「労働の科学」65巻1号
65巻(2010年)
1号目次
特集:育つ産業安全保健のエキスパート
俯瞰(ふかん)
岩田全充[東京電力(株)]:安全健康文化醸成のために
酒井一博[労働科学研究所]:労働科学研究所のエキスパート教育 ~産業界との連携強化~
高橋信雄[JFEスチール(株)]:産業界の安全保健業務エキスパートへの期待と養成について
〈講義ハイライト〉
〈1〉梅崎重夫[労働安全衛生総合研究所]:機械設備の保護方策の基本と設備事故のケーススタディ
〈2〉本林理郎[元日本アイ・ビー・エム(株)]:経営トップの講話
〈3〉余村朋樹[労働科学研究所]:安全分野における研修の内容と方法 ~ヒューマンファクターズから安全文化まで~
〈修了後の自社における取り組み〉
〈1〉川野政彦[電源開発(株)]:エキスパートとしての活動内容
〈2〉椎名和仁[住友電設(株)]:5S活動の進め方
〈3〉長田芳成[関西電力(株)]:安全衛生活動の活性化
ロービジョンケア(1)
高橋 広:「ロービジョンケア」を知っていますか
企業に生かすスポーツ心理学(22)
遠藤俊郎:やる気のない部下を育てる方法は?
海で働き海で生きる(1)
大橋信夫:調査のはじまりとパナマ運河直前のピンチ
Talk to Talk
肝付邦憲:日向へ
ILOこぼれ話(33)
川上 剛:2つのオアシス~バンコクの週末~
オランダだより(10)
長須美和子:家族とのつながり・フランス編
知りたい てくのロジー(58)
増田忠英:自然の原理を利用し,エコで快適な室内空間を実現~「輻射式冷暖房システム」の技術~
大原コレクション散策
『舞踏会の前』レオナール・フジタ(藤田嗣治)作/柳沢秀行・解説
Cinema
百瀬しのぶ:マイケル・ムーア,崩壊したアメリカ金融業界を斬る――『キャピタリズム マネーは踊る』
からだいい“いいからかん”料理(46)
長須美和子・小田島玉惠:北フランス出身・Mathieu(マチュー)の Chicons Gratin(シーコングラタン)!
Books
村田 克:安全学入門-安全の確立から安心へ-
俯瞰(ふかん):安全健康文化醸成のために 岩田全充
わが国の平成20年の業務上疾病による被災者は 8,874人で、ここ5年間上昇を続けている。また、一般健康診断における有所見者は51.3%と過半数を超え、仕事や職業生活にストレス等を感じている人の割合も約60%と報告されている。各企業において、さまざまな安全衛生活動が継続されているにもかかわらず、「不機嫌な職場」が増加しているということが現実であろう。
「安全で健康な職場」はいかにして作られるのか? 最も重要なことのひとつにトップの意識が挙げられる。安全や健康に関する方針が会社方針として挙げられているか、会社のトップが安全衛生委員会の代表になっているか、は不可欠のこととして、各部門、部署の管理者がトップの意思を受けとめて、自らの問題として、自分の言葉で部下に語りかけ、実践しているかが大きな鍵となる。歩行時の指差し確認や、新型インフルエンザが拡大している昨今のうがい・手洗いなど、極めて日常的なことを管理者が自ら実践してみせることが大きな力になる。また、「安全と健康を最重要課題として考え、行動しているか」というようなアンケートを職場の全員に実施して、職層における意識の違いを見ることは、安全健康文化のバロメータとして有効と思われる。自主的な労働衛生管理が求められている今日、現場の問題解決のためには、トップから従業員一人ひとりまで、全員参加の活動が必須であると思われる。
もうひとつの重要な点は、労働衛生管理を実務として実践できるエキスパートの育成ができているか?ということである。日本経済は最近まで「いざなみ景気」の中にあって、各分野で急激なグローバル化を進めてきた。新興国との激しい競争の中で、従業員の安全や健康を支える人材を計画的に育成してきたか? 2008年、サブプライムローン問題に始まった世界景気後退の今こそ、健全経営の柱として、従業員の安全と健康を守るための人材確保が重要と考える。
安全と健康に携わる人材はどのように育成されるのか? 「モノづくり」の現場では作業者育成の手順として,(1)作業者に習う準備をさせる,(2)トレーナーが言ってきかせ、やってみせる,(3)実際にやらせる,(4)フォローアップをする、というステップに従う。安全と健康に関わる人材育成も同様と考える。職場に存在する安全と健康の問題を洗い出す。上司が過去に実際に解決した事例を示したり、うまくいかなかった事例を提示する。部下は洗い出された問題に対して、解決方法を考え、実践する。最後に活動の振り返りを行い、上司、部下が一緒に新たな問題に対応する。このようなサイクルが継続的に回る仕組みが企業にあり、エキスパートが増えてゆくことで、安全衛生組織の役割はより重要なものとして認識されるであろう。
労働科学研究所の「産業安全保健エキスパート養成コース」は、2005年から実施されている。安全・健康・職場環境の3分野にわたってマネージメント能力を有する人材を、問題・課題を解決してゆく中で育成することをめざした意欲的な企画と考える。働く人の安全と健康を支えるのは自分たちだという自負と情熱を持った人たちがこの「コース」に参加し、皆で考え、ネットワークを構築することによって、「安全で健康な職場」が増えていくと考える。
(いわた・まさみつ=トヨタ自動車(株)安全健康推進部・主査,統括産業医)
















