財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学63巻10号

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63巻(2008年)
10号目次

 

YOKOHAMA 赤レンガ倉庫
いのまたかずお

特集:多様化した雇用

<俯瞰(ふかん)> 中野麻美[弁護士]:雇用の液状化

赤堀正成[労働科学研究所]:日本型経営の来し方行く末
岩本充史 [安西法律事務所]:非正規従業員と安全配慮義務
矢野栄二[帝京大学]:非正規雇用労働者の健康を守るために 〜産業保健専門職の役割〜
龍井葉二[連合非正規労働センター]:非正規雇用の現状と労働組合の課題
横山光子[みずほ銀行]:みずほ銀行における多様な働き方の取り組み 
田村雅宣[UIゼンセン同盟]:「ストップ・ザ格差社会」UIゼンセン同盟の取り組み
<books>鏡森定信:雇用形態多様化と労働者の健康
<労働科学と私(46)>守 和子:『ベアテの贈りもの』と女性の働き方<まさかの化学物質による健康障害と対策(6)>河合俊夫・上田尚彦:トルエン
<し・ん・ど・う の科学(10)>前田節雄:手腕振動ばく露軽減対策方法〈2〉〜宣言値を用いた作業管理〜<企業に生かすスポーツ心理学(7)>小川千里:内的キャリアとスポーツ選手の「キャリア・アンカー」<ILOこぼれ話(19)>川上 剛:ディエンビエンフー<「水俣学」と持続可能な社会の再構築(5)>宮北隆志:水俣・芦北地域「子どもの食育パートナーシップ事業」の現状と課題
<知りたい てくのロジー(43)>増田忠英:捨てられていたエネルギーを有効利用 〜用途が広がるエネルギー回生技術〜
<米国の産業看護活動と日本の産業保健・看護の過去・現在・未来(10)>伊藤美千代・高橋悦子:産業・環境看護師の役割〈2〉〜臨床専門家・高度実践看護師,ケースマネジャー〜
<大原コレクション散策>『牛のいる風景――パリ近郊の眺め,バニュー村』アンリ・ルソー・作/柳沢秀行・解説
<cinema>百瀬しのぶ:仕事って? 自分って? 主人公が見つけた答えとは?――『私がクマにキレた理由』
<からだにいい“いいからかん”料理(31)>長須美和子・小田島玉惠:色鮮やかに! 菊とほうれん草のおひたし
<Information & news>ワークサイエンスニュース


<俯瞰(ふかん)>雇用の液状化  中野 麻美

 いまや生きるためのものであるはずの労働は、人々を「死の淵」に追いやってしまうほど未曽有の危機に直面している。働く女性の約5割、男性の約1割が働いても150万円未満の低所得しか得られておらず、所得の格差が拡大している。貧富の格差から見えるのは差別と貧困、そして暴力である。雇用の変化は社会全般に深刻な影響を与えてきたが、この間世間を震撼させた無差別殺傷事件も、そうした深刻な問題を提起している。
 小泉内閣の構造改革が産業社会に落としたものは、「労働の商取引化」と「雇用の液状化」といってもよいだろう。労働者派遣や請負・委託のように第三者に労務を提供する形態は、労働関係のなかに商取引を含んでおり、それが労働者の雇用や労働条件を実質的に決定づけていく。商取引には、独占禁止法が適用されて競争を促進させられるから、労働契約関係に及ぼされるべき労働者保護法の機能を削いでしまう。そうした構造をもった派遣のような働き方(とくに登録型派遣)を、フリーハンドに認めよというのが、規制緩和派の要求だった。
 この間の規制緩和は、「労働は商品ではない」という基本原則を完全に無視して労働を買い叩く余地を広げていった。とくに、99年労働者派遣法の適用対象業務をネガティブリスト化した規制緩和を境に、労働者派遣は一変し、人間をこれでもかと締め付ける鞭として、猛威をふるうようになった。こうした「労働の商取引化」は、仕事と生活のバランスを賃金・待遇とトレードオフの関係とみなして待遇格差(実はそれは女性差別など本来は解消されていなければならないものであった)を容認するという日本型雇用システムのなかに、正規雇用と非正規雇用の格差をてこ(てこネ)にした激しい競争と常用代替を持ちこんだ。そして、雇用の形を大きくかえていった。
 一方の極には、自立して生きられないような低賃金だから生きるために死ぬほど長時間働かなければならない複合就労型・スポット型就労が膨張し、他方の極には、名ばかり管理職問題など、成果主義に揺れる正規雇用型長時間労働がある。前者の労働形態には、本来の継続を前提とする雇用の姿はなく、「休日」「法定労働時間「解雇予告」「年次有給休暇」といった概念など想定できない。後者は、労働者派遣など非正規雇用との競争と常用代替とともに強まった傾向で、正規雇用であり続けるためには非正規雇用にはない相応の責任と結果(業績)が問われるようになった。労務の提供そのものを目的として結果を問わないという雇用契約本来の姿は、もうそこにはない。
 二極化された労働は、競争と常用代替を介してそれぞれこれまでの雇用の形を失って液状化しながら、働き手を非人間的で過酷な支配のもとにおく新しいものへと変容している。こうした労働を放置するところに「ワーク・ライフ・バランス」などありえない。
 本当に誰もが生活しやすい働き方を実現するには、まずは、働いても自立して生きていけないような差別的貧困労働をなくすことだ。労働者派遣法改正問題が、この間の規制緩和政策の是非を問うものとして政治の焦点となりつつあるが、小手先の「日雇い派遣対策」にとどまることなく、雇用の液状化に向かう魔のスパイラルから抜け出すための抜本的な政策転換が求められる。
(なかの・まみ=弁護士)

 
 


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