労働科学研究所 維持会 ご案内 月例研究会等セミナー ワークサイエンスリポート |
<ワークサイエンスリポートの,概要文や前書きなど内容の一部を,抜粋してご紹介いたします>
どんな「技能」をどのように「伝承」すれば良いのか
細田 聡
「技能伝承」が多くの職場で今日的な問題となっている。通常、熟練技能は、熟練者のみが備えている神業のように見える。すなわち「匠の技」「名人芸」と捉えられてきた。そして、この技能の獲得手段は「習うより慣れろ」「見て盗め」といった不合理な方法しか提供されて来なかった。ところが、最近では、「技能」をもっと多面的に、つまり、当該場面での状況把握、意思決定の仕方、将来発生する問題の予測など、仕事のプロセス全体の中に位置づけようという機運が高まっている。このような動向を背景に「技能伝承」も仕事の中での習得プロセスとして、よりシステマティックに行おうという新たな考え方が提唱されている。
そこで、目まぐるしく変化している産業構造やその形態の中で、今一度「技能」についての捉え方を整理し直し、今日どんな技能が必要とされ、それをどのように伝承すべきかについて考えてみた。(1999年11月維持会月例研究会での講演をまとめたものである。)
ACGIH(1999)の物理的因子のTLVsと日本産業衛生学会(1999)の物理的因子の許容基準、および電離放射線障害防止規則の被ばく限度、レーザー光線障害防止対策要綱
渡辺 明彦 伊藤 昭好
1999年のACGIHのTLVsのうち物理的因子の許容濃度を中心に紹介した。有害化学物質等については、「ACGIH(1999年)の有害物質の許容濃度および生物学的曝露指標値」が、労研維持会資料として出される予定である。ACGIHでは、高温環境ストレス、寒冷ストレス、手腕系局所振動、全身振動、筋骨格系の負担、低周波音、騒音、超音波、ラジオ波とマイクロ波、可視光線と近赤外線、紫外線、レーザー光線、電離放射線、定常磁場、低周波磁場、低周波電場と定常電場をとりあげている。今回は高温環境ストレスとレーザー光線で変更提案がなされている。
わが国では日本産業衛生学会が物理的因子として、高温、寒冷、全身振動、騒音、衝撃騒音と電磁波の許容基準を勧告しており、また手腕系振動についても暫定的に勧告されているので、それぞれACGIHの対応箇所に続いて紹介した。さらに、電離放射線障害防止規則の被ばく限度とレーザー光線による障害防止対策要綱も紹介した。
労働者の睡眠から見た産業疲労管理の新戦略
佐々木 司
「現代人は疲れている」とよくいわれます.日々の自らの生活を振り返っても,「なんとなくすぐれない」感じが常に残っているし,それは職場のフロアですれ違う同僚や通勤電車でみる同類の顔からも読みとれ,へんな共感を覚えてしまうものです.どうしてこうも疲労がすっきりと回復しないのでしょうか.
現代人の仕事のしかたは,時代とともに変わってきました.ここ十数年の間にも,働き方の2つの大きな変化をあげることができます.
その1つは,コンピュータの普及で労働負荷が全身的から局所的に,身体的負荷から精神的負荷に変わったことです.局所的負荷や精神的負荷というのは,労働者にとっては,負荷そのものが小さいために,その疲労の進展を過小評価しやすい性質をもっています.ですから,ついつい疲労を蓄積させやすいのです.
もう1つは現代が国際的規模の競争社会になっていることです.このような国際社会では,競争のために大規模な設備投資がおこなわれ,かつその減価償却を早めるために24時間操業を行うことになります.そのため夜間も働かざるを得ない労働者が増えることになります.
慢性疲労とは,1日の仕事が終わってその晩の睡眠や週末の休日で回復されない疲労という意味です.
そこで,本レポートでは,現代の労働者の疲労,すなわち産業疲労の特徴である慢性疲労を「睡眠」という切り口から捉えてみようと思うのです.
アスコットガイドライン(安全文化指標)の紹介
井上 枝一郎
本資料は、最近安全の分野で話題となっている「安全文化」というトピックスに関し、その概念の全貌と具体化についての優れた著作である「アスコットガイドライン」の一部を紹介するものである。
「アスコットガイドライン」とは、IAEA(Internatinal Atomic Energy Agency : 国際原子力機関) の下部機関である ASCOT(Assessment of Safety Culture in Organ-zations Team) によって、「組織が安全文化の構築を目指す際に目安となる具体的指標」として構築されたものである。当資料は、その中から、このガイドラインの基本コンセプトの理解に役立つと思われる部分を筆者が適宜抜粋したものである。
当ガイドラインは、アスコット(そのメンバー)が、特定の組織を対象にその組織の「安全文化」の度合いを診断するために構成したものである。したがって、その内容は、安全文化概念の解説から、アドバイス・サポートサービス、具体化のためのセミナー実施要領など広汎に亘っている。しかし、本資料では前述のように、「安全文化」概念の理解とその具体化の紹介に着眼点を絞っていることから、これらの点以外の記述は割愛している。
資料として採り上げた部分の要点を本文から引用するならば、それは以下である。
安全文化の視点とは、「セイフティーカルチャーとは、言われただけでは目には見えないものである。しかし、組織を詳細に観察するならば、目に見える特質として把握されるものでもある。それゆえ、組織の背後に存在する”あるもの”を検証する方法を作り上げる事を求めること」、「健全な手続きや良い習慣も機械的に実施されるだけでは不十分である。安全上重要な仕事が、正確に、慎重に、十分な知識に裏付けられて、責任感をもって実行される事を求めること」と記述されている。
ガイドラインの大半は、実際に組織を「安全文化」の観点から診断する場合の具体的着眼項目群を記載したものである。これらは、よくあるようなアンケートの質問項目群として作成されたものではない。実際に現場に赴いて調査する場合のインデックス群である。本文にも記述されているが、安全文化の診断は一片の質問紙の配布と集計で達せられるものではない点を理解しておきたい。
英国・雇用関係法案(Employment Relations Bill)にみる構造変化下の公正(Fairness at work)ポイント
野沢 浩
1998年代からにわかに、英国でも経済構造変化に伴う労働関連法規の制定や、改正が相次いでなされるようになり、それらに関する情報については、既報(野沢:「英国における有期契約fixed-term contractsをめぐる諸問題」労働科学74巻12号;「英国労働党政権下雇用権(紛争処理)法改定(1998年)をめぐって(その1・その2)」労働科学75巻1号・2号)の通りである。
英国の構造変化下での雇用契約や有期契約や、パートタイム労働者の権利等に関しても、「労働の公正さ」(Fairness at work)見地からみた白書発表と、関係法規改正が目下企てられている。参考のため、それらの法改正情報を速報的に伝える。
揮発性有機化合物(VOCs)についての知見と実測例
原 邦夫
揮発性有機化合物(VOCs)に関連した最新の知見を整理し、現時点でのVOCsをめぐる課題を明らかにすることをねらいとした。
1999年3月の維持会例会での講演内容を再構成した。前半の最新の知見に関しては口語的表現を生かし、後半の調査結果は報告書の形式とした。
まず、揮発性有機化合物(VOCs)の研究を思い至った現状認識を示し、現在の研究動向を概観した。
つぎに、多くの研究所達によって得られている現在までの知見を整理し、シックビル症候群、化学物質過敏症、VOCsの放散メカニズムなど、VOCsを理解し把握する際に必要な関連する基本的な要素について、最新の情報を整理して示した。また、VOCsに対する取り組み、評価方法などをまとめ、現時点でのVOCsをめぐる到達点および課題をまとめた。
最後におおよそ2年間オフィス等で行ってきたVOCsに関わる調査の結果について、実態把握に重点を置いて整理し、今後の研究の方向を展望した。
在宅テレワークと移動テレワーク −職務特性、心理的充実感、持ち越し影響に関する検討−
ケヴィン・ダニエルス 小木 和孝(訳)
テレワークは、従業員が遠く離れた場所にいて働くことを可能にする最近発展した就業形態である。テレワーク業務が労働者の労働意識、労働への心理反応、労働外生活に及ぼす影響について、研究開発技術者188名を対象に調査を行った。在宅テレワークと移動テレワークについて、その週間頻度別に分析を行った。在宅テレワークの度合いの多少は、労働に関連しての心理的充実感にも職務特性の受け取られ方にも影響していなかったが、移動テレワークの度合いの多少は、職務の自律性の認識、意思決定への参加、作業の多様性、職務要求、役割葛藤、役割の明瞭さやキャリア機会の受け取られ方に関係していた。移動テレワークの多少はまた、労働から労働外生活に持ち越される不利な影響に関係していた。在宅テレワークの場合、労働に関連した不安の多少によって労働外生活に持ち越される影響が異なっていた。これらの結果から、この新しい分野の検討をすすめるには、労働と労働外領域のそれぞれの特徴を調べ、労働から労働外生活に持ち越される影響を心理的要因を含めて検討していく必要があることが示唆される。
VDT作業の近況 −最近の実態調査から−
遠藤幸男
VDT作業は職場において当初は特定の人に限られていたが、OA化の進展にともない最近ではほとんどの人がなんらかの形でタッチしており、今日では誰にとっても普遍的な仕事のようになっているようである。私達の維持会会員訪問に際して、VDT作業に関してのご質問も少なくないことからここでは参考までにと思い、最近行われた実態調査の結果からVDT作業の一端についてその事例の一つを資料として紹介するものである。
この調査というのは、業種はある金融機関の事業所で、毎回男女各約1千人、合計約2千人を調査対象者とし、隔年毎に実施しているもので(最近の実施は平成9年12月上旬に実施)、アンケート方式による健康実態調査の資料によるものである。ここではその中からVDT作業に関連のある項目の部分を取り出しまとめたのである。
自動車運転時の眠気発生の特徴とその検出手法
北島洋樹
自動車運転免許保有者は、現在ほぼ7, 000 万人に達し、国民の半数以上が自動車を運転することが可能という時代になった。これに伴い、交通事故件数も増加しつつある。交通事故を防ぐために、
(1)交通安全教育の普及、
(2)新交通システムの研究・開発、
(3)運転支援装置を装備した、ハイテクインテリジェントカーの研究開発、
など、様々な方策が講じられている。
運転に対する安全意識を高めるには、事故原因を知ることや、運転中の生理状態についての正しい知識を持つことも重要であると考える。本稿では、多くの自動車運転者が経験したことがあると思われる運転中の眠気の発生過程を例としてとりあげる。自動車運転時の眠気発生の基礎的な過程について理解を深めることは、その他の状況における眠気の予防に関しても有効であると思われる。
さらに、上記(3)とも関連させ、運転に危険な眠気の程度をまばたきや、運転者の行動の変化から事前に検出する手法を紹介する。
最後に、一般的な眠気の原因とその原因に対応した、居眠りの予防法の例を紹介する。
防災カーテンによる室内汚染について
石津澄子、伊藤昭好、橋田ちせ
数年前から近代建築のビルまたは一般住居の室内空気汚染が問題となり、すでにホルマリンや建材の接着剤などからでる有害化学物質の種類があきらかにされつつある。このような情勢の中で最近火災による被害を最小限に食い止めるために衣類や室内品に難燃剤処理をすることが多くなり、たとえばカーテン、敷物、カバーなどから何か有害ガスがでるのではないかといわれるようになった。
勿論、これについてはなんらかの科学的データもなく、過去に分析された事実もないので不明というほかはなかった。
そこで日本防炎協会はこれを明らかにするためモデル実験をすることを企画し、2週間の期間で実施し、その内容についてまとめた。
リーダーシップとチームワーク
細田 聡
職場集団や組織などを、構造的・機能的にとらえる上で、「リーダー」や「リーダーシップ」の概念は不可欠である。この言葉は、同僚関係の中あるいは企業組織内などで日常的に様々な文脈で用いられる。書店にあるビジネス書の本棚を覗くと、職場でリーダーになるための何箇条、こうすれば良いリーダーシップを発揮できる、といった類の書籍も目に付く。また、マスコミも「理想の上司は?」などとアンケート結果を発表したりする。
この「リーダー」や「リーダーシップ」について、古今東西から関心が持たれ、多くの研究者がこのテーマに取り組み、様々なモデルや理論を提唱してきた。最近の知見によれば、興味深いことに、「リーダー」と「リーダーシップ」の用語法の主客転倒が生じている。というのは、本来「リーダー」という言葉がはじめにあり、そのリーダーのありようを定義したのが「リーダーシップ」であったはずである。ところが、最近では「リーダーシップ」がはじめにあり、その概念に最も近い人物を「リーダー」とみなす、というように変化してきた。
では、そのリーダーシップの定義はどうなのかというと、これもまた研究者間で様々に唱えられているのが現状であり、確定した定義は見あたらない。ここでは、やや包括的な意味で「リーダーシップ」を機能として捉え、仮に以下のように定義しておきたい。すなわち、「リーダーシップ」とは「集団の目標を達成するために、個々のメンバーの態度や行動について、統合的組織化を行い、それをさらに一定の水準に維持またはその水準を向上させる集団全体の機能である」と。
しかし、これとは別に、企業組織内では、「リーダーシップ」とは職場チームの業績を上げるためのチーム統率力・指導力である、といったチームの生産性との関係で述べられる傾向が強い。極端に言うならば「チームメンバーを手足のように効率的に動かすにはどうしたらよいのか」という発想が未だにその根底にあるように思われる。このことは、企業内教育の一つとして、必ずといってよいほど実施されている「リーダーシップ教育」にも現れている。その教育は、「生産性の高いチームにするためには?」というテーマで実施されているのが実状ではないだろうか。もちろん、職場集団としてのチームは、生産性を前提として存在することはいうまでもない。しかし、仕事に対する各チームメンバーの成熟度が高く、各人がいわゆるプロフェッショナルである場合、リーダーの特別な指導がなくても、業務は遂行され得る。また、技術的進歩に伴い、自動化が進んだ最近の職場では、リーダーがチームメンバーに技能的指導をする必要性も以前よりは低くなっている。それ故、かつてはリーダーの役割であると考えられていたことが、今ではそれを発揮する場がない状況へと変わってきた。このことから、生産性の観点からだけでリーダーシップを説く意義は以前ほど強くないと考えられる。
ここでは、まずリーダーとチームの関係について、従来よりどの様な知見が得られているのか概観する。