特集:格差社会と労働組合
<俯瞰(ふかん)>暉峻淑子[埼玉大学名誉教授]:労働世界の破綻と破綻社会
赤堀正成[労働科学研究所]:格差社会の中の労働組合
小関智弘 [作家]:町工場体験から格差を考える
飯田勝泰[東京労働安全衛生センター]:非正規労働者の抱える問題と労働組合の役割
篠田 徹[早稲田大学]:“愚公,山を移す” 〜米国労働運動からみた非正規雇用問題〜
<特集関連トピックス>外山尚紀・鈴木宏二:アジアの労働組合が進める安全衛生活動「ポジティブ」の12年〜2008年来日プログラム報告〜
<トピックス>内藤敏幸:鉄鋼業の地球温暖化対策への取り組み
<労働科学と私(42)>斉藤良夫:労働者の疲労研究から労働科学を考える
<まさかの化学物質による健康障害と対策(3)>竹内康浩: ノルマルヘキサン
<「水俣学」と持続可能な社会の再構築(3)>宮北隆志:「環境首都」をめざす水俣と産廃処分場建設計画〈1〉
<ILOこぼれ話(15)>川上 剛:鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ対策とILOの取り組み
<し・ん・ど・う の科学(6)>前田節雄: 手腕振動の評価<2> 計測データの評価
<企業に生かすスポーツ心理学(3)>水野基樹:モチベーション・マネジメント
<知りたい てくのロジー(39)>増田忠英:復権するディーゼル車〜排気ガスをクリーンにする技術
<米国の産業看護活動と日本の産業保健・看護の過去・現在・未来(6)>湯淺晶子・三橋祐子・錦戸典子: 産業・環境看護の実践範囲 〈2〉
<大原コレクション散策>『鐘楼守』オディロン・ルドン・作/柳沢秀行・解説
<cinema>百瀬しのぶ: 余命6ヵ月と宣告されたふたりの男の,生涯最後で最高の旅―――『最高の人生の見つけ方』
<からだにいい“いいからかん”料理(27)>長須美和子・小田島玉惠: 梅の季節に 鰺の梅煮!
<information and news>ワークサイエンスニュース
<労働科学のページ>包丁研ぎにおける熟練者と非熟練者の動作分析と筋活動様式の比較(白土男女幸ほか)/綿を取り扱っている作業場における綿塵について(木村菊二ほか)ほか
<books>佐々木司: 睡眠心理学
<俯瞰(ふかん)>労働世界の破綻と破綻社会 暉峻淑子
社会を支え維持しているのは、人間の労働です。日本社会はゼネストの経験がないので、人々はそのことを実感せずに、今日まで来たと思います。
考えてみましょう。
パンを焼いたり食料を運ぶのも人間の労働です。交通機関を動かしているのも人間の労働です。学校の先生がいない学校や、医療従事者がいない病院、介助者がいない老人ホームを想像できますか。コンビニもレストランも閉店し、ゴミの回収車もこなくなったら? 資本がなくても、生産力が低下するだけですが、労働がなくなれば、社会は維持できないのです。
いま日本の社会が破綻しかけているのは、労働の世界が破綻しているからです。
低賃金・不確実な短期雇用の生活では、人生の生活設計ができません。いつクビになるか、次の仕事が見つかるか、不安の中で子どもを産み育てることはできません。少子社会になるのも当然でしょう。正規社員であっても、長時間、猛烈に働かされて夜遅く疲れて帰宅するのでは、いい親子関係はつくれません。社会はいつも、次世代が続くことを前提にしています。日本ではその当然のことができなくなっているのです。
国民所得は増え、貿易黒字は未曾有の黒字額ですが、そして、大企業の重役陣の所得は2倍3倍になりましたが、労働者への分配は低下し続けています。そのため、内需と言われる生活必需品の売れ行きが悪化して、小企業は社会保険に加入せず、低賃金の非正規労働者もまた、年金や医療保険の保険料が払えない状態です。労働の世界が崩れたら、社会保険制度も成り立ちません。
このような労働条件の悪化は、グローバルな経済競争のためだと言われています。日本企業は質の高い技術や知的レベルの高さや道徳性で競争するのではなく、手っ取り早く労働者を解雇したり賃金を引き下げることで競争に勝とうとしました。トヨタのカンバン方式(ジャストインタイム生産システム)が人間にもあてはめられたため、モノではない人間が家族も未来もある社会の支え手であること、働く人の破壊が社会の破綻につながることが無視されました。金のためなら何をしてもいい、という偽装社会になり経団連の会長企業でも、偽装請負がありました。
恐ろしいのは、勝つことだけが目標になり、勝って何をするのかがまったく語られない社会になったことです。
そのことは子どもの世界にも大きな影響を与えています。目先のテストではなく、全体性をもつ人間としての基礎をつくり、子どもの持つ可能性のすべてを引き出すのが学校教育であるのに、産業の利潤のための能力づくりの工場になりつつあります。スポーツでも明らかなように、競争にはゴールと競争のルールがきめられます。競争社会の中でそれを決めているのは誰でしょうか。いうまでもなく政財界が自分たちの利益に沿うゴールとルールを定めているのです。
(てるおか・いつこ=埼玉大学名誉教授) |