「労働の科学」65巻2号

                                         65巻(2010年)

2号目次

 

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こころのもり
前田 昌良


fujisan.co.jp

特集:健康オフィス

俯瞰(ふかん)
仲 隆介[京都工芸繊維大学]:オフィスのいま・むかし

岸本章弘[ワークスケープ・ラボ]:知識創造活動を触発するオフィス空間
鈴木信治[明豊ファシリティワークス(株)]:エコオフィスとワークスタイルの両立
吉武良治[日本アイ・ビー・エム(株)]:フリーアドレスオフィス~フリーアドレス制の実体験より~
野瀬かおり[オフィス・ケイ]:健康に働くことができるオフィスづくり
森川泰成[大成建設(株)]:次世代の省エネオフィス
武田一浩[(社)ニューオフィス推進協議会]:オフィスセキュリティマーク認証制度 
特集関連トピックス
労働科学研究所エルゴノミクス研究センター:REAL(労研式エルゴノミック・アセスメント&ラーニング)の視点

労働の鳥瞰・虫瞰(1)
鷲谷 徹:労働力の持続可能性と社会政策
障害のある女性の社会参加 ILO:“Count Us In!”翻訳(序)
菅 由美子:翻訳連載開始にあたって
障害のある女性の社会参加 ILO:“Count Us In!”翻訳(1)
Nature & Humans監訳:第1章 ガイドラインの開発
企業に生かすスポーツ心理学(23)
遠藤俊郎:チームでやる仕事は必ずしも生産的とは限らない?
海で働き海で生きる(2)
大橋信夫:調オイルショック,そのとき船では!
ILOこぼれ話(34)
川上 剛:再生を期す海辺の町~カンボジアのカエプから~
オランダだより(11)
長須美和子:花束を買ってお家へ帰ろう
知りたい てくのロジー(59)
増田忠英:「潜熱」の有効利用で省エネを実現~さまざまな潜熱利用技術~
大原コレクション散策
『外房風景』安井曾太郎・作/柳沢秀行・解説
Cinema
百瀬しのぶ:不幸ではないけど幸せでもない……悩める大人たちの恋と人生の物語――『50歳の恋愛白書』
からだいい“いいからかん”料理(47)
長須美和子・小田島玉惠:コーンの甘み あったかコーンスープ!
Information & News
ワークサイエンスニュース
Books
落合信寿:産業・組織心理学ハンドブック


 

俯瞰(ふかん):オフィスのいま・むかし  仲  隆介

 「あなたのオフィスは、人生の中で一番長い時間を過ごすかもしれない場所として、ふさわしい環境ですか?」こんな質問が、昔ほどは奇異に響かなくなってきているように思う。とてもいいことだと思う。自慢できるオフィス、家族を連れて来たくなるオフィスが、少しずつではあるが、増えてきている。
 オフィス環境は長い間、そこで働く人の関心事ではなかった。住宅のように自分で選び、自分で環境をコントロールする対象ではなく、居心地とか快適性を求める場でもなかった。多くのオフィスは戦場であり、そこには、スチール製の頑丈で無機質な灰色の什器がとてもよくなじんだ。この時代に冒頭の質問が問われることはほとんどなかった。
 そんなオフィスが、1980年代の通産省主導のニューオフィス推進運動をきっかけに、快適性を問われるようになる。オフィスにあったグレーのスチール机や椅子は、白やアイボリーの机とカラフルな座り心地の良い椅子に置き換えられ、快適なオフィスに変化してきた。
 そして、今、冒頭の問いの内容が変わろうとしている。「あなたのオフィスは、自分の人生を豊にするための場に成りえていますか?」オフィスは、マズローの欲求段階の「自己実現」のために重要な場所に変化しつつある。オフィスに求めるものが、安全性、機能性、快適性という低次欲求から、心理的充足を求める高次欲求に変化しつつあるのだ。多くの人が、生活の糧のためだけに働くのではなく、自分が生きている証として、自分を表現する方法として、人生を楽しむ方法として、自己実現の方法として、働いている。そして、オフィスはその舞台なのだ。当然ながら、相応の設えが求められてしかるべきである。
 さて、ここで改めて、オフィスとは何かを考えてみたい。事務作業スペース、仲間のいるところ、仕事をやる気になれる場、会社の職場、嫌な(素敵な)上司のいるところ、生き甲斐を感じる場、コミュニケーションの場、仕事の効率を上げる場所、婚活の場、自分の机があるところ、人生を楽しむ場、給料をもらうために通う場所、などなどさまざまな側面がある。本稿で話題にしているオフィスとは、これらをすべて包含する「働く環境」のことである。入れ物である建物・空間という側面、そこで働く人や組織、その働き方、組織文化、企業文化などの側面。最近はICTによる情報環境も大事な側面である。経営的環境も忘れてはならない。オフィスは、これらすべてを含む、働く人が仕事をするうえで必要なソフト、ハードの両方で構成される総合的環境のことである。そして、オフィスを作るとは、これらのさまざまな側面の<関係性をデザイン>することを意味する。
 さて、今後、オフィスはどこに向かって進むのだろうか。新世代オフィス研究センターで100人のさまざまな立場の人に新世代のオフィスを語っていただいた。この100人分のテキストをもとにテキストマイニングを行ったところ、オフィスを語る際に「生」という言葉が多く使われていることがわかった。「生きる」「生命」「生き甲斐」「生々しい」「生活」などなどである。今のオフィスに足りず、新世代には必要と思われている言葉と言えそうだ。今後、オフィスは、<人が生きる場>としての性格をさらに強めていくことになりそうである。
(なか・りゅうすけ=京都工芸繊維大学・教授,同大学新世代オフィス研究センター・センター長)