「労働の科学」64巻8号
64巻(2009年)
8号目次
特集:慢性疲労・回復へのアプローチ
俯瞰(ふかん)
小木和孝[労働科学研究所]:現代の疲労
佐々木司[労働科学研究所]:5年間の慢性疲労研究をふりかえって
久保智英[労働安全衛生総合研究所]:慢性的な睡眠不足と心理的ストレスがもたらすリスク
南 正康[労働科学研究所]:われわれが新たに発見した生体内物質と慢性疲労の関係
水野有希[東洋学園大学]・吉川徹[労働科学研究所]:医療従事者の慢性疲労につながる作業要因とその対策
奥村隆志[労働科学研究所]:看護師の安全に対する認識・行動と慢性疲労
松元 俊[労働科学研究所]:慢性疲労に陥らない労働者の特性を探る試み
ミニ特集:この夏はグリーンツーリズム
井上和衛[明治大学名誉教授]:わが国におけるグリーン・ツーリズムの状況
齋藤章一[都市農山漁村交流活性化機構]:グリーン・ツーリズムの感動体験への誘い
企業に生かすスポーツ心理学(17)
原田睦巳:体操競技における団体総合への目標設定~第28回オリンピック・アテネ大会日本代表の例から~
産業保健スタッフの現場から(5)
梶原隆芳:産産業保健現場における診断技術の発展に思いを寄せて
ILOこぼれ話(28)
川上 剛:私たちは妊娠しています~楽しいジェンダーの視点~
産業医徒然語り(8)
ツァンイェイ:産業医のこぼれ話〈2〉
オランダだより(5)
長須美和子:自分の頭で考える授業~「エコバッグ型」?「風呂敷型」?~
知りたい てくのロジー(53)
増田忠英:騒音は「音」で打ち消す~「アクティブ消音(ノイズキャンセリング)」の技術~
大原コレクション散策
『欄干の猫』ピエール・ボナール・作/柳沢秀行・解説
Cinema
百瀬しのぶ:ブーム再燃のプロレタリア文学がスクリーンで蘇る――『蟹工船』
からだいい“いいからかん”料理(41)
長須美和子・小田島玉惠:ファイナル・レシピ チョコレート・ブラウニー!
Information & news
ワークサイエンスニュース
Books
赤堀正成:絵でわかる生態系のしくみ
俯瞰(ふかん):今日の貧困と格差 五十嵐 仁
2008年の末、GDP世界第2位の経済大国の首都のど真ん中に、忽然と姿を現した「年越し派遣村」。食と住を求めて集まってきた「貧しき人々の群れ」は、現代の日本に存在しながら、それまでハッキリとは見えなかった一つの現実を私たちに突きつけました。それは、現代日本における「貧困」という現実です。貧困を可視化したという点で、この「村」の出現は大きな意味を持ったと言えるでしょう。
長らく、貧困は過去のものと思われてきました。確かに、戦後の食糧難の時代には生存を脅かす「絶対的貧困」が存在しましたが、高度経済成長によって「物質的豊かさ」は達成されたかに見えました。その頃、問題とされたのは「心の豊かさ」であり、他と比較しての貧しさ、つまり「相対的貧困」でした。
ところが、今また「おにぎり食べたい」という言葉を残して餓死者が出るような「絶対的貧困」の時代が訪れたのです。
ただし、今日の貧困は、過去のそれとは異なる部分もあります。「絶対的」とは言っても、社会全体の富からすればそれは「相対的」なものだと申せましょう。日本の国富は十分にありながらも、分配の不均衡や再分配の不備によって、それが偏在しているからです。こうして巨大な格差が生まれました。その背景には、政治の貧困という現実があります。
また、貧困の多様性も、今日の特徴であると言えるかもしれません。それは収入や富における貧しさだけではなく、職と住の不安定さや社会的安全網の不備などをも意味しているからです。未来に対する希望の喪失や、平然とクビを切って路頭に放り出すような経営者の心の貧しさなども、現代における貧困の構成部分であると言えるでしょう。唯一の救いは、年末年始を返上して「年越し派遣村」に集まったボランティアの心の豊かさでした。
どのような社会にも格差はありますが、今日の格差は、このような貧困の増大によって拡大したところに特徴があります。富める者が富んだ以上に、貧しい者が貧しくなってしまったからです。これを解決するためには、貧しさをなくさなければなりません。格差を縮小するためには、貧困を根絶し、生活水準全体の底上げを図らなければならないのです。
さし当たり、最低賃金の引き上げ、労働者派遣に対する再規制の強化、非正規労働者の均等処遇に向けての差別の禁止などが必要でしょう。このようにして、働いても生活できないワーキング・プアを一掃しなければなりません。
生活の安定と所得の増大によって堅実な内需を生み出し、収入減→内需の縮小→消費低迷→減産→収入減という「負のスパイラル」から抜け出すことが必要です。貧困の絶滅と格差の縮小こそ、そのための唯一の活路にほかならないのです。
(いがらし・じん=法政大学大原社会問題研究所・所長)
















