特集:備えあれば……自然災害対策
<俯瞰(ふかん)> 地震/労働/企業/スキルを持つ市民 中井久夫
野田健太郎:企業における防災システムの市場評価
宮川 裕:阪神・淡路大震災に学ぶ神戸製鋼の地震対策
倉林るみい:震災後の心の反応 〜PTSDも含めて〜
高橋光男:消防職員と非常事態ストレス
<産業医学いまむかし(33)>野村 茂:恕限度から許容濃度等に
<安全・安心(3)>向殿政男:大型自動回転ドアの事故を振り返る
<労働科学と私(10)>天明佳臣:労働保健と臨床の間で
<慢性疲労研究に挑む〜脳科学研究の新展開を迎えて〜(4) > 岩崎健二 :疲労評価方法の充実による過重労働対策の推進
<From Lab(10) >労働ストレス研究グループ: 慢性疲労プロジェクトのいま
< 労働の科学 Q&A>小山博已:鉱物性粉じんの測定に使用する分粒装置
<知りたい てくのロジー(7)> 増田忠英:自然に還るプラスチック〜水とCO2に分解される生分解性プラスチック〜
<シリーズ・環境問題と社説(10)>肝付邦憲:エネルギー利用と環境問題<2>
<労働衛生コンサルタント事務所の窓辺(23)>木田哲二:一般健康管理<その1>
<巻頭コラム・二十一世紀は「心」の世紀(10)> 林雄二郎:情報について考える
<cinema>百瀬しのぶ:奇才が描く大人のファンタジー――『チャーリーとチョコレート工場』
<Letter to the Editor>石母田あゆ子:秘められたオホーツク開拓史〜タコ部屋労働の跡を訪ねて〜<下>
<information and news>
労働科学研究所実務セミナー 人事・総務担当者のためのメンタルヘルス対策
ワークサイエンスニュース
<books>青柳直子:危ない!「慢性疲労」
<俯瞰(ふかん)>地震/労働/企業/スキルを持つ市民 中井久夫
災害の顔は実にさまざまである。
話を地震に限っても,神戸の震災の経験が新潟中越地震に生きたこともあるが,まったく勝手が違った点もある。
今年7月23日午後4時過ぎの東京(千葉県北西部)地震ではエレベーター閉じ込めと看板落下が問題になった。神戸でエレベーターに閉じ込められた人は1名,看板の落下で誰もケガをしなかったのは早朝の地震だったからにすぎない。
東京では帰宅が大問題となった。老人婦女子しか自宅にいない時間帯の大災害は,家族の安否を知ることが最優先である。それ抜きでは士気がもたない。
神戸から大阪に通勤する社員に対して「いつまでも甘えるな」という罵声が飛んで,自殺未遂者が出た。倒壊家屋から出勤している女子社員だった。
被災家族は猛烈に多忙である。それなのに家庭を顧みなかったと,離婚の続出した職場があった。公私の両立はすべての職場の重要課題である。米国では緊急要員以外は休むらしい。
必ずマニュアルにないことが起こる。電車が空を飛ぶことをだれが予想したか。とっさに状況を判断して対応する柔らかい頭が必要である。JR福知山線事故の際の路線脇の企業のすばやい救助活動は,欧米ならば即座に「ヒーロー」として讃えられたであろう。企業主が決断した社員は「スキルを持つ市民」として活動した。「スキルを持つ市民」は臨機応変に強い。
神戸でも市民救出が9割方だと言われた。しかし,新潟の人たちのスキルは格段に上で,みなすごいと感嘆した。専門家の現場到達は現場の市民より遅く,救出人数も1桁低い。しかし,専門家にしか救えない場合があることはまちがいない。数の市民と質の専門家は補い合う関係にあったし,これからもあるだろう。そのための市民向け講習やマニュアルがあってもよい。
マニュアルは万能ではないが必要である。現在,マニュアルのレベルの差は大きい。地方自治体のものは中枢が無傷という前提で作られているものがある。静岡県と愛知県のマニュアルは抜群によいという。両県は神戸への救護行動がすでに卓越していた。東海大地震への長年の備えの賜物か。
今の対策は自社,自地域の守り中心である。他社,他地方への救援を大いに視野に入れてほしい。企業が地域への姿勢を問われる正念場である。
神戸の場合,全国にネットワークのあるコープとダイエーが即日救援を申し出た。瀬戸内海の多くの汽船会社は傘下の船舶に神戸港集結を命じた。総じて災害に強いのは明治以来あるものだった。自転車,郵便,船舶,それに現金である。カードも小切手も役に立たない。
神戸の震災直後に他都市への救援を考えてみた。東京の大きな川は邪魔だが役にも立つ。舟運の活用を考えておく必要がありそうだ。
倒壊家屋解体の際,アスベストじん埃が空中にきらめいていたのを思い出す。一般人もだが,解体作業の従事者に特段の配慮が必要だ。
(なかい・ひさお=神戸大学名誉教授,精神科医) |