特集:検証 職場の“いじめ”
<俯瞰(ふかん)>職場のいじめについて考える 〜パワー・ハラスメントとは何か〜 金子 雅臣
濱口桂一郎:職場のいじめに対する立法の動き
岡田 康子:防ごうパワー・ハラスメント
老田 潔:「パワハラほっとライン」の声から 〜事例と法的問題〜
佐々木恒男:青森公立大学におけるハラスメント対策の実際
<産業医学いまむかし(16)>野村 茂:炭坑囚人労働と医師たち
<産業保健の新潮流 〜自主・自律の時代へ〜(1)>森 晃爾:自律的産業保健の方向性
<トピックス>日下 幸則:「超硬合金と半導体産業に使用される金属の発ガン性分類」評価決定される 〜国連ガン研究所(IARC)専門家会議に参加して〜
<熟練技能のヒューマンファクター(4)>鳥居塚 崇:建築模型製作における技能
<木をみて,森をみる(2)>諏訪 良子:ヘルスインタビュー
< シリーズ・環境問題と社説(2)>肝付 邦憲:環境問題を問い続けるための背景を問う<1>
<IT産業の舞台裏(13)>サトウヨシフミ:フラフラ
<労働衛生コンサルタント事務所の窓辺(8)>木田 哲二:継続できない……。
<cinema>ただひたすら任務を全うする男たちに感動――『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード」』(百瀬しのぶ)
<労働科学のページ>「労働科学」80巻までを顧みて(野村 茂)/粉塵衛生のあゆみ(第1報)―1960年(昭和35年)頃まで―(木村菊二)/黎明期の婦人労働(石津澄子)/労働者の疲労の研究方法に関する諸問題(斉藤良夫)/高齢化と労働科学(田尾雅夫)/現代社会と労働(高橋祐吉)/大型トラックによる夜間長距離走行時の眠気発生に伴う瞬目・眼球運動指標の変化(鈴木一弥
ほか)/医療事故防止を目的としたインシデントレポート書式の検討―現在のレポート書式の問題点と与薬のプロセスを明らかにする新書式の提案―(神戸美輪子)
<books>管理職のためのパワーハラスメント論(田中江里子)
<information and news>ワークサイエンスニュース/作業環境測定士指定講習会のお知らせ/寄付金のお願い
<俯瞰(ふかん)>職場のいじめについて考える 〜パワー・ハラスメントとは何か〜 金子 雅臣
過去にも学校のいじめがマスコミを賑わし,その背景や原因についても色々と議論をされてきたが,今日に至るも根絶に向かっているという話は聞かない。むしろ,深刻化しており,表面化しないだけだとする見方もある。そして,繰り返される学校のいじめ事件の報道などに登場する当事者や関係者の話を聞いていると,周囲の責任回避や,無責任な言い訳から,それを放置し容認した組織のモラールダウンが見えてくる。
つまり,いじめというのは,いわば腐敗した組織に咲くあだ花であり,その組織のモラールダウンによって起こされるべくして起こされてきたものであるという構造が見えてくる。
●結果から原因に向けて
こうした経験を踏まえれば,“職場におけるいじめ”(パワハラ)も,職場環境の変化や会社組織のモラールダウンという視点が欠かせないことになる。リストラの嵐が吹き荒れる職場が無気力感にとらわれて,陰湿ないじめの温床になったり,男女差別が横行するモラ−ルダウンした職場にセクシュアルハラスメントが起きる。そして,業績一本槍の競争や成果主義によって,足の引っ張り合いが職場のいじめを生み出す。
学校であろうと職場であろうと,こうした原因に着目して,その原因を取り除かない限り,職場のいじめの根絶は難しい。つまり,結果ではなく原因に遡った分析と対処法が必要なテーマだということになる。
●それは労働問題である
リストラが職場のパワハラを顕在化させたように,パワー・ハラスメントとはまさに労働問題そのものである。言い方を換えれば,多くの労働問題のトラブルはパワー・ハラスメントと無縁ではないし,労働問題とされる事件の多くは,いじめが絡むのである。
東京都の労政事務所では,都内で働く労働者の労働相談を受けているが,その数は実に年間5万件を超える。そこには,「解雇された」「賃金を払ってもらえない」「退職金を払ってくれない」「職場で差別を受けている」「セクハラを受けて困っている」「突然,転勤を命じられた」など,職場での多様な悩みが寄せられる。そして,こうした労働相談にまとわりつくようにして職場のいじめが現れる。
●個人的な問題から社会的な問題へ
パワハラについては,これまではいじめる側やいじめられる個人に関心が寄せられてきた。この結果,加害者や被害者の個人的性癖に注目が集まりがちなことで,本当の原因の理解が遅れてきた。職務やその権限を背景に,職務に関連して起こることは無視され続けてきたのである。「やられるほうにもスキがある」「付き合い方を上手にかわしてこそ一人前の大人」「どこにでも嫌な人や気の合わない人はいる」などとすべて個人的な責任とされるため,多くの被害者が訴えることを断念し「泣き寝入り」してきた歴史がある。
パワハラは決して加害者や被害者の個人的な問題ではないし,個人のキャラクターのみで起こされるものではない。そして,そのことはいま,強調され過ぎてもいいくらい,強調しておかなければならないことである。
(かねこ・まさおみ=東京都中央労政事務所労政課・課長補佐) |