財団法人労働科学研究所ホームページ出版労働の科学59巻8号
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59巻(2004年)
8号目次

表紙「new armadillo/new cactus」
drawing by itaru itard

特集:教員の仕事とこころ

<俯瞰(ふかん)>職場の病原的雰囲気 なだ いなだ

小田  晋:教師の精神疾患の予防
暉峻 淑子:教師の疲労を悲しむ
鈴木 安名:教員のメンタルヘルスケアへのヒント
広沢 真紀:変貌する教育現場と教員のメンタルヘルス

<産業医学いまむかし(20)>野村  茂: 災害外科から産業外科に
<産業保健の新潮流 〜自主・自律の時代へ〜(5)>木田 哲二:中小企業における労働衛生マネジメントシステム
<トピックス>岩崎健二 ほか:米国NIOSHが中心となって開催した長時間労働と安全・健康に関する会議
<熟練技能のヒューマンファクター(6・最終回) 鳥居塚 崇:熟練技能のヒューマンファクター
<木を見て,森を見る(4)>諏訪 良子:簡単な過重労働対策
<シリーズ・環境問題と社説(4)> 肝付 邦憲:環境問題を問い続けるための背景を問う<3>
<調査レポート> 小林 謙一:介護事業の経営主体と人事・給与管理 〜法人などの種類別比較〜<下>

<cinema>生む? 生まない? 女性の人生の岐路を描く――『カーサ・エスペランサ〜赤ちゃんたちの家〜』(百瀬しのぶ)
<労働科学のページ>48時間断眠状態におけるヴィジランスパフォーマンスの変動−不安定状態仮説の検証を中心に−(久保智英 ほか)/蛍光灯器具用コンデンサーの破裂事故によるPCBs曝露事例(熊谷信二 ほか)/視覚障害者用道路横断帯の標準的敷設法に関する研究(2)(大倉元宏 ほか)/プロトコル分析による自動車運転時の判断過程の分析(北島洋樹 ほか)/日本で市販されている保護手袋における4種類の有機溶剤に対する浸漬試験と透過試験結果の比較(英文)(宮内博幸 ほか)
<books><労働科学叢書111>手腕振動障害―その疫学・病態から予防まで―(小木和孝)
<information and news>
ワークサイエンスニュース
労働科学研究所創立記念83周年記念シンポジウムのお知らせ
労働科学研究所維持会月例研究会開催(国連勧告GHSの産業現場での利用方法)
寄付金のお願い

<俯瞰(ふかん)>職場の病原的雰囲気 なだ いなだ

 精神的健康とはなんだろう。
今,病気だったら健康とはいえない。これは自明の理だ。だが,今,病気でないということは,将来病気にならないという保証ではない。また過去に病気をした人間も,今は症状がないが,免疫を取得して二度と病気にならないというわけではない。現実には再発,再再発するケースも多い。
一応,精神的に成長した人間は病気になりにくいだろうという仮説はある。その仮説に基づいて,ぼくたちは心理療法を行っている。病気と精神的成長とのあいだにどんな関係があるか。病気は人格の成長のきっかけを与えるものでもあるし,生長途中の人格を崩壊させるものでもある。あるいは成長にブレーキをかけている場合もある。
だが,精神的健康には,もう一つの要素がある。自分が病気でないと同時に,他者を病気にさせない,という要素である。こちらは一般には不健康と認識されないから,社会の中に健康そのものという顔でまかり通る。かれらは職場でストレスを作り出す。あるいは組織では,かれらは部下に圧力をかけ,精神的抵抗力の弱い人間を病気にしてしまう。だが,一般社会では,かれらが人格的に未熟であるという認識を持たないし,病気だという考えも持たない。だが,このような人間は考えられている以上に多い。
自分の親としての役割を認識できず,子どもに厳しすぎる父親,甘やかしすぎる母親は,子どもの人格的成長を妨げ,病気の遠因を作る。かれらは病気の症状はないが,子どもたちに圧力を加え病気に追い込みがちである。そのことは家族の研究から明らかになってきた。
また,教育者として自分の信念を絶対化してそれ押しつける人間がいる。ある組織の中から,病気の人間が多く出るという現象がつかめたら,こうした病原的な存在を考えていく必要がある。だが,その人たちが,社会の組織の中で働かせている病原的作用は,一般にはまだ,あまり問題にされていない。
また,集団には集団のもつ雰囲気というものがある。一人の人間が病原的である場合に集団の雰囲気が影響される場合もある。専制君主とか宗教の教組がかもし出す雰囲気の病原性はそのようなものだろう。また,そのような個人で影響を及ぼすものがいなくても,職場の雰囲気そのものが病原的な場合もある。職場全体の無力感とか,極端な競争意識とか,である。
そうしたもろもろのことを視野に入れて精神的な健康は考えられねばならない。日の丸,君が代を強制する雰囲気で,精神的不安定さが生まれるとしたら,ぼくが今述べてきた要素のなにがどのような問題なのか,考えてもらいたい。職場に,病原的な存在になる,精神的成熟の不足した管理者がいないか,互いに足を引っ張りあうような職場の病原的な雰囲気はないか。治療者としても,そのような視点から,精神的病気や健康を見ていく必要があるだろう。
(なだ・いなだ=作家,精神科医)



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