活動概況
1.安全と健康と環境に関わる三位一体研究の推進
1)安全分野の研究においては、「安全を確保するための仕組み」を評価する「安全文化評価ツール」(SCAT:Safety Culture Assessment Tool)の取り組みの進展が顕著である。SCATを活用する組織が大幅に増え、評価の基準がいっそう安定することによって、使い勝手がさらによくなっている。本年度は、SCATによる安全文化の現状評価だけにとどまらず、組織の安全管理体制を検討し、再構築するという手法を見出すことに成功した。
2)特定奨励費研究において、感情的不健康徴候と意識的な努力による業務遂行状態を捉えることを目的として、集中負荷睡眠短縮期間の前と後でfMRI(functional Magnetic Resonance Imaging;核磁気共鳴法)の測定を行った。具体的には情動機構と注意機構に関する課題を呈示した場合の脳機能変化を調べた。中性、快、不快の3種類の写真呈示を行う情動課題においては、集中負荷睡眠短縮の後に快、不快写真呈示時の内側前頭前野、扁頭体、尾状核頭などの主に大脳辺縁系の賦活低下が認められた。これらのことから、疲労が進展する過程では、情動機構への影響が認められた。
3)過重労働対策の提案を目指して、医療機関および運輸業において現場介入的な手法の適用を図った。医療機関において日進月歩するIT化と、医師、看護師の過重労働の実態、医療安全確保との関連解明をテーマに取り組んだ。現状のITシステム導入は過渡期にあるので、安全性確保のために、当面、(1)帳票類の相互連動により作業の煩雑さを解消する、(2)指示・情報伝達、記録、作業手順を明確にする、(3)医師と看護師間の業務ルールを統一することで指示・情報伝達の齟齬を防ぐ、などの対策が必要である、との中間的な結論を得ている。
また、トラック輸送を対象とした国土交通省の過労防止対策の取りまとめにあたっては、研究所の研究データが大いに役立った。トラック運転の添乗調査を含めた勤務と休息に関する調査結果は、トラック運転者のワーク・ライフ・バランスの評価、運転中の休憩挿入のあり方、有効な睡眠の取り方、荷主と運輸事業者とのパートナーシップへの期待など、過労運転防止への多面的な提案に取り入れられた。
2.産業安全保健分野における高度人材の育成事業
1)産業安全保健エキスパート養成コースは開設5年目を迎え、カリキュラムの見直し、現場実習体制の強化、などの改善を実施した。文部科学省の中間評価において、実績と将来性が評価され、あと1年間、従来通りの補助が継続されることとなった。本年度は第6期(2008年5月~9月)と第7期(2008年10月~2009年2月)の2回、養成コースを計画通りに実施した結果、第1期~第5期までの合計で、132名の修了者を産業界へ送り出した。
2)ヒューマンファクターに関わる教育を産業界において実践した。本教育は、(1)トラブル事例の詳細な分析と、ヒューマンファクターに関連する具体的な教訓の抽出、(2)シミュレーション課題への参加によって、ヒューマンエラー発生の要因理解と、問題解決の実感することが特徴である。
3)過重労働の弊害について産業安全保健の面だけでなく、企業のリスク管理、企業の社会的責任の観点から情報の共有化に努めた結果、人事部員に必要な能力としては、(1)多忙な上級管理職・経営役員に対し、過重労働の現状について、時宜にかなった適切な報告を行う能力。(2)課長レベルで実質的な改善活動を支援し、その結果について遅滞なく報告を行わせる指導性。(3)労働時間数や社内ネットワークの情報だけでなく、労働現場において、管理監督者から業務管理実態および労働負担の概要についてヒアリングする能力、が必要であった。今後、これらの研究成果を反映した教育プログラムの開発をめざし、新規の人材育成事業につなげることとした。
4)作業環境測定士登録講習会を計画通り実施し、多くの修了者を得た。産業界での活用が期待される。
3.創立85周年記念事業
創立85周年記念事業の一環として、2006年12月~2008年3月の間に、延べ25回の連続セミナー(全体テーマ:現代の労働と安全・保健マネジメント)を企画したが、予定通りすべての計画を実施することができた。全体で800名以上の参加者を得ることができ、成功裡に終了した。
4.国際協力
国際協力に関しては、上海応用技術学院と共同で、中国の原子力発電所、化学工場等について現場調査を行い、安全確保のための社会的基盤、技術的基盤の構成要素を分析し、今後の方向性を検討した。また、タイとの国際協力を通じて、医療事故防止のため、緊急かつ重要なリスク評価手法と残存リスク低減策確立のための共同研究を行った。
5.維持会ならびに出版活動
例年通り維持会ならびに出版活動を実施した。経済環境が厳しい中、維持会員数の減少は否めないものの、本年度も数多くの会員からの支援を受けた。会員の期待に応えるべく会員サービスの質を高めるための方策を検討した。次年度からの実践が課題である。出版活動においては、学術誌「労働科学」と普及誌「労働の科学」ならびに単行本を刊行した。














