財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学63巻1号

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63巻(2008年)
1号目次

 

初雪の里山
いのまたかずお

特集:システム監査の可能性

<俯瞰(ふかん)>田中 正躬 [(財)建材試験センター・理事長,前ISO会長]:規制と適合性評価
吉澤 正[帝京大学経済学部・教授,筑波大学名誉教授]:監査の役割
小林亜男[環境・生産技術コンサルタント]:成功するマネジメントシステムの構築・運用〜迷った時には基本に戻ろう〜
鈴木英孝 [エクソンモービル(有)医務産業衛生部・部長]:グローバル企業におけるOSHMSの展開〜効果的なシステム評価プロセスの紹介〜
矢野友三郎[製品評価技術基盤機構 生活・福祉技術センター・次長]:CSR(企業の社会的責任)と安全・安心
富山 仁・中島倫子 [(株)日立グローバル ストレージテクノロジーズ]:グローバル環境経営
<労働科学と私(37)>南 正康:私の歩み〈2〉
<安全・環境の視点で斬る新テクノロジー(1)>村田徳治: バイオ燃料と環境問題
<し・ん・ど・う の科学(1)>前田節雄: 人体振動の世界規格の中のJIS規格および国内法規の位置づけ
<Talk to Talk>肝付邦憲:人らしく
<労働者のための睡眠衛生学(10)>佐々木司: 労働者が知っておきたい睡眠の理論〈1〉〜二過程モデルと三過程モデル〜
<ILOこぼれ話(10)> 川上 剛:成都,蜀の都から
<米国の産業看護活動と日本の産業保健・看護の過去・現在・未来(1)>錦戸典子・佐々木美奈子:産業看護の役割の拡大および教育・研究の発展
<知りたい てくのロジー(34)>増田忠英:液体なのに磁石に反応する「磁性流体」〜ナノテクで注目される機能材料〜
<大原コレクション散策>『二人の労働者』前田寛治・作/柳沢秀行・解説
<cinema>百瀬しのぶ:貧困と暴力……それでも前向きに生きる中米の娼婦たちの物語――『線路と娼婦とサッカーボール』
<からだにいい“いいからかん”料理(22)>長須美和子・小田島玉惠:おせちに挑戦! 伊達巻!
<information and news>
労働科学研究所創立85周年記念事業[現代の労働と安全・保健マネジメント]連続セミナーのご案内
文部科学省特定奨励研究費補助金 研究成果シンポジウム[慢性疲労の発現・進展・回復プロセスの機序解明と予防に関する労働科学研究]のご案内
<books>慢性疲労―そのリスクのマネジメントを学ぶ 松元 俊


<俯瞰(ふかん)>規制と適合性評価  田中正躬

 数年前、「環境ISO」で知られているISO14000ファミリー規格を審議するグループの議長を務める英国人と、環境マネジメントシステムの話をしたとき、多少誇張があるにせよ次のような興味深い話を聞いた。
 「英国の地方に日本企業が新規に進出すると、日本人の担当者は必ず環境規制のことを気にかけ、硫黄酸化物や化学的酸素要求量(COD)などのパイプエンドの排出基準値がいくらかを地方政府に聞きにくる。ところが英国の地域社会では、その産業の技術的な特性や企業の技術能力が異なるので、まずその企業ができうる最大の環境対策計画の提示を依頼し、それを地域住民に公開し、双方の対話を通じて、企業はその地域に受け入れられる環境対策を行う。日本ではまず政府との関係を気にするが、英国では地域住民との関係が重要である。環境マネジメントシステム(ISO14001)は、このような英国の環境管理の手法を規格にしたもので、企業の自主的な努力を社会に公開し、対話することで、環境対策の改善を図ることが狙いである。国、すなわち規制との関係で環境問題を処理するのでなく、技術内容を最もよく知っている企業と環境問題で最も影響を受ける地域住民との間で問題の解決を図っていくべきである。」
 わが国の過去の環境問題への対策は、国が強制的に基準を定め、その基準への適合性評価も国自身が行ってきた。企業も本当はもう少しよい対策を取れるにもかかわらず、国の定めた技術基準を守るだけの対応を行ってきた。
 一方、英国では、上述の話にみられるような市民社会の原点である「国は直接関与せず、地域住民自身が地域の要求に合うかどうかを評価する」仕組みが確立されていたと言える。それが進歩し、適合性を評価する専門的な民間機関が現れ、現在の欧州の制度を支えている。米国の仕組みは多少複雑なところもあるが、歴史的にも欧州とつながりが深かったこともあり、適合性評価については、欧州同様、多くの分野で民間機関が担っている。
 日本では、国が基準を定め、国自らが適合性評価を行い、管理する。民間部門では、お得意様あるいは関連会社など取引関係が深い組織間、すなわち第二者間での適合性評価が主流であった。それが、ISO9000や14000の普及により、今日、第三者認証が広がりを見せている。しかし利害相反(Conflict of Interest)をあまりにも厳密に適用し、個々の組織を認証の対象にする現在のISOのルールは非常にコストがかかるという問題点もある。
 昨今、わが国においても安全確保、品質保証、環境保全などに関係する事故や不祥事が多々起こり、どのように安全性や環境の基準を定めるか、さらにこれらの基準が適切に確保されているかどうかの適合性評価をどのような仕組みで行うかについて多くの議論がなされている。直接的な関係者だけでなく、サプライチェーンや製品のライフサイクル全体にわたる整合的な取り組みが不可欠であるとの指摘もある。
 わが国の「政府と民間の協調的な関係」や「当事者間の相互信頼に基づく商慣習制度」は、自己適合宣言の仕組みと併せることで、今後の安全や環境保全の適合性評価のルールを考えるうえでまだ大きな可能性があるように思われる。
(たなか・まさみ=(財)建材試験センター・理事長,前ISO会長)

 
 


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