「労働の科学」65巻7号

                               65巻(2010年)

 

7号目次

 

 

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絵画:中世の街 
前田 昌良


fujisan.co.jp

 

特集:人と機械と安全と

俯瞰(ふかん)
小川輝繁[安全工学会,横浜国立大学]:安全工学の役割

向殿政男[明治大学]:機械安全の動向と労働安全衛生
福田隆文[長岡技術科学大学]:機械設計におけるリスクアセスメント
平岡茂樹[AGC 旭硝子(株)]:AGC(旭硝子)グループの機械安全の取り組みと化学プロセスへの展開
特集関連トピックス①
垣内利仁
[アステラスビジネスサービス(株)]:アステラス製薬つくば研究センター(御幸が丘)の安全管理
特集関連トピックス②
松本加津夫
[ヤマハ発動機(株)]:ヤマハ発動機における安全衛生管理

    

働く視覚障害者への支援 ロービジョンケア(4)
井上英子:視覚障害者が就労するために必要なパソコン技能 ~文字処理能力~ 
ILO こぼれ話(39)
川上 剛:フィリピン随想 ~マンゴーの木の下で考える~ 
企業に生かすスポーツ心理学(28)
水野基樹:レジリエンス 
海で働き海で生きる(7)
大橋信夫:日本からギリシャまでの航海経過〈3〉スエズ運河を抜ける 
Talk to Talk
肝付邦憲:愚者のお節介 
オランダだより(16)
長須美和子:虹の国・南アフリカ共和国 
知りたい てくのロジー(64)
増田忠英:思考するだけで,機械を思い通りに動かす ~「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」の技術~ 
産業安全保健エキスパート養成コースNEWS
産業安全保健エキスパート養成コース ~第9期受講者の声〈2〉~
大原コレクション散策
『人質』ジャン・フォートリエ・作/柳沢秀行・解説
Cinema
百瀬しのぶ:不況の波の中,突然訪れた悲劇……それでも人生は続いていく
―『あの夏の子供たち』 
からだにいい“いいからかん”料理(52)
長須美和子・小田島玉惠:夏野菜の油みそ炒め! 
Information & news
第3回国際産業看護・第2回アジア産業看護ジョイント学術集会のご案内
Books
立川公子:男性学の新展開

俯瞰(ふかん):安全工学の役割 小川 輝繁

 私たち人類は、厳しい自然環境に対応するため、あるいは外敵から身を守るために、さらに快適で幸せな生活を求めて工夫し、種々の技術を獲得してきた。特に19世紀後半から20世紀は科学技術が急速に進歩し、高機能材料を開発して複雑なシステムを駆使することにより非常に大きなエネルギーを使いこなして高度な技術社会を作り上げた。しかし、この過程においては、数多くの重大な事故や環境汚染を引き起こし、非常に大きな犠牲を払ってきた。坑道を掘って地下で作業をする炭坑や金属鉱山では一度の事故で非常に多数の犠牲者がでるため、官民を挙げて安全技術の向上や作業環境の改善に取り組んできた。また、重大労働災害の多かった建設業や重工業においても作業の安全化や産業環境の改善に取り組んできた。石油関連産業や化学産業では危険性化学物質による潜在危険が大きな産業である。戦後、各地で建設された石油コンビナートは経済を復興させ、高度経済成長の大きな担い手となったが、これは大量の危険物を取り扱う。また、化学産業では多様な化学物質を取り扱い、近年新しい高機能化学物質が次々開発され、実用に供されており、この中には高い危険性を内在している物質も少なくない。このように石油関連産業や化学産業では、取り扱う化学物質の潜在危険性を抱えており、この危険性は技術の高度化に伴い、大きくなる。  安全工学は、人為的災害防止を目的とした学問分野であるが、特に産業災害の防止の科学技術に取り組んできた。わが国の安全工学は、戦後の産業復興期に成長した重化学工業の大規模火災・爆発災害リスクやエネルギー消費量増大に伴う公害問題に対応するために生まれ、黎明期の研究対象の中心は火災・爆災害の防止技術や公害対策技術であった。その後、産業安全にとっては重要であるが、機械、電気、化学、土木、建築といった個々の工学分野では重要視されないような課題を研究対象としてきた。  産業技術が発達し、われわれの生活水準が高度化するに従い、これに対応して、生産や輸送の産業現場、製品の消費者および製品の廃棄処理におけるハザードが多様化し、かつ大きくなる。しかし、われわれは尊い命を失った、あるいは多大な損害を被った数多くの事故の経験を糧にして、各産業において技術水準や従事者のスキルを高め、安全管理の高度化を図ることにより、産業災害の発生頻度を低下させてきたが、いまだ社会を騒がせるような重大災害は後を絶たない。さらに、高度な産業安全をめざすために、ハード的な技術だけではなく、経営の問題、運転・設備管理などの現場管理、教育・訓練、企業の安全文化などを総合的に考えて、対応策を検討していく必要があり、そのための学術分野の確立に対して安全工学は重要な役割を果たすことが求められている。また、産業安全にとって重要なことは、死亡事故などの重大災害を撲滅することである。重大災害の撲滅を目的とした研究や取り組みが安全工学の重要な課題であると考える。 (おがわ・てるしげ=安全工学会・会長、横浜国立大学・名誉教授)