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更新: 2009年3月4日

医療施設における呼吸用防護具利用の良好実例と課題

-新型インフルエンザの流行に備えて-

財団法人労働科学研究所国際協力センター 吉川徹

1.標準予防策と感染経路別予防策

2. 新型インフルエンザの想定される感染経路と呼吸用保護具

3.ユーザーシールチェックとフィットテスト

4.国内での利用経験から

5.医療施設における呼吸用防護具利用の課題

6.労研式マスクフィッティングテスターについて

1.標準予防策と感染経路別予防策
日本の医療施設における感染対策は、疫学的な根拠に基づく感染対策として米国疾病管理予防センター(CDC)が1996年に発表した「病院における隔離予防策ガイドライン(1996)」に基づき「標準予防策(Standard Precaution: SP)」と空気・飛沫・接触など主に3つの感染経路からなる「感染経路別予防策」に準拠しています。病原体の感染経路を知らず、必要以上に過剰な対策をとることは非科学的で、費用と労力の浪費につながることから、感染経路や病態に応じて、必要な対策を必要な期間、徹底して行うことが重要です。

2. 新型インフルエンザの想定される感染経路と呼吸用保護具
新型インフルエンザは飛沫感染・接触感染すると予想されます。飛沫感染とは、5μmより大きい微生物を含む飛沫粒子が、会話や咳、くしゃみや気管内吸引処置などにより周囲に飛散(通常1-2m程度)して伝播し、周囲の感受性のある人の結膜や鼻口腔粘膜に沈着して感染が成立します。したがって、日常生活でのインフルエンザ感染予防策としての呼吸用保護具は通常の不織布(ふしょくふ)マスクで十分です。患者と同室に長時間滞在する、診療や治療などで患者と濃厚に接する場合には空気感染の可能性が指摘されていて、より高い密閉性が得られるDS2またはN95規格以上の微粒子用マスク(以下DS2/N95マスク)の着用が必要です。また、一般事業場等で新型インフルエンザ対策としてDS2/N95マスクを購入している場合を耳にしますが、飛沫感染予防のためにこれらの高性能のマスクを利用することは資源の無駄です。さらに、あえて補足するとすれば、一般の人が装着にトレーニングが必要な高性能のDS2/N95マスク を使用することは、特に勧められません。一般の人がこのマスクを購入することで、本当に必要な医療従事者がマスクを入手しにくくなる可能性があります。また、DS2/N95マスクの着用は呼吸がしづらい場合もあり、有害なこともありえます。

3.ユーザーシールチェックとフィットテスト
呼吸用防護具の有効性を決定する因子の一つに顔面へ密着性があります。より高い密閉性が得られるDS2/N95マスクの面体と顔面の間に隙間ができる原因として、1)顔のサイズや骨格に合っていない、2)マスクのゴムが緩んでいる、3)正しくない位置にある、4)あご髭などでマスクが密着できないなどが指摘できます。DS2/N95マスク着用時には毎回、空気が漏れていないかユーザーシールチェック(密着性確認試験)を行う必要があります。
自分の顔に合ったマスクを選ぶフィットテストには、定性的な方法と定量的な方法があります。定性的なフィットテストは一般的には、フードをかぶってサッカリン等の見各成分を吹きかけ、着用者が甘みを感じるか否かを試すもので、米国労働安全衛生機関(OSHA)の基準などが国内でも参考にされています。3Mなどのメーカーの協力を得て実施している医療機関が増えています。定量的な試験法には国内では1980年代に木村が開発した労研式マスクフィッティングテスター(MT-03型、柴田科学(株))を用いたものが知られています。本機器は室内に浮遊している粉じんを用いて、粉じん測定器にはパーティクルカウンターを利用し、装着した防じんマスクの外側と内側の粉じん数濃度を測ることで、防じんマスクの顔面への密着性を定量的に求めることができます。本機器は、数値的に漏れ率の程度が分かり、繰り返し測定でき、利用は極めて簡便であることから産業用マスクの密着性試験などでその利用が進んでいます。医療施設においても川辺ら(2004)が本機器利用の有用性を報告しています。

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着用時に毎回実施するユーザーシールチェック(左写真)と、自分に合ったマスクを選び、そのつけ方を確認するための定量的フィットテストの様子(右写真はマスクの漏れ率を定量的な確認する試験)写真協力:足柄上病院高橋脇先生、荏原病院感染管理認定看護師黒須一見さん。

4.国内での利用経験から
複数施設で国内の医療従事者に対して労研式マスクフィッティングテスターを利用した遠藤らの研究では、異なるN95マスク(カップ型マスクA(n=64)、折畳型マスクB(n=74)、接顔クッション付カップ型マスクC(n=75)の初回測定で漏れ率が10%以下であったものはそれぞれ、4.6%(漏れ率10%以下3名/対象全数64名、以下同)、54.1%(40/74)、92.0%(69/75)で、2-4回目までの繰り返しの測定で漏れ率が10%以下となったものは30.8%(20/64)、90.5%(67/74)、100%(75/75)でした。いずれのマスクも測定回数を重ねる毎に漏れ率が改善しました。DS2/N95マスクの種類によって、装着指導により漏れ率が改善するもの・しないもの、指導がなくても最初から漏れ率の低いものなどがあることが指摘されています。また、着用前に説明書を読む、ユーザーシールチェックを確実に行う、鼻・顎・紐を自分の顔面に合わせて調整する、装着指導者による適切な指導等が重要であると考えられます。

5.医療施設における呼吸用防護具利用の課題
現場の感染管理担当者との共同作業から、私たちの国における医療施設における呼吸用防護具の正しい普及にあたっては、1)良質な製品の普及とコストの課題、2) 科学的根拠に基づく感染予防の正しい情報の周知、3)現場の慣行に根ざした教育・トレーニング手法の開発と人材の育成の3点が重要と考えます。
 通常の不織布製マスクが一枚あたり20円前後に比べ、DS2/N95マスクは数百円のコストがかかり、マスクの性能よりも値段で院内の採用が決まる場合も少なくありません。また、米国では医療施設において空気感染リスクの高い処置時には、電動ファンつき呼吸用保護具(Powered Air-purifying Respirator: PAPR)の着用を推奨しています。わが国のPAPRで産業用に用いられているものは、見た目や使い勝手などから医療施設でそのまま利用しにくく、患者や医療従事者にとって利用の抵抗感が強い印象です。いくつかの病院で国内で利用しやすいPAPRの開発も進められています。PAPRは空気感染予防に効果が高いため、わが国の医療施設の現状にそくしたPAPRの開発が求められています。加えて、横浜市立大学の満田先生らが、呼吸用保護具の日本環境感染学会等を通じ、適切な保護具利用に関して情報を発信をされています。日本環境感染学会のウエブなどから感染経路別予防策と適切な保護具の利用方法などの正確な情報を得ることが重要です。
現在各医療機関では感染管理担当者がこれらのマスクの装着指導をメーカーのサポートを受けながら実施していますが、医療施設においてフィットテストを確実に実施できる技術を持つ指導者(フィットテストプロバイダー)の育成のしくみつくりが必要です。定量的なフィットテストに利用が考えられる、MT-03型は高額のため簡単に各施設で購入できず、新型インフルエンザ流行時の爆発的な需要に対応できにくいと考えられます。定性的フィットテストがやはり最も簡便で重視されるゆえんですが、今後のわが国の技術開発に期待したいと思います。

6.労研式マスクフィッティングテスターについて

フィットテストは定性的な方法と定量的な方法がありますが、定性的なフィットテストは一般的には、フードをかぶってサッカリン等の見各成分を吹きかけ、着用者が甘みを感じるか否かを試すものです。一方、定量的なフィットテストとして労研式マスクフィッティングテスター(MT-03型、柴田科学(株))を用いたものが知られています。本機器は普通の室内に浮遊している粉じんを用いて、粉じん測定器にはパーティクルカウンターを利用して、装着した防じんマスクの外側と内側の粉じん数濃度を測ることで、防じんマスクの顔面への密着性を定量的に求めることができる測定器です。1980年代に労働科学研究所の木村菊二と柴田科学よって開発されました。本機器は、数値的に漏れ率の程度が分かり、繰り返し測定でき、利用は極めて簡便であることから産業用マスクの密着性試験などではその利用が進んでいます。医療機関における空気感染予防、新型インフルエンザ対策などを視野にいれてDS2/N95マスクの利用を想定する際には、測定が簡便な本機器の活を通じて、労働者個人に最も合ったマスクの選定と、漏れ率の最も少ない効果的な着用方法の指導を進めることができます。

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写真 木村菊二氏による労研式マスクフィッティングテスターの使用法の指導の様子

参考文献

1) Center for Disease Control and Prevention (CDC): Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007. ?http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/Isolation2007.pdf. Accessed September 24, 2008
2) National Institute for Occupational Safety and Health (NIOSH): Respiratory Protective Devices; Final Rules and Notice. Federal Register 60(110): 30336-30398. Washington, D.C.: U.S. Government Printing Office, Office of the Federal Register, June 8, 1995.
3) 労働省告示第十九号 防じんマスクの規格. 1988. 3. 30
4) Lee K, Slavcev A, Nicas M: Respiratory protection against Mycobacterium tuberculosis: quantative fit test outcomes for five type N95 filtering-facepiece respirators. J Occup Environ Hyg 2004 Jan;1(2):22-8.
5) 川辺芳子,田中茂,永井英明,鈴木純子,田村厚久,長山直弘,他.マスクフィッティングテスターを用いたN95マスクの顔面密着性の定量的評価と装着指導,結核,2004.40.443-448.
6) McMahon E, Wada K, Dufresne A: Implementing fit testing for N95 filtering facepiece respirators: Practical information from a large cohort of hospital workers. Am J Infect Control 2008;36:298-300.
7) Occupational Safety and Health Administration (OSHA): Fit Testing Procedures (Mandatory). Part 1910, Section 134, Appendix A.
8) 木村菊二.防じんマスクの顔面への密着性に関する研究(第3報)-MASK FITTING TESTER について-,労働科学,1991.67巻.11号.517-524.

 

<連絡先:吉川 徹(よしかわ とおる)> 
財団法人労働科学研究所国際協力センター
TEL: 044-977-2659(直通)または044-977-2121(代表) FAX: 044-976-8659
E-mail address: t.yoshikawa@isl.or.jp  Homepage: http://www.isl.or.jp/ICC/