「労働の科学」64巻12号
64巻(2009年)
12号目次
特集:新型インフルエンザ2009
俯瞰(ふかん)
山崎雅男[東京電力(株)]:新型インフルエンザ(A/H1N1)問題を振り返って~今後への教訓~
吉川 徹[労働科学研究所]:新型インフルエンザ2009の流行からから学ぶもの~これまでの教訓,これからの対策視点~
和田耕治[北里大学]・仲尾 智[産業医科大学]・奈良井理恵[マツダ(株]):新型インフルエンザに関する米国CDCの一般職場におけるガイダンス2009
中野明安・近内京太[丸の内総合法律事務所]:新型インフルエンザ対策と法的リスクマネジメント
古賀賢次[パナソニック(株)]:新型そして鳥インフルエンザにも引き続きの対策を!
坂田晃一[住友金属工業(株)]:住友金属工業における新型インフルエンザへの取り組み
特集関連トピックス
新型インフルエンザの感染予防に必要な呼吸用防護具
ILOこぼれ話(32)
川上 剛:中小企業とインフルエンザ対策~シンガポールのAPEC会議~
トピックス
藤野善久・永田智久・森 晃爾:企業施策における健康影響評価の取り組み~産業保健のパラダイムシフト~
ILOインフォメーション
ILO駐日事務所:2009年総会の成果と2010年の予定
企業に生かすスポーツ心理学(21)
水野基樹:対人間コミュニケーションにおけるストローク
オランダだより(9)
長須美和子:クリスマス・パーティ
Nature & Humans(7)
菅由美子:ダイアローグ劇 風と虹〈下〉
知りたい てくのロジー(57)
増田忠英:ワイヤレスで充電を便利に~「非接触給電」の技術~
産業医徒然語り(12・最終回)
ツァンイェイ:労働衛生は何処に
大原コレクション散策
『雲のある自画像』萬鉄五郎・作/柳沢秀行・解説
Cinema
百瀬しのぶ:冬休みおすすめ,犬とオオカミに涙する感動物語――『スノープリンス 禁じられた恋のメロディ』『ウルルの森の物語』
からだいい“いいからかん”料理(45)
長須美和子・小田島玉惠:エチオピア出身・Beza(ベイザ)のDorowot(ドーローワット) 鶏肉と卵のレッドペッパー・ソース煮グラタン!
Information & news
ワークサイエンスニュース
Books
肝付邦憲:雇用はなぜ壊れたのか――会社の論理vs.労働者の論理リーズ・現代の福祉国家3)
俯瞰(ふかん):新型インフルエンザ(A/H1N1)問題を振り返って~今後への教訓~ 山崎雅男
5月に始まった新型インフルエンザの国内感染は、6月にはいったん収束したかにみえたが、7月中旬以降再び拡がり始め、その後は予想を遥かに上回る勢いで感染拡大が進んでいる。
今後の展開としては、どのようなシナリオが考えられるであろうか。
第一に、現在の第一波が秋以降も拡大しながら続いていくケースである。第二に、病原性を強めた第2波の到来である。そして、第三に、鳥インフルエンザ(H5N1)から強毒型の新たなインフルエンザが発生する可能性である。H5N1型ともなれば、H1N1型とは比較にならないほどの深刻な健康被害と社会的・経済的損失をもたらす可能性が高い。
それでは、迫り来る脅威に向けて、企業はどのような考えで対策づくりを行っていくべきであろうか。
もちろん、危機対策という面からは、強毒型の発生という最悪のシナリオを想定したうえで、事業継続計画(BCP)の策定や感染防護品の備蓄を進めることは極めて重要なことである。しかし、同時に私は、「うつらない・うつさない・ひろげない」ために必要な対策の基本を従業員一人ひとりが確実に実践するよう、企業が今後さらに本腰を入れて取り組むべきであると考えている。
手洗いやうがい、咳エチケット、人ごみでのマスク着用、症状がある場合の外出自粛などの基本対策は、一つひとつを見れば決して難しいことではない。しかし、新型インフルエンザが流行している現在、どれだけの人が自覚を持って実践しているかは疑問である。
舛添厚生労働相(当時)は8月19日、記者会見で本格的流行を宣言するとともに、「病原性が低いこともあり、国民に慢心が出てきたことも感染拡大につながった可能性がある(8月20日 産経新聞朝刊)」と指摘しているが、このことは、見えない脅威に対して危機意識を持ち続けることが、いかに難しいかということでもある。
20世紀最大の疾病といわれるスペインインフルエンザでは、日本でも2,300万人の感染者が発生した。当時の人口は5,500万人というから、実に国民の40%が感染したことになる。
当時とは、社会状況が異なるため単純な比較はできないが、しかし、見方を変えれば、公衆衛生のレベルが現代ほど高くない時代でも、60%の人が感染していないという事実は、注目すべきことである。
国民の多くが何らかの職業に従事していることを考慮すると、全ての企業が、「うつらない・うつさない・ひろげない」ための努力を本気で行えば、社会全体での感染抑止効果は相当大きいはずである。ワクチンも重要だが、ウイルスの感染や発症を完全には防ぐことができない以上、基本対策の確実な実践こそが対策の第一歩であり、従業員とその家族、職場を守る最も有効な手立てであることを再認識する必要があろう。
今回の新型インフルエンザ問題は、企業にとっては、自己の対策や危機管理能力を検証・見直しする良い機会となった。その意味で、次に向けては、これからがまさに正念場である。
(やまざき・まさお=東京電力(株)常務取締役)
















