「労働の科学」64巻5号

特集:モノの安全・ひとの安心

俯瞰(ふかん)
横井泰治[キッズデザイン協議会]:安全なものづくりとCSR
山岡俊樹[和歌山大学]:安全な製品を設計する
小松原明哲[早稲田大学]:製品事故から学ぶ安全なものづくり
永田久雄[早稲田大学]:製品事故情報の開示と課題
北島洋樹[労働科学研究所]:製品安全における人間工学的視点~ユーザーと製品のインタラクション~

社会の目
矢野栄二:非正規雇用の現状と課題

まさかの化学物質による健康障害と対策(10)
南正康:サリンとその副生成物への被ばく〈1〉

ILOこぼれ話(25)
川上 剛:子供の教育,おやじの思い 

Nature & Humans(2)
菅由美子:人間と自然の回復をめざして~ハワイ古代帆船ホクレア号の叡智から学ぶ~

Talk to Talk
肝付邦憲:人それぞれに

トピックス
尾之上さくら:横浜港開港150周年 時代とともに変わる港湾労働の未来〈1〉

企業に生かすスポーツ心理学(14)

山田泰行:落ち込む部下を励ます一言とは?

産業医徒然語り(5)

ツァンイェイ:けっこう存在する怖い話

オランダだより(2)

長須美和子:出発準備,そしてオランダへ

知りたい てくのロジー(50)

増田忠英:いよいよ「3D」の時代が到来!?~続々と実用化される3次元映像の技術~(後編)

大原コレクション散策

『赤い衣裳をつけた三人の踊り子』エドガー・ドガ・作/柳沢秀行・解説

Cinema

百瀬しのぶ:スラム街から億万長者へ? 世界が選んだ今年最高の作品!――『スラムドッグ$ミリオネア』

からだにいい"いいからかん"料理(38)

長須美和子・小田島玉惠:モザンビークより To(ト)のCALDEIRADA(カルデラーダ)!

Books

大西明宏:臨床歩行計測入門 

 

俯瞰(ふかん):安全なものづくりとCSR  横井泰治

 企業の社会的責任(CSR)とは、企業が利益を追求するのみならず、組織活動が社会に与える影響に責任をもち、多様なステークホルダーからの要求に対して、適切に意思決定することを指すものである。利益を過度に追求せず、むしろ社会に利益を還元し、よりよい生活環境を提供していくこととも言える。
 製品事故との関連でいうならば、ユーザーに健康被害を及ぼすような原材料を一切使用せず、法律で定められた品質や製造方法以上のものづくりを行うことであろう。このことは企業が事業を継続し、利益を上げ続けていくための当然の行動とも言えよう。問題となっている原材料を使ったことがわかれば、製品回収や不買運動によって、経営上の問題にもつながる。CSRに反する行動は、短期的には利益を追求できたとしても、中長期的に見れば利益を毀損するのである。
 一方、製品事故の被害者は直接のユーザーとは限らない。典型的な例は自動車による交通事故である。ユーザーである運転手が起こした事故が、何の罪もない通行者を巻き込んでしまうことが毎年のように報道されている。ユーザーである運転者や同乗者のけがを軽減する工夫は多くの自動車に見られるが、歩行者を交通事故に巻き込まない、万が一交通事故に巻き込まれたとしても軽いけがですむような工夫は、あまり聞いたことがない。運転手の責任と言われることが多いが、企業側でできることは本当にないのであろうか。
 また、想定していないユーザーによる製品事故もしばしば起こっている。典型的な例が子どもの事故である。乳幼児期には、転倒・転落、溺れ、火傷、誤飲・誤嚥といった事故が繰り返し起こるが、これらは一体誰の責任なのであろうか。目を離していた親や管理者の責任とよく言われるが、一時も目を離さずにいることなど、できるはずがない。また、事故にあった子どもの自己責任といっても、問題はまったく解決しない。
 ものづくりにおいて完璧な安全安心を設定することは不可能だが、過去に起きた事故や人間の行動特性などを一つひとつ分析して知識化し、ものづくりそのものに生かしていけば、必ずや事故は減っていくはずである。またそのことによって、ユーザーと想定していない人、あるいは想定していない使い方(子どもの遊びや、親のまねなど)までも視野に入れたものづくりが可能になるのでないだろうか。解決のカギは、企業にすべての責任を押しつけるのではなく、原因は何かをキチンと追求して同様の事故を防いでいくことにある。
 企業がサステナブルにその事業活動を展開し、さらなる発展をとげて行くために何が必要なのだろうか。それは、CSRの視点から、自分自身と社会を見つめ直し、社会全体のソーシャルデザインを考えていくことではないか。その象徴的な考え方が「キッズデザイン」だと考えている。
(よこい・やすはる=特定非営利活動法人キッズデザイン協議会・研究開発部長)