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ワークサイエンスリポート 紹介(No.1590〜最新号)
<ワークサイエンスリポートの,概要文や前書きなど内容の一部を,抜粋してご紹介いたします>
産業医学の視覚からみた職場メンタルヘルスの諸問題
野村 茂(労働科学研究所主管研究員・熊本大学名誉教授・医学博士)
1.はじめに
ここでメンタルヘルス(mental health)というが、「心の健康と病気」に関する問題の掴みかたは、心理学や精神医学など、その専門分野によって多少とも異なり、同じ用語でもその専門領域によって使い方に相違があったりしている。ここで論じるような問題についても、精神医学の方面では、まず、精神衛生という用語が使われてきたし、その後、厚生省では精神保健、さらに労働省(今の厚生労働省)では、カタカナでメンタルヘルスという用語がよく使われている。
法律では、1950年(昭25)に「精神衛生法」(精神障害者などの医療、保護、発生予防のため、病院や精神衛生センターを設けたり、精神衛生鑑定医を選び、措置入院のことを定めたりした)という法律ができたが、これがたびたび改正された後、1987年(昭62)にこれは精神保健法となっている。そしてこれも1993年(平5)には人権保護を一つの柱とした精神保健福祉法(精神保健および精神障害者福祉に関する法律)となって、精神保健管理は、リハビリ、社会復帰から福祉まで眼をそそぐ任務をもつようになっている。
このように時代とともに用語やその使い方、概念も変遷しているが、外国語も一つの用語に一定の訳語を決めてしまうと、それに振りまわされてしまうことがある。このような落し穴もあるが、日本では日常の会話でも討論の場でも、言いにくいことは、むしろ曖昧なままカタカナ英語で表現することが少なくない。英語やドイツ語の語彙がそのまま日本語の用語とピッタリ一致した表現になるとは限らないのが一般である。例えばクリニク(clinic)という用語も、医師の使う臨床と心理学での臨床とは、ややイメージが違うなどと、このようにカタカナ英語が使われたりするわけである。「精神」、「こころ」「メンタル」その他の用語の使い方も意味もデリケートな違いのあることを、一応心得ながら、ここで、私なりの論議を進めたいと思う。
整理解雇の四要件主義の見直しについて −労働判例にみる判断基準の変化−
野沢 浩(労働科学研究所主管研究員・神奈川大学名誉教授・法学博士)
要旨
最近のナショナル・ウェストミンスター銀行事件の仮処分決定や,その後のミニット・ジャパン事件の決定(平成12年〜13年にかけ共になされた)などでは,1975年代以降我が国の労働事件(整理解雇)につき形成されてきた4要件の必要性を批判し,むしろリストラクチャリングなどの経営上の判断に基づく人事配置処分の優越性とか,退職処分などの必要性を是認するようになってきている。そして整理解雇に必要とされる4要件主義は,「解雇権の乱用」に当たるか否かを判断するための考慮要素の類型化にすぎず,各要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での「法律要件」ではないとの判断を示した。現下の雇用問題に直接関わる判断基準の変更として,一層の研究が望まれる。
ILO労働安全衛生マネジメントシステムガイドライン(ILO-OSH2001)の日本語訳および原文
小木 和孝 (労働科学研究所主管研究員・医学博士)
原 邦夫 (労働科学研究所研究部主任研究員・医学博士)
ねらい
2001年6月に採択されたILOの労働安全衛生マネジメントシステム・ガイドライン(ILO-OSH2001)は,我が国の労働安全衛生の現場に役立つものとしてとくに重要と考え,関係機関から出されている仮訳を参考にしながら,原文に忠実な完訳分を作成した。どういう意味と方向で,今の労働安全衛生マネジメントシステムの国際標準規格が組まれているかを理解する上で役立つと思われる。
色はどのように表現されるのか
井戸 啓介(富山県立大学工学部講師)
概要
日常生活や産業の様々な場面で,色を厳密に言い表さなければならない場合がある。本資料では,規則にしたがって厳密に表現された色の記号や数値の意味と,その背景にある考え方を解説する。
ACGIH(2001年)の有害物質の許容濃度・生物学的曝露指標値
原 邦夫(労働科学研究所主任研究員・医学博士)
花岡 知之(労働科学研究所協力研究員・国立がんセンター主任研究官)
山野 優子(労働科学研究所協力研究員・東京女子医科大学講師)
概要
ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists;米国産業衛生監督官会議)が刊行している有害物質の許容濃度表について,2001年の資料を整理し,前文および注意事項と併せて,その内容を紹介する。
許容濃度表では,個々の有害物質について,時間荷重平均限界値( TLV-TWA )のほか短時間曝露限界値(TLV - STEL)または上限値(TLV - C),および基準設定時のクリティカルな影響(かなり見直されている)が示されている。経皮吸収によって中毒を起こす危険性のあるものにはその旨が記され,超過限界(Excursion limit)についての考え方も示されている。
今年度の勧告で,次の5物質に対してTLVが新たに採用された。:ジブチルヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene:(以前は2,6-ジ第三-ブチル-p-クレゾールとして記載)),グリオキサール(glyoxal),モリブデンおよびその化合物(molybdenum and compounds),酸化プロピレン(propylene oxide),耐火セラミック繊維(合成ガラス繊維(synthetic vitreous fibers)の中の refractory ceramic fibers)。
次の17物質に対するTLV値の変更が予告された。:アセトニトリル,アジンホスメチル,エチレングリコールモノブチルエーテル(2-ブトキシエタノール,ブチルセロソルブ),カプタン,クロロピリホス,ダイアジノン,ジクロボス,ジスルフォトン,1-ヘキセン,メチル-tertブチルエーテル,モリブデン可溶性化合物,モノクロトホス,ハ /ラチオン,プロピレン,炭化カルシウム(シリコンカーバイド),硫酸,キシリジン(ジメチルアミノベンゼン)。
新たに4物質に対するTLV値が予告された。:tertアミルメチルエーテル(tert-amyl methyl ether),1-クロロ-2-プロパノール,2-クロロ-1-プロパノール(chloropropanol),プロピオアルデヒド(propionaldehyde)。
また,21物質は変更予告のまま保留とされた。:ベリリウムおよびその化合物,カプロラクタム,デメトン,メチルデメトン,ジクロトフォス,ジオキサチン,1,3-ジオキソラン,エチオン,エチルベンゼン,硫化水素,イソプロピルアルコール,酢酸イソプロピル,メビンフォス,ネイルド,n-プロピルアルコール,セスキ炭酸ナトリウム(トロナ),テルブカルブ,2,4-および2,6-トルエンジイソシアネート,トリクロフォン,テレピン。
次の8物質に対するTLV値は変更して変更予告に保留とした。:アルシン,n-ブチルアルコール,シクロヘキサン,ディーゼル排ガス・粉じん,ディーゼル燃料,エチルヘキサン酸,オイルミスト・鉱物,木材粉じん。
生物学的曝露指標値の勧告では,n-ヘキサンおよびトリクロロエチレンの2物質が変更予告され,ジクロロメタン(塩化メチレン)はそのまま変更予告に保留とされ,メチル-n-ブチルケトンに対する指標値が予告された。
生物学的浮遊汚染物質の項目を独立させた。現時点ではTLV値あるいは指針値を勧告しうるデータはない。当面,『バイオエアロゾル,評価と管理』に示した指針に沿うよう勧告する。
対象物質を日本語慣用名の五十音順で一覧表とした。濃度は ppm あるいは mg/m3のどちらかのみ示されるようになり,そのまま記した。また,利用者の便宜をはかるため,主な物質について示性式(あるいは分子式)を併記した。
新しい防じんマスクの規格と使い捨て式防じんマスク
木村 菊二(労働科学研究所名誉研究員・医学博士)
まえがき
最近の新しい技術を駆使した高性能の多くのろ過材が開発され,これらの素材として,軽量で使いやすい新しい形式の防じんマスクが造られ,各方面で使用されている。
昨年秋に,防じんマスクの規格が大幅に改正され,従来にも増して,厳しい検定が行われるようになった。しかし,この新しい検定に合格した多くの防じんマスクが市販されるのは,もうしばらくの時間を要するであろう。また,旧規格に合格しているものも,法的には検定合格年度(型式検定合格標章に記載されている)から5年間は有効であるとのことである。
ここで,今回改正された防じんマスクの規格の概要を簡単に紹介してから,使い捨て式防じんマスクに着目して,どのような防じんマスクが造られ,使用されているのか,マスクのメーカーにお願いして,最近の資料を提供していただき,その特徴などを纏めて,マスクの選択及び使用に際しての参考にしていただければと,維持会の資料としてお届けいたします。1.防じんマスクの種類と規格
2.防じんマスクの選び方
3.防じんマスクの着用に際しての留意点
4.メーカーからの資料
私用通話理由の懲戒解雇−英国のある判例からみて−
野沢 浩(労働科学研究所主管研究員・神奈川大学名誉教授・法学博士)
多数の維持会員のための参考資料として,当研究所では所内各研究社のふだんの研究諸データの一端を,維持会員諸氏の参考のために資料集として公開してきている。今回も従来のように労使関係の資料(労働情報)として,英国のIRLB誌660号(MARCH 2001)のCase Notes(pp.10-12)のうちから,参考ケースを紹介してみよう。社用電話や携帯電話の流行社会における係争事件として,参考になればと思い紹介してみよう。.....
科学論文の書き方
Sven Hernberg (訳者:中田 実)
労働・環境・健康を広く扱う国際学術誌の編集経験から、科学論文を書くに際しての力点のおき方と注意事項についてまとめています。独創的な研究成果を公表する目的で書かれる科学論文は、提示した観察結果と知的な検討過程を吟味でき、しかも論理的で明快でなければならないとの立場から、懇切に論文の構成法や書き方を示しています。なるべく標準的な様式に従って、簡潔でわかりやすく報告することと、読者の関心を引きつけながら研究の意義を明確に述べることをとくに重視します。科学論文の構成要素として、題名、著者名、抄録、序論、対象と方法、結果、考察、謝辞と参考文献の9つを挙げています。「序論」で何が問題点かを、「対象と方法」でその問題点をどう研究したかを述べ、その結果何を発見したかの答えを「結果」で、その新発見にはどのような意味があるかを「考察」で述べることを指摘していて、著者の考え方を論理的に、簡明に読者へ伝達するものでなければないと強調します。内容が的確に構成され、簡潔に述べられていることを何よりも重視していて、科学研究や調査の報告がもつべき特性を鮮やかにまとめています。それぞれの構成要素について書く上の心構えとヒントがあって、その完成度を点検するポイントも挙げています。論文誌編集者との対応についても指導しています。科学論文の書き手だけでなく、それを参考にして業務を行う人たちにとっても、価値のある報告を見分ける視点を学ぶことができます。
タイ工業規格TIS18001による労働安全衛生マネジメントシステムの要求事項
小木 和孝
タイ国の労働安全衛生マネジメントシステム工業規格として発行されたTIS18001:1999が実用化している。この規格は、内容的に英国BS8800に沿っている。序文、適用範囲、用語の定義、一般要求事項から構成されている。この要求事項は、(1)初期状況レビュー、(2)方針、(3)計画、(4)実施と運用、(5)点検と是正、(6)マネジメントレビューから成り、現在国際的に進展している労働安全衛生マネジメントシステムの構成をよく反映している。実施と運用の要求事項には、体制と責任、訓練・自覚・能力、コミュニケーション、文書化、購入業務、運用管理、緊急事態対応、警告が含まれる。点検と是正の要求事項には、モニタリング、監査、不適合と是正、記録が含まれる。労働安全衛生マネジメントシステムを導入する企業が、これらの要求事項にそって実施し記録しなければならないと規定している。これからの国際的なマネジメントシステム実施の動向を知る上でよい基礎資料となっている。
ジクロルメタン(DCM)の毒性について
石津 澄子
最近、あるところからジクロルメタン(CH2CL2)という有機溶剤を使っていたら気管支喘息様症状が出て困っている、こういう症状はよくおこるものか?という問い合わせがあった。私は即答できなかったので猶予をもらって古い産業中毒の本を調べたり、今年からさかのぼって、10年間の発表論文まで調べてみたが呼吸器系の炎症症状はおこるが喘息様症状という記載は見いだせなかった。
その代わりといっては不勉強をさらけ出すようでみっともなかったが、この中毒について知らないことを知り面白かったので紹介してみようと思った。
勿論、有機溶剤を専門に研究しておられるかたなら何だ!今頃と思われるかもしれないし、メーカーやユーザーの方なら製品安全データシートで物質の特殊性から危険、有害性、応急処置、火災時、漏出時、保管上の注意から運搬時の事故処理等々にいたるまでまた安全衛生上の管理濃度、許容濃度、有害性の情報に至るまでDCMのことならなんでも……というほど詳細に知っておられるであろう。
残念なことに中小企業ではDCMを毎日扱っていても有害性については責任者でも知らないし、産業衛生学を専門にしている産業医の先生でも知らない方がおられる。
実は私もその一人であったことは冒頭に述べた通りである。
そこで、おそまきながら調べてみるとDCMの中毒症状は急性の大量暴露では麻酔症状がでる。昔はDCMを麻酔薬として使用したことがあり、手術後に急死したというエピソードがある。ただ、解剖しても基質的変化は全く見い出せなかったという。つまり大量のDCMを急に吸入すると神経系に作業し短時間で死亡してしまう。
以前は災害性の事故や操作手順のミスや不注意、換気の悪いところでの中毒が多発していた。.........(「はじめに」より抜粋)
英国1998年労働時間規制の概要
野沢 浩
コメント1
労働科学誌(76巻5号/2000年)において、当研究所労働ストレス研究グループの前原・坂野らが、共著で「男女共通の深夜労働の法規制の現状」およびその「課題」につき、国際比較をふまえながら問題提起の一文を発表した。この一文の中で、イギリスがECの労働時間指令に従わず、逆にEC委員会に提訴(1994年)した訴えが棄却されてしまったことを伝えている。その結果として1998年労働時間規制が、公布施行されたことを伝える。そこで本資料中において、英国法令集(Butterworths: EMPLOYMENT LAW HANDBOOK, 1999年出版)中から上掲規則の主要部分を伝えることにした。またできれば、1993年当時のEC指令の主要部分についても、紹介の機会があるだろう。......あと追いになるとしても、労働科学者が国際基準に目を注ぎ、社会のあるべき行為規範から目をそらさない研究姿勢こそ大切と思っている。ちなみに上記法令集の上掲規則制定の由来については、以下のように欄外に明記してある。
-----公布1998年7月30日:施行1998年10月1日・典拠1972年欧州共同体法第2条(2)とあり、「これらの規則は労働時間に関する共同体指令(93/104/EC)の域内履行なのである」と注記してある。
ダイジェスト 24時間社会と新世紀ワークショップ
佐々木 司
本レポートは2000年6月18日と19日の両日にわたって、スウェーデン国立カロリンスカ研究所・ノーベルフォーラムにおいて行われた「The 24h Society and the New Millennium」と題するワークショップのダイジェスト版である。本ワークショップはスウェーデン国立労働生活研究所の共催、ワーキングライフ2000、国際労働衛生学会・交代勤務科学委員会および欧州睡眠学会の後援で行われた。このワークショップ開催にあたってスウェーデンが音頭をとった背景には、きたる2001年はスウェーデンがEUの議長国となるからである。本ワークショップでは、労働の弾力化、夜勤と早朝勤務、長時間労働、そして短時間労働をとりあげて活発な議論が行われ、総括討論においては以下に示す7つの項目が共通項目として確認された。
・労働生活の弾力化は,ときに労働者の問題としてあらわれる.それゆえ,企業主導型の弾力化と労働者主導型の弾力化を区別することが重要である.
・企業主導型の弾力化のマイナス影響は,十分な労働者数,労働内容と労働時間に対する労働者の意見をとりあげることで解決ができる.
・夜勤や早朝勤務は事故や心疾患のリスクを増加させる
・長時間シフトはしばしばリスクを増加させるが,もし労働者が作業ペース,労働負担,休憩に対する影響や,疲労回復には長い期間を必要とすることを理解するならば受け入れられる.EU指令では勤務間隔時間を11時間としているが,少なくとも14時間にすべきである.
・もし労働者が自主的に残業をするならば,理にかなった残業時間はマイナス影響を示さない.
・短時間労働が健康に及ぼす影響については,いまのところ科学的には評価できない.
・EU労働時間指令が規定する平均労働時間は長すぎる.