「労働の科学」64巻7号
64巻(2009年)
7号目次
特集:生活の貧困と労働の貧困
俯瞰(ふかん)
五十嵐仁[法政大学大原社会問題研究所]:今日の貧困と格差
宇都宮健児[反貧困ネットワーク]:貧困への取り組み
中囿桐代[釧路公立大学]:生活保護の現状と課題 ~働くことと生活保護のあいだ~
龍井葉二[連合非正規労働センター]:新たな貧困問題と労働組合の役割
木下壽國[フリーライター]:派遣切り~国と企業の責任を考える~
赤堀正成[労働科学研究所]:貧困の中の労働/労働の中の貧困師の働き方をかえる
職場で色を考える(1)
真家和生:色覚変異の正しい理解
企業に生かすスポーツ心理学(16)
原田睦巳:体操競技における日本代表選手のメンタルタフネス~選手個人を例に~
産業保健スタッフの現場から(4)
松井春彦:産業保健からスポーツ医学へ
産業医徒然語り(7)
ツァンイェイ:産業医のこぼれ話〈1〉
ILOこぼれ話(27)
川上 剛:多士済々
Nature & Humans(4)
菅由美子:自然からの癒しと叡智――沖縄〈上〉
Talk to Talk
肝付邦憲:共感
オランダだより(4)
長須美和子:オランダでの新学期スタート
知りたい てくのロジー(52)
増田忠英:街全体がメディア化する!?~「デジタルサイネージ」の技術~
産業安全保健エキスパート養成コースNEWS
産業安全保健エキスパート養成コース~第7期受講者の声〈1〉
大原コレクション散策
『道化師(横顔)』ジョルジュ・ルオー・作/柳沢秀行・解説
Cinema
百瀬しのぶ:孤独な大学教授の視線で移民問題に静かに深く切り込んだ名作――『扉をたたく人』
からだいい“いいからかん”料理(40)
長須美和子・小田島玉惠:旬の果物で アンズジャム!
Books
松田文子:職場改善 産業保健人間工学の知恵と妙技
俯瞰(ふかん):今日の貧困と格差 五十嵐 仁
2008年の末、GDP世界第2位の経済大国の首都のど真ん中に、忽然と姿を現した「年越し派遣村」。食と住を求めて集まってきた「貧しき人々の群れ」は、現代の日本に存在しながら、それまでハッキリとは見えなかった一つの現実を私たちに突きつけました。それは、現代日本における「貧困」という現実です。貧困を可視化したという点で、この「村」の出現は大きな意味を持ったと言えるでしょう。
長らく、貧困は過去のものと思われてきました。確かに、戦後の食糧難の時代には生存を脅かす「絶対的貧困」が存在しましたが、高度経済成長によって「物質的豊かさ」は達成されたかに見えました。その頃、問題とされたのは「心の豊かさ」であり、他と比較しての貧しさ、つまり「相対的貧困」でした。
ところが、今また「おにぎり食べたい」という言葉を残して餓死者が出るような「絶対的貧困」の時代が訪れたのです。
ただし、今日の貧困は、過去のそれとは異なる部分もあります。「絶対的」とは言っても、社会全体の富からすればそれは「相対的」なものだと申せましょう。日本の国富は十分にありながらも、分配の不均衡や再分配の不備によって、それが偏在しているからです。こうして巨大な格差が生まれました。その背景には、政治の貧困という現実があります。
また、貧困の多様性も、今日の特徴であると言えるかもしれません。それは収入や富における貧しさだけではなく、職と住の不安定さや社会的安全網の不備などをも意味しているからです。未来に対する希望の喪失や、平然とクビを切って路頭に放り出すような経営者の心の貧しさなども、現代における貧困の構成部分であると言えるでしょう。唯一の救いは、年末年始を返上して「年越し派遣村」に集まったボランティアの心の豊かさでした。
どのような社会にも格差はありますが、今日の格差は、このような貧困の増大によって拡大したところに特徴があります。富める者が富んだ以上に、貧しい者が貧しくなってしまったからです。これを解決するためには、貧しさをなくさなければなりません。格差を縮小するためには、貧困を根絶し、生活水準全体の底上げを図らなければならないのです。
さし当たり、最低賃金の引き上げ、労働者派遣に対する再規制の強化、非正規労働者の均等処遇に向けての差別の禁止などが必要でしょう。このようにして、働いても生活できないワーキング・プアを一掃しなければなりません。
生活の安定と所得の増大によって堅実な内需を生み出し、収入減→内需の縮小→消費低迷→減産→収入減という「負のスパイラル」から抜け出すことが必要です。貧困の絶滅と格差の縮小こそ、そのための唯一の活路にほかならないのです。
(いがらし・じん=法政大学大原社会問題研究所・所長)
















