財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学61巻9号

 労働の科学  労働科学  書籍・雑誌のご注文&ご案内

61巻(2006年)
9号目次

 

築地にて 
砂山恵美子

特集:「慢性疲労」への新しいアプロ−チ

<俯瞰(ふかん)>森岡孝二 [関西大学]:日本人の働き方と疲労蓄積

佐々木司 [労働科学研究所]:労働者の慢性疲労を考える
前原直樹 [労働科学研究所]:出版労働者の仕事・生活と健康〜慢性疲労と週内性疲労の特徴像〜
車谷典男ほか [奈良県立医科大学]:医師の労働時間と睡眠
川村 雅則 [北海学園大学]:職業ドライバーの労働実態と慢性疲労
松元 俊 [労働科学研究所] :慢性疲労研究の現状 〜日本産業衛生学会シンポジウムより〜

<産業医学いまむかし(40)>野村 茂:産業看護師の歩み
<労働科学と私(21)>沢野 勉:労研で得たふたつの宝――時代と人と
<短期集中連載:なぜ鳥イフルエンザが労働衛生なのか(3)>川田諭一: 現実を生きる
<労働の科学Q&A>篠宮真樹:プレッシャデマンド形エアラインマスクについて
<地球との共生をめざして(5)> 鷲谷いづみ:生物多様性と生態系を脅かす外来生物<1>
<Talk to Talk>肝付邦憲: 何を今更
<トピックス>鈴木一弥: 仕事中の眠気の対策
<知りたい てくのロジー(18)>増田忠英:無尽蔵の太陽光エネルギーを有効利用〜効率と低コストをめざして開発が進む「太陽光発電」〜

<大原コレクション散策>『かぐわしき大地』ポール・ゴーギャン・作/柳沢秀行・解説
<Cinema>百瀬しのぶ: 仕事を優先したばかりに妻を失ってしまった男の,愛と再生の物語――『愛と死の間で』
<からだにいい“いいからかん”料理(6)>長須美和子・小田島玉恵:手間なし! まぜ・まぜご飯
<労働科学のページ>
単一企業分散型小規模事業場における業務管理実態の調査を通じたメンタルヘルス対策の立案(鈴木安名)/平井毓太郎教授記念碑「平井乃梅」とその行方(堀口俊一ほか)/組織事故モデルによる事例分析の試み(菅沼 崇ほか)
<Books>藤川美枝子:仕事ストレスで伸びる人の心理学 争わず,逃避せず,真正面から立ち向かう


<俯瞰(ふかん)>日本人の働き方と疲労蓄積  森岡 孝二

 昨年8月に出した『働きすぎの時代』(岩波新書)のカバーに、「いたるところから働きすぎの悲鳴が上がっている。労働時間が1日10時間を超えるほどに長ければ、疲労とストレスがたまり、最悪の場合は死に至ることになる」と書いた。
 NHKの2005年の「国民生活時間調査」によると、男性は週平均51時間働いている。総務省統計局の『労働力調査』によると、30代の男性の4人に1人は週60時間以上働いている。女性も男並みに働く人が増え、先のNHK調査では、女性の10%は平日10時間以上働いている。既婚女性は収入労働と家事労働の二つのシフトをこなしており、合計すると週平均60時間を超える。
 働きすぎは、慢性疲労はもちろん、うつ病や過労死、過労自殺を生み出す恐れがある。2004年の『厚生労働白書』は、企業における雇用管理が変化し、人びとは精神的なストレスを蓄積しやすくなり、心の病が広がっている、と指摘している。注目されるのは、1993年以降うつ病が急増していることである。同白書は「精神疾患と自殺に関する各種の研究成果を踏まえると、自殺者の80〜100%に心の病が認められ、また、その中で最も多いのがうつ病であり、自殺者の30〜70%が罹患している」という。
 日本の自殺者数は、大企業の倒産が相次ぎリストラが吹き荒れた98年度以降、3万2千人台から3万4千人台に増大した。その前の10年は2万1千人台から2万4千人台で推移したことを考えると、この変化は劇的である。
 警察庁の発表資料を見ると、2005年の自殺者総数は3万2,552人で、うち男性が2万3,540人と全体の7割を占める。遺書ありの原因・動機別には、「健康問題」(40.0%)、「経済・生活問題」(31.4%)、「家庭問題」(9.8%)、「勤務問題」(6.3%)の順となっている。98年度以降の急増が顕著なのは、経済生活問題と勤務問題の二つである。このことから、自殺者の増大の背景には、倒産、失業、就職難、働きすぎ、ストレスなど、雇用・労働環境の悪化があると推察される。
 うつ病の罹患者と自殺者が増えたこの10年は、パソコン、Eメール、インターネットが劇的に普及した10年でもあった。98年の『通信白書』は、「情報通信と生活に関するアンケート」から、情報通信メディアの利用者は、睡眠時間、余暇時間が減少し、労働時間が増加する傾向にある、と指摘している。2005年の『情報通信白書』によれば、ネット利用者の生活時間でとくに目立つのは睡眠時間の減少である。
 厚生労働省は、2004年6月、「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」を同省と中央労働災害防止協会のサイトに公表した。それに先立ちその試作版が公開されたところ、瞬時にアクセスが殺到し一時つながらない状態になった。このことはネットの普及と疲労蓄積の広がりを同時に示している。
 情報化が働きすぎを募らせている今こそ,時短に取り組み,働き方を変えなけれならない。でなければ日本はいよいよ過労死社会になっていくだろう。
(もりおか・こうじ=関西大学経済学部・教授)

 
 


労研出版物のご注文はこちらへ労研の出版物のご注文について