財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学61巻2号
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61巻(2006年)
2号目次

 

駅前のオアシス
砂山恵美子

特集:介護現場のリスクマネジメント

<俯瞰(ふかん)>
介護従事者という弱者 篠崎良勝

是枝祥子:介護現場はリスクがいっぱい
宮田喜代志:介護労働者のストレスと自己実現
北原照代ほか:介護負担軽減のためのリスクマネジメント〜在宅介護を中心に〜
木下壽國 :自分を責めないで〜「介護の常識は非常識」〜
編集部:国際『職場暴力ガイドライン』とこれからのリスクアセスメント

<産業医学いまむかし(37)>野村 茂:メンタルヘルスのこと
<労働科学と私(14)>山田信也: 労働の現実から学問の課題を
<安全・安心(5)>庭野峰雄:構造計算書偽造とマンションの価格破壊
<From Lab(14)>労働社会生活研究グループ:フリータやニートはどうして市場万能主義を支持するのか
<労働の科学Q&A>浅井保義:検知管用の真空式吸引ポンプの吸引速度について
<トピックス>河口真理子:CSRの重要テーマ 労働のダイバーシティ<下>
<新しい働き方を探る(18)>水野基樹: ディセンタリング
<知りたい てくのロジー(11)>増田忠英: 史上初!小惑星のサンプル採取に成功〜将来の宇宙探査への道を拓く小惑星探査機「はやぶさ」の技術〜
<話題>平瀬詠子ほか: 事業場におけるヘルスキーパー(企業内理療師)の役割
<産業安全保健エキスパート養成コースNEWS>編集部: 企業の社会的責任などについて講義

<cinema> 百瀬しのぶ :労働争議上,重要な判例となった全米史上初のセクハラ裁判に基づいた話題作?――『スタンドアップ』
<Information and news>ワークサイエンスニュース
<books> 赤堀正成:ハードワーク〜低賃金で働くということ〜


<俯瞰(ふかん)>介護従事者という弱者  篠崎良勝

   「NIMBY(ニンビー)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。 “Not In My Backyard”の頭文字をとってニンビーと言うそうだ。日本人的に訳せば「必要なのはわかるけど、自分の裏庭ではやらないで」という意味になるだろう。
 私自身、このニンビーという言葉は、介護労働者の労働環境の現状を端的に表している言葉と思っている。
 介護という仕事に対して、「介護職は必要だが、私はやりたくない」「介護従事者は素晴らしい職業だと思うが、私にはできない(やりたくない)」というニンビー的意識が被介護者や家族ばかりでなく、一般の人々の意識に内在していることが考えられる。
 また、介護従事者として働いている者に対する「凄いですね」「偉いわね」という言葉はどのような意味なのだろうか。つまり、この言葉が発せられるとき「何が」凄いのか、「何が」偉いのかは曖昧なのである。医者や弁護士という職業に対する「凄いですねぇ」「偉いわねぇ」という言葉は、明らかに職業的地位、収入、難易度、社会貢献性などが相互に作用していると考えられるが、介護従事者に対して発せられた「凄いですね」「偉いわね」とは社会貢献性に対してのみであり、職業的地位、収入、難易度に対するものでないのは現実を考えれば明らかである。
 換言すれば、この介護従事者に対する「凄いですね」「偉いわね」とは、人が率先して行わない(嫌がる)ことを仕事にしていることに対する「凄いですね」「偉いわね」であろう。つまり、この言葉は、嫌がることを率先して行っている「個人」に対する褒め言葉であって、介護を仕事とする「職業」に対する褒め言葉ではないのだ。このように、介護という職業的地位は残念ながら極めて低いと言わざるをえない。
 このような状況に置かれている介護従事者の状況は、小手先の手法で修正が可能なほど容易なものではない。したがって、介護従事者の労働環境を考えていく場合に大切なことは、何が介護従事者の地位の確立を妨げ、何が介護従事者に就くことを阻害しているのかを解明することである。
 私は以上のような介護従事者の周辺に存在しているさまざまな阻害要因をケア・ハラスメント(ケア・ハラ)と表現している。それは、「介護従事者から介護サービスを受ける被介護者や関係職種、およびさまざまな環境が、介護従事者の介護行為を遂行しようとする過程や行為を意図的、非意図的を問わず、妨害する言動や環境」である。
 具体的には介護従事者の職務以外の内容を平然と依頼してくる被介護者の言動、介護従事者に対する性的嫌がらせ、身体的・精神的暴力、そして最も根深いのは被介護者やその家族、そして他職種の介護従事者に対するゆがんだ意識や誤った認識などが挙げられるだろう。
 「介護従事者にとって最も耐えがたい重荷は、周囲の介護従事者に対するゆがんだ態度や環境である」と私は訴え続けてきた。介護報酬の問題、医療行為の問題など介護従事者を取り巻く問題は、介護従事者に対するゆがんだ態度や環境から生み出されたものに過ぎないと考えている。一刻も早く、“Not In My Backyard”から“Yes, In My Backyard”になることを願っている。
(しのざき・よしかつ=八戸大学 人間健康学部人間健康学科・講師)

 
 


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