは遠い過去に流行したことのあるインフルエンザウイルス)が出現すれば、人々の多くは抗体もなく、短期間に新しいウイルスの感染を受け、地球規模での大流行(パンデミック)となることが予測される。
 しかも現在では交通の発達、人口の増加・集中、生活様式など過去のパンデミック時とは比べようもない著しい変化を遂げており、医療医学の進歩の一方、何もしなければこれまでにない拡大速度の早い、大規模な流行の発生と、それに伴う健康被害の増大、そして社会生活への大きな影響がもたらされるであろうことが危惧されているところである。
 パンデミック対策の基本は、できるだけ新型インフルエンザウイルスの発生を遅くし、疾病の拡大を遅らせ、拡大してしまった場合には健康被害と社会の混乱をできるだけ少なくするところにある。したがって初期対応の基本は、発生の予防、早期発見、早期対応であるが、被害が拡大したときの状況を視点に入れた対策をとる必要がある。
 初期対策訓練を行っているニュース映像などを見ると、最初の1〜2名の患者発生に対する対応で、物々しい姿と機材が映し出され、一般の医療とは離れたところでやらないと診療は不可能かのような印象を受ける。またドラマ化されると、多くの人が次々と犠牲になり、再起不能のような世の中の情景が映し出される。
 おそらくは現実は、治る人が大多数であろうが、多くの患者発生と心配不安が押し寄せ、仕事や学校を休む人が多くなることにより社会活動が低下するであろう。ちょうどアジア型インフルエンザ流行の頃(1957年)であったか、小児科開業医であった父は午前の診療は夕方まで、夕方の外来は夜10時、11時まで続き、夜半に具合の悪くなった患者に起こされ「誰か交代してくれないかなあ」とこぼしながらも毎日診療していたことを思い出す。
 パンデミック対策は、医学・医療の分野だけではなく、公衆衛生的対応、そして社会における理解と取り組み、そしてこれらの組み合わせが必要である。またこれらの対策は、新型インフルエンザパンデミック対策一つだけのためにあるのではなく、その他の新たな感染症あるいは既存の感染症のアウトブレイク(突発的な流行)への対応に応用が可能であり、感染症対策全体の底上げとなるものである。
 新型インフルエンザ対策として重要なことは、いかにリスクを下げていくかと言うことである。昨年から今年の前半にかけての若者の麻疹の流行は、社会問題ともなり、麻疹対策が進んだ。麻疹流行、あるいは結核や百日咳などの再興が、新型インフルエンザと同時に発生したなら、リスクは高まる一方である。パンデミック時に健診や予防接種外来をゆっくり行うことはできなくなる。
 また感染症罹患時に、間違いなくハイリスクとなるのは慢性疾患がコントロールされていない人々である。パンデミックのさなかに、糖尿病や喘息などのコントロールを始める余裕はなくなる。これらは、今、余裕のあるときにきちんとしておくよう、リスクの高くなりそうな人にわれわれは強く勧めるべきである。
 必要な予防接種、慢性疾患のコントロール、これは今日にでも、明日にでもできる簡単なリスク軽減の方法である。
(おかべ・のぶひこ=国立感染症研究所感染症情報センター・センター長)

 
 


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