財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学60巻8号
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60巻(2005年)
9号目次

鏡の井戸
スナヤマエミコ

特集:変わる 化学物質リスクマネジメント

<俯瞰(ふかん)> 化学物質管理の新たな展開 北野 大
浦野紘平:化学物質をめぐる安全・安心への道筋
橋本晴男:包括的な化学物質マネジメントの方法
棗田衆一郎:ILOの進める化学物質管理手法
朝武真由美:職場における化学物質管理と社内のリスクコミュニケーション
増田 優:これからの化学物質総合管理〜教育の現状と人材育成への試み〜

<産業医学いまむかし(32)>野村 茂:産業医学の研究機関
<労働科学と私(9)>原田正純:一酸化炭素中毒と二硫化炭素中毒
<トピックス > 渡邉政嘉 :人間工学テクノロジーロードマップを創ろう!
<From Lab(9) > ヒューマン・テクノロジー・インタラクション研究グループ: 人と環境・機器・技術とのインタラクション
<知りたい てくのロジー(6)> 増田忠英:わが家に“燃料電池”がやってくる 〜 水素と酸素から生まれるクリーンエネルギー〜
<学会レポート>斉藤良夫:生活と不可分である人間の疲労を医学はどのように研究できるか〜第1回日本疲労学会に参加して〜
< 労働の科学 Q&A> 明星敏彦:防じんマスクの選び方は?
<Talk to Talk>肝付邦憲:人に触れ折にふれ
<労働衛生コンサルタント事務所の窓辺(22)>木田哲二:第78回日本産業衛生学会<2>
<新しい働き方を探る(16)>水野基樹:ワーク・ファミリー・コンフリクト

<巻頭コラム・二十一世紀は「心」の世紀(9)> 林雄二郎:「三種の神器」の登場の意義
<cinema>百瀬しのぶ:ひとくみの夫婦が離婚に至った,男女の気持ちのズレを描く――『ふたりの5つの分かれ路』
<information and news>
草の根レベルの仕事と健康づくりを模索 〜ILO開発援助セミナー〜
労働科学研究所実務セミナー 人事・総務担当者のためのメンタルヘルス対策
<books>清野敦子:世界で仕事をするということ


<俯瞰(ふかん)>化学物質管理の新たな展開

 現代社会において化学物質の果たしている大きな役割については誰もが認めるところであろう。一方,化学物質の使用により人への健康被害・環境生物への悪影響が生じたことも事実であり,PCB,DDT,有機スズ化合物などにその例を見ることができる。
 これらの化学物質に対する対策として,化学物質の安全事前制度が1970年代に日本,米国,欧州各国に導入された。わが国では,73年に化学物質審査規制法が,米国では76年に有害物質規制法が,欧州では79年に6次修正指令が制定されている。日本と米国の法の名称にあるように,これらの法は基本的には“規制”という手段により化学物質の安全性を確保するものであり,規制を行うための根拠(データ)が必要となる。
 現在,市場には数万とも数十万種とも言われる化学物質が流通しており,これらは多種多様な性状を有すると同時に,種々の使われ方をされている。また化学物質の安全性データを取得するには,長期の時間と多額な費用がかかる。これらの点を踏まえ,90年代以降,化学物質の安全対策に規制に加えて事業者による自主管理の考え方を導入する必要性が認識されてきた。その具体的な例が99年に制定されたいわゆるPRTR法(特定化学物質の環境への排気量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)である。この法律は排出・移動量を報告する義務(規制)と排出量などを自主的に削減する努力(自主管理)の両者から成り立っている。この法の名称には“規制”という言葉はなく,“管理の改善の促進”となっている。なお,規制には法による監視という網がかけられるが,自主管理の場合には情報の公開が必須であり,それにより住民の監視という網がかかる。
 規制プラス自主管理という考え方は2004年の大気汚染防止法の改正の中にも導入されている。すなわちVOC(揮発性有機化合物)の排出抑制策として規制は経済的にも対応可能なレベル(具体的には大口排出者)で行い,残りは自主管理により削減する方式である。
 これらの自主管理は見方を変えれば予防的な管理とも言える。規制を行うのに必要なデータが整っていない段階での対策であり,かつ自主管理においては事業者の裁量の余地が大きく(排出削減レベル,削減方法など),事業者の負担を軽減することにもつながる。すなわちリスク管理の効率化である。
 このほか,わが国の化学物質対策で特記すべき事項として,04年の化学物質の審査及び製造等の規制に関する法の改正がある。この法律は環境経由による化学物質から人の健康を守るということにあり,人以外の生物への有害な影響は対象外であった。しかしながら,欧米では古くから化学物質から守られるべきものとして“man and his environment”という考え方が定着しており,昨年の改正により生態系への影響を考慮する観点から,動植物への毒性が化学物質の審査項目に加えられたわけである。
 化学物質は両刃の剣であり,今後はさらなる科学的・効率的なリスク管理のもと,うまくつきあっていく必要がある。
(きたの・まさる=淑徳大学国際コミュニケーション学部・教授)

 
 


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