特集:産業安全保健エキスパートの創造
<俯瞰(ふかん)> これからの日本の人材育成 澤田陽太郎
宇佐美聰:三菱電機の人材確保と育成の取り組み
福成雄三:住友金属における安全衛生管理担当者の育成 〜安全衛生管理の進め方から考える〜
丸山修治:マツダの人材養成プログラム
酒井一博:労働科学研究所の新規人材養成事業 〜産業安全保健エキスパート養成コースのねらいと実践〜
<産業医学いまむかし(34)>野村 茂:労災病院ができて
<労働科学と私(11)>大島正光:疲労の研究 〜研究者として,労研時代の思い出〜
<トピックス < 津金昌一郎 :タバコとがん 〜厚生労働省研究班による多目的コホート研究より〜
<From Lab(11) >システム安全研究グループ: 安全・安心な作業・組織・社会をめざして
<安全・安心(4) >内田幹樹:JALの連続ミス――もの言えぬ職場が招いた事態
<労働の科学 Q&A>小口康明:防じんマスクの収納ケースについて
<知りたい てくのロジー(8)> 増田忠英:地球環境を浄化する21世紀のキーテクノロジー 〜光エネルギーで有機物を分解する「光触媒」
<話題>植松清美ほか:ノミナルプロセスグループと職場のメンタルヘルスでの活用事例
<Talk to Talk>肝付邦憲:中国,一旅行者の目
<新しい働き方を探る(17)>水野基樹:インプレッション・マネジメント
<労働衛生コンサルタント事務所の窓辺(24)>木田哲二:一般健康管理<その2>
<巻頭コラム・二十一世紀は「心」の世紀(11)> 林雄二郎:文明材の社会的利用
<cinema>百瀬しのぶ:人生の機微を描いたらピカイチの作家,J・アーヴィングの小説が待望の映画化!――『ドア・イン・ザ・フロア』
<information and news>
労働科学研究所実務セミナー 人事・総務担当者のためのメンタルヘルス対策
作業環境測定士登録講習会のお知らせ
<労働科学のページ> 職場における循環器疾患予防のための労働と生活に係る対策(前原直樹)/中国紡績業における女性従業員の労働負担に関する調査研究(黄河ほか)ほか
<books>石井まこと:ポスト工業化と企業社会
<俯瞰(ふかん)>これからの日本の人材育成 澤田陽太郎
日本の経済社会で「失われた年」+α年の間に変化したものの一つに、企業の人材育成投資の減少がある。Off-JTや計画的OJTの実施も低下傾向にある。
一方、企業の経営資源はカネ、モノ、ヒト、情報と言われるが、現在進行中のポスト産業資本主義においては、ヒトと情報の重要性が飛躍的に高まっている。これまでの「人材、ヒューマンリソース」が「人財、ヒューマンキャピタル」と表現されるようになっているのもその証左で、グローバル化の下で世界的規模での人材獲得競争が生じている。
能力開発(人材育成)の責任主体について、企業は労働者個人の責任と考える傾向にあり、労働者も能力開発に対する意欲は高いが、時間的、金銭的問題がある。
生産年齢人口が2010年以降大幅に減少していく中で、日本の経済社会の活力を維持するためには、労働者一人ひとりが能力を高め、十分に発揮することで経済社会主体の労働生産性を高めることが必要である。これは、労働者自身が長期化する職業生活を変化に対応しつつ、全うするためにも必要なことである。
したがって、社会全体として人材への投資を強化することが不可欠と言える。その際、企業主導か労働者個人主体かの二者択一ではなく、両者の役割分担と連携が重要になってくるが、労働安全衛生分野の人材育成は、各種の法定義務との関係もあり、企業主導が柱であることは論を待たないであろう。
労働安全衛生の最近のトレンドは「災害ゼロから危険ゼロへ」、その手法はリスクアセスメント、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)と進化している。特にOSHMS(品質・環境に関するISOマネジメントシステムの形式を労働安全衛生管理に適用したもので、ILOが2001年にガイドラインを公表)が普及・定着するためには、OSHMSが経営システムの一部(サブシステム)である以上、製造部門、技術部門、調達部門等をも洞察しつつ、労働安全衛生問題に的確な判断を下し、企業を社会的存在、社会の公器として認識して経営陣にきっちり意見具申できる人材が重要となる。
ものづくりの分野では、熟達した専門技術・技能を軸に多能工化した「T」型人材を一つの育成モデルとしているが、労働安全衛生の分野では「金平糖」型人材を期待したい。つまり、芯となる粗目糖(専門能力)を鉄製の平鍋(育成の場)に入れて下から火を焚き、何度も糖蜜(産学、実習等の教育メニュー)をかけながら、かき回すうちに多数の角(センサー)が出来上がる金平糖――。
こうした人材育成を図るには、単独の期間では無理があり、関係分野の専門家、機関、団体そして産業界が結集してプラットフォームを組むことが効果的である。
(財)労働科学研究所の今回の人材養成プログラムには着目し、大いに期待している。
(さわだ・ようたろう=中央労働災害防止協会・理事長、前・厚生労働事務次官) |