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61巻(2006年)
10号目次

 

Get Well Soon 
砂山恵美子

特集:アスベスト飛散防止への実践

<俯瞰(ふかん)>神山宣彦[東洋大学]:アスベストばく露対策への一歩
特集:アスベスト飛散防止への実践
木村菊二 [労働科学研究所]:石綿粉じん問題の経過と今後の課題
林 久人 [秋田大学名誉教授]:アスベストの科学
久野 武 [関西学院大学]:アスベスト・環境行政事始め
<特集関連トピックス[1]> 岸本卓巳[岡山労災病院]:アスベストばく露による健康障害への岡山労災病院の対応
<特集関連トピックス[2]> 熊谷信二[大阪府立公衆衛生研究所]車谷典男[奈良県立医科大学]:クボタ旧石綿管工場周辺における中皮腫の疫学評価

<産業医学いまむかし(41)>野村 茂:鉄道運転士の健康
<労働科学と私(22)>正田 亘:労働科学研究所の先生方とのおつきあい
<安全・安心(7)>酒巻 久:ネットワーク時代の情報の漏洩とその防止策
<労働の科学Q&A>鈴木裕生:アスベスト除去作業用保護衣の種類と構造
<話題>川瀬洋平・筒井隆夫・堀江正知:暑熱環境におけるクールビズ着用の生理的影響
<新しい働き方を探る(22)>水野基樹:スローキャリア
<話題>井奈波良一:遺跡発掘現場の労働負担 〜夏期の熱中症対策〜
<知りたい てくのロジー(19)>増田忠英:ナノテクノロジーが新たな時代を切り拓く 〜21世紀の新素材「フラーレン」「カーボンナノチューブ」の可能性〜
<大原コレクション散策>『幻想』ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ・作/柳沢秀行・解説
<Cinema>百瀬しのぶ: 150年以上に渡る三池炭坑の歴史を正面から捉えた話題作――『三池 終わらない炭坑(やま)の物語』
<からだにいい“いいからかん”料理(7)>長須美和子・小田島玉恵:昆布でヘルシー! くーぶいりちー(昆布の炒り煮)
<Information and news>
ワークサイエンスニュース
作業環境測定士登録講習会のお知らせ
労働科学研究所協賛「働く人々のための安全衛生マネジメントのあり方」開催のお知らせ
<Books>
鈴木一弥:生物時計はなぜリズムを刻むのか


<俯瞰(ふかん)>アスベストばく露対策への一歩 神山宣彦

 大量に産出し値段が安いアスベスト(石綿)は、極めて有用な工業材料として世界中で使われてきた。人に安全と快適という恩恵を与え「奇跡の鉱物」と呼ばれたが、1970年代頃までにアスベストばく露20〜50年後に肺がんや中皮腫を発症する人がいることがわかり、一転して「静かな時限爆弾」として恐れられる鉱物になった。アスベストの有害性の認識が遅れた人類は、長い間、不適切な使い方をしてしまった。そして、ついにその安全な使用方法は開発できず、今やほとんどの先進工業国では使用禁止となった。
 わが国では、今後21世紀の中頃にかけて石綿吹き付けや保温材を使用した建築物の解体・改修が最盛期を迎える。それらの解体・改修作業者の新たな石綿ばく露を防止するために、昨年7月1日に「石綿障害予防規則」が施行され、厳重な対策が立てられた。そうした矢先の昨年6月末、尼崎市の旧石綿管工場が、従業員のみならずその家族および周辺住民にアスベストばく露に特異的な中皮腫が多数発生している事実を公表した。厳しい法規制のなかった1955〜75年頃の約20年間、青石綿(クロシドライト)を使った高圧ヒューム管(水道管)を製造していたその工場では、劣悪な作業環境から飛散したアスベストが工場内のみならず周辺環境も汚染してしまい、長い潜伏期間を経て今になって近隣住民にも中皮腫を発症させているとみられる。このアスベスト環境汚染による死亡者の発生は、人々に大きなショックを与え、たちまち大きな社会問題となった。現在、類似の懸念は全国に広がっていて、厚生労働省、環境省、国土交通省など多くの省庁、自治体などが深刻な事態の対応にあたっている。
 各機関が、55〜75年の同じ頃,アスベスト製品を生産していた工場従業員とその周辺を調べた結果では、青石綿を使用した製品の生産工場周辺住民に中皮腫の発生がいくつか確認されたが、尼崎の工場と同様の劣悪な環境で生産していたにしてはまったく周辺住民に中皮腫を発生させていない工場も見られた。これらの工場では白石綿(クリソタイル)を主に扱っていた。
 71年に特定化学物質等障害予防規則(特化則)が制定され、アスベストもその管理下に入った。また72年には労働安全衛生法が制定され、作業環境管理が事業主に義務化された。こうした一連の法規制の結果、作業者の職業病は急速に減少した。アスベストの疾病発生までの潜伏期間は30年から50年と長いのでまだその効果をみるのに十分な時間は経過していないが、他の職業病と同様に製造工場の従業員に発生するアスベスト関連疾患(肺がんや中皮腫)が減少したことは間違いない。
 しかし、アスベストが使用された建物や船舶などの解体や改修、電気工事や内装作業などで作業者が知らずにアスベストにばく露する危険性は極めて高い。それは既存の法規制では防げない。そうした作業者から今後どの程度アスベスト関連疾患が発生するかが現在大きな問題である。そのため、石綿障害予防規則が施行され、新たなアスベストばく露対策は立てられた。今後はその規則によってどこまでアスベスト関連疾患を減少させられるかという実効性の問題となる。
 そこで今後重要になるのは、アスベスト含有の有無の鑑別法、建物解体・改修時にアスベスト漏洩をすぐにチェックできるリアルタイム測定法、そしてどんな粉じん作業においても必ず呼吸保護具を着用する習慣を身につける教育を学校や社会で推進することなどである。
(こうやま・のりひこ=東洋大学経済学部・教授)

 
 


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